THE ABNORMAL SUPER HERO HENTAI KAMEN(作:あんど慶周 集英社)
黄金期のジャンプにおいて多くの男子にトラウマを残した伝説の漫画。まさか20年の時を経て映画になるとは思わなかった。ちなみに映画の監督は「勇者ヨシヒコ」「コドモ警察」の福田雄一。原作も映画も大爆笑間違いなしなので、今すぐ劇場に見に行く(もしくはオンラインで見る)ことをオススメする。

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ヱヴァンゲリオンQの劇場公開時。一部の映画館で流れた予告編が話題となった。全裸に近い格好。網タイツ。紐のような水着のような下着。そして顔にかぶったパンティ……「HK」こそ実写化は不可能と言われてきた伝説の漫画「究極!!変態仮面」の映画化だったのだ。

「究極!!変態仮面」(作:あんど慶周)は1992年から93年にかけて週刊少年ジャンプに連載されたギャグ漫画だ。1年しか連載されなかったのかと思うなかれ。当時のジャンプはまさに黄金時代。変態仮面の第一話が掲載されたジャンプの他の連載作品はというとドラゴンボール、SLAM DUNK、幽☆遊☆白書、ろくでなしBLUES、DRAGON QUEST ダイの大冒険、ジョジョの奇妙な冒険、花の慶次-雲のかなたに-、新ジャングルの王者ターちゃん、アウターゾーンといった作品がずらりと並ぶ600万部時代なのだ。この中で連載が1年(しかも、打ち切られる(?)3週前には連載1周年記念巻頭カラーになる)以上続くのは並大抵の人気ではない。ちなみに2009年に文庫化されたときに「HENTAI KAMEN」と名前を変えている。

主人公の色丞狂介はドMの刑事とドSのSM女王様の間に生まれ、現在は紅游高校に通う高校生。父親譲りの正義感を持ち、拳法部に所属している。普段は弱いが、ひとたび女性のパンティを被ると母親の変態の血が覚醒。変態仮面となり、悪を討つのだ。

何故変態仮面がそこまで強いのか。それは、人間が通常30%ほどしか使えない自らの能力を、変態の血が覚醒することで100%使えるから。さらには「クロスアウッ!(Cloth out、すなわち脱衣)」と叫んで網タイツとブリーフ姿になり、ブリーフは両端を伸ばし肩にかけることでより局部に刺激を与え、パワーアップする。その超人的な身体能力と拳法を駆使し、悪人の顔を「Welcome!」と股間に押しつけ倒していく。その姿は紛れもなくヒーローだ。変態だけど。

そんな色丞狂介を熱演しているのが鈴木亮平。もともと恵まれた肉体を持っていたが、変態仮面の筋肉質な肉体を再現するため、一度15kg増量した上で脂肪だけを落とすという肉体改造を1年以上に渡って行い、完璧に演じている。

その映画本編は、典型的なアメコミヒーロー物のようになっている。変身ヒーローが悪と闘い、普段の自分と巨大なパワーを発揮する変身後の自分とのギャップに葛藤し、世間に、そして何よりヒロインに正体がばれないように苦悩し、時には挫折を味わいながらそれを乗り越え、悪を討つ。いわゆるヒーローのスーパーパワーの部分を「変態」に置き換えただけなのだ。なので、ところどころにスパイダーマンなどのハリウッド映画へのオマージュと思われるシーンも存在する。

アクションシーンは動きのキレもさることながら、変態仮面が繰り出すポージングのかっこよさが素晴らしい。原作の1コマを切り出したかのような完璧な再現度。そしてアクション→ポージング→アクション→ポージングと、「動」と「静」のメリハリが実に効果的で、迫力のあるアクションシーンとなっている。もちろんアクションシーンの中にも「変態」は入っていて、白くてふわふわした「おいなりさん」が画面を所狭しと動き回る。紛れもなく変態だ。

20年前の作品の映画化だが、舞台は全て現代(2013年前後)に変更されている。20年前は影も形もなかった「何か事件があると携帯のカメラで写真を撮りまくる人」などもいるし、劇中の新聞には「ソーシャルネットワークでも変態仮面の話題はつきる事がなく、目撃情報を皆で共有するグループまで立ち上がったほどだ」とあったりする。なので、かなり「古くささ」は感じさせない。一部のギャグには多少の古くささを感じさせるものの、古いことによる違和感は無い。

ちなみに90年代までのジャンプだけではなく他の雑誌でも、ギャグ漫画といえば変態的なキャラクターが変態的な振る舞いをするタイプのものが多かったように思われる。その当時は「変態」という言葉が前向きに多くの作品で使われていた。現在ではそこにツッコミ役が加わり、鋭いツッコミを入れまくるスタイルのギャグ漫画の方が主流で、コロコロなどの児童向け雑誌にしか前者のタイプの漫画が無いように思われる。もちろん変態仮面は前者のタイプだ。変態仮面が「21世紀の現代。変態こそ正義であると!」と劇中の台詞であるのだが、ひょっとしたら映画変態仮面は21世紀に変態を復活させようとしているのかもしれない。

映画「HK 変態仮面」は残念ながら上映されている映画館の数は少ない。だが、5月7日からオンライン上映が開始された。上映中の映画では異例のことだ。近くに上映館がある人は劇場に足を運び、なかなか時間が取れない人はオンラインで是非見て欲しい。オンライン上映では一度お金(1200円と通常の映画チケットより安い)を払うと24時間以内なら何度でも再生でき、ブラウザで見る形になる。MacのSafariとiPhone5やiPadのSafariで再生ができることは確認した。HK公式ページから移動できるKINEZO CINEMAページから見ることができる。でもここは、何とか映画館で見て欲しいところだ。大画面での「おいなりさん」やアクションシーンの迫力や、上映前の諸注意の変態仮面Ver.は劇場ならではだと思うからだ。劇場で「変態仮面1枚」と言うのが恥ずかしい人は「HKを1枚」と言えば通じるようにもなっている。

紛れもなく映画史上に残り、伝説となるであろうこの映画。序盤をとても丁寧にやっているので、原作を全く読まなくても楽しめるが、上映館の数が少ないからかパンフレットが販売されていないため、事前にある程度知識を入れていきたいという人は、映画「HK/変態仮面」Youtube公式ページの動画を見たり、変態仮面1巻を読んでから行くといいかもしれない。オンライン上映が6月1日までなので、おそらく劇場でもそのぐらいまでだと思われるため、是非とも急いで見に行くことをオススメする。

最後はやっぱりこの決め台詞でしめたいと思う。
「それは私のおいなりさんだ」
(杉村 啓)

HK/変態仮面 アブノーマル・パック(仮)