宮崎駿はミリタリーが好きなのか、それとも憎んでいるのか
「僕は、政治的には再軍備も反対だったし未だにPKOも反対な人間なんですけれど、軍事的なことについて、一貫して興味を持っているんですね」
アニメージュ95年12月号で、宮崎駿が述べた言葉です。
かつてから宮崎駿の作品を見ている人なら、彼がどれだけ軍事的なものに興味を示しているかはよくわかるはずです。
『宮崎駿ワールド大研究』は、数多くの宮崎駿作品から、彼が何を考え作ってきたのかを考察した本です。
その中に「宮崎駿ワールドのメカ大解剖」というコーナーがあります。
ここで「宮崎駿はミリタリーオタクである。それは間違いない」といきなり切り込みながら、『未来少年コナン』などから『風立ちぬ』まで、彼のミリタリー趣味について分析されているのが非常に面白い。
「それで、まあ不思議なことがいっぱいあるわけです。なんて愚かなことをするんだろうってなようなことがね。それを何十年もやってますと、雑学って溜まってくるんですよ。で、溜まってくると出したくなりますから、その妄想を描いて……(笑)」
宮崎駿は、ミリタリーに対しての葛藤をそのまま述べていました。
彼が吐き出したミリタリー愛として有名なのは『宮崎駿の雑想ノート』と『泥まみれの虎ー宮崎駿の妄想ノート』。
アニメ『紅の豚』の原作になる『飛行艇時代』は、『雑想ノート』の中に収録されています。
出てくるのは泥だらけの戦車だったり、潜水艦だったり、飛行艇だったり。
もうどこからどう見ても、ミリタリーへの妄想・雑想があふれているのは、手に取るようにわかります。
この本ではそんな宮崎駿の『雑想ノート』を軸とした活動を、「宮崎ワールドのB面」と呼んでいます。
宮崎駿の描く軍事機械は、なかば本物、なかばファンタジーという不思議なもの。
実は『紅の豚』の真っ赤なサボイアも、マッキM33をモデルにしているものの、小学校の時見た写真一枚の記憶を頼りに、完全に妄想で作り上げたもの。
『紅の豚』にはダボハゼ号という巨大飛行艇も登場しますが、これは『未来少年コナン』にはじまり、『ナウシカ』や『ラピュタ』でも登場するもの。
そもそもあれどうやって飛ぶの?
この「どうやって?」を考えるのが楽しいわけですよ。
実際、『雑想ノート』10話「ロンドン上空1981年」で、どう飛ばしたかを表現したと、この本は書きます。
溜まってきたイメージや知識を解決するための表現として、宮崎駿のB面『雑想ノート』は膨らんでいきます。
「空想」の楽しさです。
ところが、宮崎駿のA面である映画ではそればかりではいきません。「現実」があります。
『紅の豚』ですら、結局どこが舞台で何の内戦がおきたのかわかりません。ぼかしたままです。
ミリタリーへの関心と、戦争への批判。絶対にぶつかり合う矛盾です。
それを表に出したのが、映画『風立ちぬ』です。
零戦の設計者堀越二郎を主人公にし、モデルグラフィックス誌で連載していたこの作品。
「戦争は良くない」「ミリタリーは好き」
A面である宮崎駿映画で、彼が抱えている両面の思想をむき出しにした、妄想と現実を戦わせる「覚悟の作品」になりそうです。
その他にもこの本では色々なテーマが扱われています。
なぜ子どもたちは宮崎駿作品を好きになるのか。
スタジオ・ジブリの後継者はどうなるのか。
宮崎アニメはなぜ声優を使わなくなったのか。
ナウシカはなぜ人を殺したのか。
宮崎アニメは本当に自然愛を描いていたのか。
今までの作品内容やインタビューが多数引用され、考察されています。
宮崎アニメは単純ではなく、かなりいびつな多重構造になっている。その源流が見えるので、参考になるはずです。
もちろんこここに書かれていることが解答ではなく、あくまで実際にアニメを見て自分なりの答えを探すためのヒント集。
それができるから、宮崎アニメ面白いんだよなあ。
個人的にハッとなったのは、『風立ちぬ』のコピー「生きねば。」について。
『雑想ノート』の「ハンスの帰還」では「ドイツ敗残兵には正義も名誉もない、しかし生きねばならんのだ」、「最貧前線」では「生きねばならん」とあります。
