名大など、「汎発性膿疱性乾癬」の病因を解明

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名古屋大学(名大)は5月23日、国内12施設との共同研究により、「汎発性膿疱性乾癬」の8割以上の患者の病因が、炎症性サイトカイン「インターロイキン36(IL-36)」が受容体に結合するのを防いで炎症を抑制する「IL-36受容体阻害因子」の欠損であることを解明したと発表した。

成果は、名大大学院 医学系研究科 皮膚病態学の杉浦一充 准教授、同・秋山真志 教授らの研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、米国東部時間5月22日付けで米国研究皮膚科学会と欧州皮膚科学会の共同公式誌「Journal of Investigative Dermatology」に掲載された。

汎発性膿疱性乾癬は、厚労省の難治性疾患克服研究事業における130ある臨床調査研究対象疾患の内の1つで、急激な発熱と共に全身の皮膚が潮紅して「無菌性膿疱」が多発することが特徴の慢性炎症性皮膚疾患(画像1)。生涯にわたって再発を繰り返し、経過中に全身性炎症を伴う臨床検査異常を示し、しばしば粘膜症状、関節炎を合併するほか、稀に呼吸器不全、眼症状、二次性アミロイドーシスを合併し、時には死に至ることもある難病である。

病理組織学的に「コゴイ(Kogoj)海綿状膿疱」を特徴とする「角層下膿疱」を形成し、乾癬の1亜系である「尋常性乾癬」が先行ないし併発する例としない例とがあるが、今回の研究では、便宜的に尋常性乾癬が先行せず、かつ伴わない汎発性膿疱性乾癬を汎発性膿疱性乾癬と呼び、尋常性乾癬が先行ないし伴った反発性膿疱性乾癬を「尋常性乾癬の膿疱化」と分類している。

世界中に患者がおり、日本では1500人弱の患者が登録されており、「急性汎発性膿疱性乾癬(von Zumbusch型)」や常染色体劣性型式の遺伝性疾患である「家族性汎発性膿疱性乾癬」以外は、病因が不明だった。家族性汎発性膿疱性乾癬は、2011年8月にその病因がIL-36受容体阻害因子の欠損であることが報告された。

今回の研究では11例の汎発性膿疱性乾癬、20例の尋常性乾癬の膿疱化、2例の「急性汎発性発疹性膿疱症」のIL-36受容体阻害因子をコードする「IL-36RN遺伝子」の変異が解析された。その結果、汎発性膿疱性乾癬11例中9例にIL-36受容体阻害因子の欠損が認められたのである。尋常性乾癬の膿疱化では20例中2例のみ見られ、急性汎発性発疹性膿疱症では見られなかった。以上の結果より、汎発性膿疱性乾癬の大半はIL-36受容体阻害因子欠損症であることが明らかとなったというわけだ(画像2)。

またIL-36RN遺伝子の変異パターンは2種類あり、「ハプロタイプ解析」(ヒトなどの二倍体生物の場合、各遺伝子座位にある対立遺伝子のいずれか一方の組み合わせをハプロタイプといい、それを解析する手法)によると、両パターンは「創始者変異」であることが示唆されたという。

なお創始者変異とは、個体群の中野特定個体に生じた突然変異が、遺伝的不動で広がっていった場合、その元になった変異のことを示す。日本人のIL-36受容体阻害因子欠損症では、昔、2人の日本人に生じた創始者変異(突然変異)のそれぞれが、時代を経て日本人全体に広がっていき、IL-36受容体阻害因子欠損症の原因となっていると考えられている。

そしてIL-36受容体阻害因子の欠損については、「免疫組織科学法」(抗原抗体反応の特異性を利用して、特定のタンパク質の組織内分布などを、特異抗体を用いて検出する手法)を用いて、IL-36受容体阻害因子欠損症の患者では、本当に皮膚にIL-36受容体阻害因子が欠損していることが確認された(画像3)。

汎発性膿疱性乾癬の大半がIL-36受容体阻害因子欠損症であるという知見は世界共通の医学的事象であることが予想されるため、今後は汎発性膿疱性乾癬の治療法としてIL-36受容体を分子標的とした手法が開発されていくことが期待されるという。ただし、新薬の開発はこれからの課題ともしている。

なお、名大医学部附属病院では、汎発性膿疱性乾癬の病因的診断(IL-36RN遺伝子の変異解析)を実施しており、同疾患が疑われる患者の紹介を、受け持っている全国の医療関係者に対して依頼している。心当たりのある医療関係者の方は、ご連絡いただきたい。



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