【スギ アカツキ】「激安うなぎチェーン」失速の一方で…いま「うなぎ業界」に起きているトレンドの変化と「名古屋発の新勢力チェーン」の存在
今年は鰻が少し安くなる?
夏に向けて本格的な暑さが忍び寄る季節になりました。5月19日に気象庁から発表された3か月予報によれば、6月から8月の気温は全国的に平年よりも高い予想となり、夏本番は40度以上の酷暑日が到来し、最大級の熱中症対策が叫ばれています。
そんな暑すぎる夏を乗り切るためのスタミナ料理といえば、「鰻(うなぎ)」。昨年の豊漁のおかげで2026年は昨年よりも1〜2割ほど安くなるという予想が出ていて、今年はうなぎ人気が高まりそう。そんな話を聞けば、おいしいうなぎを少しでも安く食べたくなるものです。
うなぎをできるかぎり安く食べたい。そんな庶民の願いをかなえてくれたのが、「うなぎの成瀬」でした。2022年に創業し、本格的なうな重を従来の約半額の価格で提供するうなぎ専門チェーンとして一躍注目を浴びることになったのです。しかしながら彗星のごとく現れた同店は早々に失速。最近では昨年から100店舗近くを閉鎖するほどの業績不振に陥り、今年の4月10日には投資事業会社であるAIフュージョンキャピタルグループが、「うなぎの成瀬」を展開するフランチャイズビジネスインキュベーションの株式の58.0%を取得したと発表しました。
安すぎるとうなぎは売れないのか? そんな疑問が湧いてくる中で、最近じわじわと新勢力の動きが。そこで今回は、激安うなぎチェーン失速の理由を考えながら、代わりに目立ちはじめた新勢力の魅力をご紹介したいと思います。
激安うな重が失速したワケ
「うなぎの成瀬」でのうな重の最低価格は、1600円(脂少なめあっさり風味、1/2尾)。価格だけを見ると、ニホンウナギを使ったうな重としては非常にリーズナブルに感じられます。安さの秘密は仕入れ、加工、調理に至るまでの徹底された低コスト戦略。店内に鰻を焼く職人は存在せず、海外の工場で加工・冷凍されたうなぎをオーブンで焼き直して提供され、どこでも誰でも同じクオリティのうな重が提供できる仕組みが確立しています。しかしながらこのうな重を丁寧に味わってみると、職人が捌いて炭火で焼き上げるものとは食べ心地が大きく異なることがわかります。
私は「うなぎの成瀬」が多くの消費者の心をつかみ切れていない理由を、価格と食シーンの失敗にあると考えています。1600円という価格はうなぎ業界の中で比較すれば、圧倒的な安さがあるものの、ビジネスマン、高齢者、主婦層、学生が自腹で食事をする価格としてはまだまだ高いのです。つまり“安い”という概念がうなぎ業界と消費者ではギャップがあり、(うなぎ業界にとって)安いうなぎは、(手頃な価格でランチや夕食を楽しみたい消費者にとっては)安くないということなのです。さらにうなぎは祝いの席や接待など特別なシーンで好まれる料理でもあり、同店の安さをアピールしたカジュアルな雰囲気は、うなぎ専門店に求められている食空間としてマッチしていないとも考えられます。
どこまでいってもうなぎは特別な料理です。その食文化を理解しながら、職人技へのこだわりや食シーンを大切にして、本格うなぎ料理をなるべく安く提供したいという理念を持つうなぎ専門店が近年登場しはじめました。ここからは新進気鋭の注目店を2店取り上げ、その魅力を紹介していきたいと思います。
うなぎ問屋による「うなぎ菊川四代目」
運営するのは名古屋の老舗うなぎ問屋(1932年創業)。2017年に名古屋でうなぎ専門店を開業し、現在は「うなぎ四代目菊川」ブランドとしては国内外合わせて46店舗にまで拡大している新進気鋭のうなぎ専門店です。
こだわりは、うなぎ問屋ならではのうなぎ選びから焼きに至るまでの徹底された職人技。うなぎは一般的に使われるものよりも一回り大きなサイズだけを厳選し、注文が入った分のうなぎを客の目の前で捌く流れになっています。大ぶりのうなぎは皮目を香ばしく焼き上げても身が縮まない肉厚さが特徴で、強い火力にも負けないほどの脂が乗っているものだけを選りすぐっています。
名物はうなぎ一本をまるごと堪能できる「一本うなぎ」。器は江戸時代から続く窯元で焼かれる美濃焼や信楽焼のオリジナルで、接待にも使える上質な空間づくりにもぬかりがありません。そして気になるのが価格。価格は大ぶりなうなぎが1尾味わえて5000円台。老舗店と比較して1〜2割安い設定になっています。
幻の特大うなぎを使用の「うな富士」
おなじ名古屋発祥で注目されているのが、「炭焼 うな富士」。名古屋市昭和区で1995年に創業した行列の絶えない人気店です。創業者である水野尚樹氏の高齢化により、2018年に外食事業を手掛けるかぶらやグループに事業譲渡されました。その後2019年ミシュランガイド(愛知・岐阜・三重2019年特別版)のビブグルマンに選出され、現在は関東や関西への進出も果たしています(全国15店舗にまで成長)。
最大の魅力は、一般的なうなぎ屋が扱ううなぎの3割以上大きな「青うなぎ」を使用している点にあります。大きな肝を合わせた看板商品の「肝入り上うなぎ丼(7390円)」は、他店では味わえない個性を放ち、唯一無二の上質な食体験を提供しています。
「ごちそう感」と「職人の技」がカギに
ここで紹介した新勢力の2店に共通しているのは、ニホンウナギを確かな腕を持った職人達が捌き、炭火で焼いている点。さらには自社の強みを生かした名物料理を打ち出しながら、老舗店よりもリーズナブルな価格に。ごちそう料理にふさわしい上質な空間づくりにも成功しています。
うなぎは縄文時代から食べられてきた食材です。特に江戸時代から広がった蒲焼きやうな重は、長い歴史の中でおいしさが追求され、今後さらに本格感や職人技は様々な形で継承されていくに違いありません。うなぎ新時代、今後の動向に注目していきましょう。
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