ははあ、『もののけ姫』の「生きろ」ではなく、こっちっぽい。
生きるわー。
『宮崎駿ワールド大研究』
『宮崎駿の雑想ノート』
『泥まみれの虎ー宮崎駿の妄想ノート』
(たまごまご)
アニメージュ95年12月号で、宮崎駿が述べた言葉です。
かつてから宮崎駿の作品を見ている人なら、彼がどれだけ軍事的なものに興味を示しているかはよくわかるはずです。
『宮崎駿ワールド大研究』は、数多くの宮崎駿作品から、彼が何を考え作ってきたのかを考察した本です。
その中に「宮崎駿ワールドのメカ大解剖」というコーナーがあります。
ここで「宮崎駿はミリタリーオタクである。それは間違いない」といきなり切り込みながら、『未来少年コナン』などから『風立ちぬ』まで、彼のミリタリー趣味について分析されているのが非常に面白い。
宮崎駿は、ミリタリーに対しての葛藤をそのまま述べていました。
彼が吐き出したミリタリー愛として有名なのは『宮崎駿の雑想ノート』と『泥まみれの虎ー宮崎駿の妄想ノート』。
アニメ『紅の豚』の原作になる『飛行艇時代』は、『雑想ノート』の中に収録されています。
出てくるのは泥だらけの戦車だったり、潜水艦だったり、飛行艇だったり。
もうどこからどう見ても、ミリタリーへの妄想・雑想があふれているのは、手に取るようにわかります。
この本ではそんな宮崎駿の『雑想ノート』を軸とした活動を、「宮崎ワールドのB面」と呼んでいます。
宮崎駿の描く軍事機械は、なかば本物、なかばファンタジーという不思議なもの。
実は『紅の豚』の真っ赤なサボイアも、マッキM33をモデルにしているものの、小学校の時見た写真一枚の記憶を頼りに、完全に妄想で作り上げたもの。
『紅の豚』にはダボハゼ号という巨大飛行艇も登場しますが、これは『未来少年コナン』にはじまり、『ナウシカ』や『ラピュタ』でも登場するもの。
そもそもあれどうやって飛ぶの?
この「どうやって?」を考えるのが楽しいわけですよ。
実際、『雑想ノート』10話「ロンドン上空1981年」で、どう飛ばしたかを表現したと、この本は書きます。
溜まってきたイメージや知識を解決するための表現として、宮崎駿のB面『雑想ノート』は膨らんでいきます。
「空想」の楽しさです。
ところが、宮崎駿のA面である映画ではそればかりではいきません。「現実」があります。
『紅の豚』ですら、結局どこが舞台で何の内戦がおきたのかわかりません。ぼかしたままです。
ミリタリーへの関心と、戦争への批判。絶対にぶつかり合う矛盾です。
それを表に出したのが、映画『風立ちぬ』です。
零戦の設計者堀越二郎を主人公にし、モデルグラフィックス誌で連載していたこの作品。
「戦争は良くない」「ミリタリーは好き」
A面である宮崎駿映画で、彼が抱えている両面の思想をむき出しにした、妄想と現実を戦わせる「覚悟の作品」になりそうです。
その他にもこの本では色々なテーマが扱われています。
なぜ子どもたちは宮崎駿作品を好きになるのか。
スタジオ・ジブリの後継者はどうなるのか。
宮崎アニメはなぜ声優を使わなくなったのか。
ナウシカはなぜ人を殺したのか。
宮崎アニメは本当に自然愛を描いていたのか。
今までの作品内容やインタビューが多数引用され、考察されています。
宮崎アニメは単純ではなく、かなりいびつな多重構造になっている。その源流が見えるので、参考になるはずです。
もちろんこここに書かれていることが解答ではなく、あくまで実際にアニメを見て自分なりの答えを探すためのヒント集。
それができるから、宮崎アニメ面白いんだよなあ。
個人的にハッとなったのは、『風立ちぬ』のコピー「生きねば。」について。
『雑想ノート』の「ハンスの帰還」では「ドイツ敗残兵には正義も名誉もない、しかし生きねばならんのだ」、「最貧前線」では「生きねばならん」とあります。
ははあ、『もののけ姫』の「生きろ」ではなく、こっちっぽい。
生きるわー。
『宮崎駿ワールド大研究』
『宮崎駿の雑想ノート』
『泥まみれの虎ー宮崎駿の妄想ノート』
(たまごまご)