FIFAワールドカップ2026のラウンド32で日本代表が激突するブラジル代表は、はたしてどんなチームなのか。メンバー構成を紹介しながら戦術的な特徴を解剖する。

【映像】ヴィニシウスの「無から生んだゴール」

 日本代表の森保一監督と同じくブラジル代表のカルロ・アンチェロッティ監督も、大会前に数々のアクシデントに見舞われた。右SBのエデル・ミリトン(レアル・マドリード)とウェズレイ(ローマ)、さらにウイングのロドリゴ(レアル・マドリード)にエステヴァン(チェルシー)と、主力級4人を怪我でエントリーできなかったのだ。さらに右ウイングの主戦であるラフィーニャもハイチとのグループステージ第2戦で故障し、日本戦は欠場有力と現地メディアで報じられている。

 それでもモロッコ戦こそ1−1に終わったが、ハイチ戦とスコットランド戦はいずれも3−0で完勝し、グループCを首位突破。日本は昨年10月に3−2で逆転勝ちしているが(ブラジル相手の初勝利)、当時とは事実上まったく別のチームだ。MF伊東純也も「親善試合とはまったく違うと思います。試合展開もメンバーも違いますし、本当に難しい試合になる」と警戒する。

 当時の試合に出ていた選手で、今大会も主力になっているのは中盤のカゼミーロ、ブルーノ・ギマランイス、ルーカス・パケタ、前線のヴィニシウス・ジュニオールのみ。一方でいわば様変わりしているのが守備陣だ。ミスを繰り返して失点に絡んだGKウーゴ・ソウザ(コリンチャンス)、DFラインのパウロ・エンリケ(ヴァスコ)、ファブリシオ・ブルーノ(クルゼイロ)、ルーカス・ベラウド(パリSG)、カルロス・アウグスト(インテル)は控えの控えクラスであり、実際に今大会には1人もエントリーされなかった。

 今大会で3試合連続フル出場しているGKのアリソン・ベッカー(セーブ率は大会5位タイの90.9%)、CBのマルキーニョスとガブリエウ・マガリャンイスは誰もが認めるワールドクラスだ。ダニーロとドグラス・サントスの両SBも含め、ミドルブロックやローブロックは非常に手堅くで、ここまで3試合で1失点に抑えている。

 アンチェロッティ監督は昨年5月の就任以降、アタッカー4人を並べる実質4−2−4の4−4−2、そしてバランス型の4−3−3を両方テストしてきたが、今大会は攻守万能タイプのパケタを中盤に入れた4−3−3を選択。さらにCFは初戦で基準点&フィニッシャーのイゴール・チアゴを入れたがあまり機能せず、2戦目以降は後方に下がってもプレーできるセカンドトップ系のマテウス・クーニャを置き、より流動的な攻撃メカニズムに舵を切った。xG(ゴール期待値)は大会2位の7.35と、崩しの質はやはり世界トップクラスだ。

ヴィニシウスは事実上のフリーマン

 攻撃のキーマンはヴィニシウスだ。ここまで4ゴール・1アシストを記録し、3試合連続のプレーヤー・オブ・ザ・マッチに輝くなど躍動。個人xGの3.51は大会トップで、その打開力はやはり世界最高クラスと言っていい。左サイドの深い位置で切り返して相手3人を尻目に決めたモロッコ戦の同点弾が象徴する通り、まさに「無からゴールを生み出せる」存在だ。

 このヴィニシウスは左ウイングが起点ながら事実上のフリーマンで、過去3試合のヒートマップを見ても左サイド、左ハーフレーン、そして中央レーンを幅広く動き回っている。そのため左サイドの幅を取る役目は、ヴィニシウスだったり、インサイドハーフのパケタだったり、SBのD・サントスだったりかなり流動的。逆に右サイドの幅は基本的に右ウイング(ラヤン)が取り、押し込んだ局面では3−1−4−2のような配置になるケースもある。ここまで3アシストを記録している通り、インサイドハーフのB・ギマランイスの縦の飛び出しも攻撃のアクセントになっている。

 さらに、ヴィニシウスの個人技と並んで強力なのが、ショートカウンターだ。ミドルゾーンでのボール奪取から素早く裏のスペースにボールを送り、ウイングやCFが瞬く間に抜け出していく。ハイチ戦の1点目と2点目はこの形で、スコットランド戦の2点目はファイナルサードでのカウンタープレスからだったが「素早く裏のスペースを突く」という意味で構造的には似ていた。

