事故調査委員長も首をかしげる「原発再稼働」

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再稼働を急ぐ野田首相の真意


「国民の生活を守るために大飯発電所を再起動すべきというのが私の判断だ」。2012年6月8日に夕方に行われた記者会見で、関西電力大飯原子力発電所の再稼働について、野田首相はこう語った。原発を再稼働させた方がよいのかどうかは、野田首相も認めているように、いまだ「国論が二分している」問題である。にもかかわらず、再稼働を急ぐのはなぜなのだろう。



沖縄タイムスは、6月10日の社説「時計の針を元に戻すな」で野田首相を徹底的に批判している。社説の冒頭で「この国は何も変わっていない」と述べる。再稼働を急ぐ理由は「立地自治体への配慮ではな」く、「原発の必要性をアピールしたい電力会社をはじめ、節電や停電による経済の影響を懸念する財界の要請に応えるのが主眼だ」と分析する。



くわえて、「首相自らが『国論を二分している』と認める状況下で、一方の主張に政府が全面的に肩入れするのは民主主義の根幹にかかわる問題」とした上で、「日本の民度が問われる由々しき事態」と指摘している。そして、原発再稼働の本質は、「何よりも財界の『経済至上主義』の論理を優先する」ことにあると断じている。



大飯原発の再稼働に関する野田首相の記者会見を聴いて、この社説で指摘・分析されていることと、おおむね同じ感想を筆者も持った。国会の事故調査委員会についても、原子力規制庁の発足に関しても、まったく言及されていない点も、不自然だと言わざるをえない。同委員会が事故の原因を究明し、原子力規制庁が発足した後、原発の再稼働を検討するのが筋道なのではないか。



いみじくも同委員会の黒川清委員長が、首相の記者会見の直後に「国会から委託された独立した調査の報告をしっかり見て、なんで待たないでやるのかな。世界のいわゆる先進国のあり方とぜんぜん違う方向に行っているじゃないの。国家の信頼のメルトダウンが起こっている」と述べている。



国会の信頼が「メルトダウン」し暴走している?


同委員会の調査報告が出ていないということは、国家レベルでの原発事故の検証が終わっていないことを意味する。ならば、素朴な疑問が生じる。第1に、事故の原因がはっきりと分かっていない段階で、原発を再稼働させてしまっていいのか。第2に、原因が分かっていないのに、なぜ首相は「事故を防止できる対策や体制は整って」いると言えるのか。



話を社説に戻すが、末尾に「民意に背を向け、時計の針を元に戻すのは政治の自己否定である」と記されている。付け加えると、野田首相ならびに民主党は、「政治の自己否定」をしたまま暴走しようとしている。言いかえれば、福島第1原発が制御不能となって暴走したように、国家が「メルトダウン」し、暴走つつあるのが日本の現状だと言えるのかもしれない。





(谷川 茂)