消費にも「正義」が求められる時代――これからの「消費」の話をしよう
それにしても「正義」が大ブームである。こんなものがブームになるとは、誰が予測できただろう? 言うまでもなく、ハーバード大学の超人気教授マイケル・サンデルの著書『これからの「正義」の話をしよう』のことである。
「正義」をテーマとしたこの哲学の本が、50万部を超えてまだ売れ続けている。今年の4月にNHK教育テレビで放送されて話題となった、同教授の講義風景を収録した番組「ハーバード白熱教室」がその火付け役。12月にはDVDも発売予定で、このサンデル人気、というか正義のブームはまだまだ続きそうだ。正直に言って、筆者も世の中の人がこれほどまでに「正義」について考えるようになるとは予想してなかった。
アフリカの饑餓や感染症撲滅のために、あるいは勉強したくても読む本がない途上国に図書館を建てるために、寄付やボランティアをすることは自分自身の「正義」の存在証明でもある。「正義」とは決して形而上学(*)的なものではなく、僕らの日々の生活行動を決定するものである。だから、社会貢献のムーブメントは人々の消費行動にも「正義」を問いかける。それがいま話題の『エシカル消費』である。
* 実在する物事の存在を決定する根本的な原理を解明しようとする研究
「エシカル(ethical)」というのは、一般的に「倫理的」「道徳的」と訳されるが、これは日本語としては感覚的に分かりにくい訳語だと思う。むしろ、「そこに正義がある」という意味だと解釈した方がピンとくるかもしれない。『エシカル消費』とは、「そこに正義のある消費」のことである。
たとえば、フェアトレード商品を買うことは、「生産者から搾取せず適正な価格で原料を購入することは正義である」という価値観に基づいた消費行動である。児童労働によって生産された服は安くても買わないという消費行動は、「児童労働には正義はない」という価値観に基づいた消費行動である。このように、「正義」を基準とした消費行動が『エシカル消費』である。
日本ではまだまだ聞き慣れない言葉ではあるが、ロンドンでは2007年ごろからたいへんなエシカルブームになっていたらしく、当時の英エコノミスト誌の記事にも「ethical capitalism」とか「buying ethical」がどうのこうのとか、ethicalという単語が頻出していた。「ethical consumer」という雑誌も発売されている。日本では、ethicalというわかりにくい言葉のせいかいまいち理解されてこなかったが、今年になってようやく『エシカル消費』が広まってきた。
トヨタ系のマーケティング会社である株式会社デルフィスは今年3月、顧客向けに提供しているレポートで「エシカル特集」を組んだ。同特集では、 2009年末から2010年はじめにかけて実施された調査レポートが掲載されているが、この調査レポートによれば、「エシカル」という言葉の認知率はまだまだ低く、およそ15%程度しかない。100%近い認知率の「エコ」や、約80%の「ロハス」はもちろん、まだまだ知っている人は少ないと言われる「フェアトレード」(約40%)と比べても、「エシカル」は格段に認知率が低い。
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