 ゲームチェンジャーとしてベンチに控えるのは、前述したフィニッシャー型のI・チアゴをはじめ、スピードスターのガブリエウ・マルチネッリ、ドリブラーのルイス・エンリケ、パワフルシューターのエンドリッキ、そしてネイマールだ。約2年半ぶりの代表復帰で今大会にサプライズ選出されたネイマールは、コンディション不良でモロッコ戦とハイチ戦を欠場。ここまでのプレータイムはスコットランド戦での15分弱だけとなっている。

 そのスコットランド戦の動き、近年の故障癖、そして34歳という年齢を考えると、全盛期のような規格外のアジリティーやスピードはもはや失っていると見ていい。ただ、勝負強さ(通算79ゴールはブラジル歴代最多、W杯通算14試合で8ゴール・4アシスト)は折り紙つきで、ピッチにいるだけ敵を引きつけ、味方に良い状態を作れる“引力”は健在だ。5試合で9ゴール・1アシストと日本戦にめっぽう強いというデータもある。

守備はミドルブロックが中心

 守備の局面は、基本布陣の4−3−3から4−4−2に移行。左インサイドハーフのパケタが左サイドハーフ、ヴィニシウスが2トップの一角に回る形だ。PPDA(パスごとの守備アクション値=ハイプレス強度の指標)が大会19位の12.5という数字が示す通り、ハイプレスではなくミドルブロックが基本。押し込まれても、前述したワールドクラス3人を軸に中央ゾーンをコンパクトに守る。

 攻撃陣のプレス強度は、ヴィニシウスはやはり緩いものの、クーニャとラヤンは非常に高く、相手のパスコースを上手く限定する。スコットランド戦の先制点はラヤンが外を切りながら中央のCBにプレッシャーをかけて、敵陣ボックス内でボール奪取した形から生まれていた。

 ちなみに、このラヤンは非常に献身的かつ戦術的な理解度が高く、押し込まれた場面では彼が右SB、右SBのダニーロがCBに回る5−3−2のような陣形になるケースも何度か見られた。日本はボール保持時に前線が5枚(両WB、両シャドー、CF)になるため、今回の試合でもありうるシチュエーションだ。ミランやレアル・マドリードなど数々のメガクラブを率い、類稀な戦術的柔軟性を駆使してトロフィーを勝ち取ってきたアンチェロッティ監督が日本のグループステージ3試合をどう分析し、とくに守備の局面でどんな対策を練ってくるのか興味深い。

 運命のブラジル対日本は、日本時間6月30日午前2時キックオフ予定。森保ジャパンは前回大会のドイツ戦、スペイン戦に続いて、大舞台でアップセットを起こせるのか。要注目だ。

ブラジル代表のW杯メンバー】
▼GK
1 アリソン・ベッカー(リヴァプール/イングランド)
12 ウェヴェルトン(グレミオ)
23 エデルソン・モラレス(フェネルバフチェ/トルコ)

▼DF
3 ガブリエウ・マガリャンイス(アーセナル/イングランド)
4 マルキーニョス(パリSG/フランス)
6 アレックス・サンドロ(フラメンゴ)
13 ダニーロ(フラメンゴ)
14 ブレーメル(ユヴェントス/イタリア)
15 レオ・ペレイラ(フラメンゴ)
16 ドグラス・サントス(ゼニト/ロシア)
24 ロジェール・イバニェス(アル・アハリ/サウジアラビア)

▼MF
2 エデルソン・シウバ(アタランタ/イタリア)
8 ブルーノ・ギマランイス(ニューカッスル/イングランド)
5 カゼミーロ(マンチェスター・ユナイテッド/イングランド)
17 ファビーニョ(アル・イテハド/サウジアラビア)
18 ダニーロ・サントス(ボタフォゴ)
20 ルーカス・パケタ(フラメンゴ)

▼FW
7 ヴィニシウス・ジュニオール(レアル・マドリード/スペイン)
9 マテウス・クーニャ(マンチェスター・U/イングランド)
10 ネイマール(サントス)
11 ラフィーニャ(バルセロナ/スペイン)
19 エンドリッキ(リヨン/フランス)
21 ルイス・エンリケ(ゼニト/ロシア)
22 ガブリエウ・マルチネッリ(アーセナル/イングランド)
25 イゴール・チアゴ(ブレントフォード/イングランド)
26 ラヤン(ボーンマス/イングランド)

(FIFAワールドカップ2026)