eスポーツコース専用の教室があるルネサンス高等学校 連携横浜キャンパス【撮影:南しずか】

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連載「#青春のアザーカット」カメラマン・南しずかが写真で切り取る学生たちの日常

 学校のこと、将来のこと、恋愛のこと……ただでさえ悩みが多い学生の毎日。青春時代はあっという間に過ぎてしまうのに、コロナ禍を経験した世の中はどこか慎重で、思い切って全力まで振り切れない何かがある。

 便利だけどなぜか実感の沸かないオンライン。マスクを外したら誰だか分からない新しい友人たち。そんな密度の薄い時間を過ごした後、やっぱりリアルは楽しいと気付かせてくれたのは、スポーツや音楽・芸術・勉強など、自分の好きなことに熱中する時間だったりする。

「今」に一生懸命取り組む学生たちの姿を、スポーツ・芸術など幅広い分野で活躍するプロカメラマン・南しずかが切り取る連載「#青春(アオハル)のアザーカット」。何よりも大切なものは、地道に練習や準備を重ねた、いつもと変わらない毎日。何気ない日常の1頁(ページ)をフィルムに焼き付けます。(取材・文=THE ANSWER編集部・佐藤 直子)

31頁目 ルネサンス高等学校 連携横浜キャンパス eスポーツコース

 スポーツクライミング、スケートボード、BMX、ブレイキン、といったアーバンスポーツは「カルチャー」として認められていたものの、五輪競技に採用されてから一気に「スポーツ」としての市民権を得た。それを例とするのであれば、次のブレイク候補筆頭とも言えるのが「eスポーツ」だろう。

 eスポーツとは、コンピュータゲーム、ビデオゲーム、モバイルゲームを使った個人や団体による対戦をスポーツ競技として捉えた時に使う言葉で、2000年頃に登場した。バーチャルスポーツから格闘ゲーム、シューティング、デジタルカードゲーム、パズルゲーム、MOBAなど幅広いジャンルにわたり、競技人口は日本国内では約400万人、世界に目を向けると1億人を優に超えるという。

 コンピュータゲームをスポーツとして認めるか否かの議論は根強く残るが、国際オリンピック委員会(IOC)は7月の総会でeスポーツの大会を新設し、2025年にサウジアラビアで第1回大会を開催することを決めた。大会名は「オリンピック・eスポーツ・ゲームズ」。2023年にはIOC主催の対面形式による国際大会「オリンピックeスポーツシリーズ」がシンガポールで開催され、アジア大会でも正式競技として採用されるなど、スポーツとしての存在感を着実に増している。

2018年に高校では日本初のeスポーツコースを開講

 そのeスポーツをいち早く教育の分野に取り入れたのが、通信制高校のルネサンス高校グループだ。2018年に高校では日本初となるeスポーツコースをルネサンス大阪高等学校で開講。以来、全国各地でeスポーツコースを設置し、多くの生徒が教育の一環としてeスポーツを学んでいる。

 eスポーツを学ぶ高校生にとって「甲子園」とも呼べる大会が「STAGE:0」と「NASEF JAPAN全日本高校eスポーツ選手権」。それぞれ予選を勝ち抜いたチーム・選手が全国大会への出場権を手に入れるのだが、ルネサンス高校グループは全国大会の常連校。さらに言えば、これまで日本一の座も手にしてきた。

 まだ競技人口が少ない頃から先輩たちが切り拓いてきた道に続こうというのが、高校1年生の井上珀斗くんだ。横浜キャンパスに週2回通う井上くんがプレイするのは「League of Legends」。LoL(ロル)と呼ばれる5対5のチームバトルで、各プレイヤーは試合前に選んだ「チャンピオン」と呼ばれるキャラクターを操作し、チームで協力しながら敵陣に設置された「ネクサス」の破壊を目指す。LoLを始めるきっかけは「ルネ中等部の時に先生に誘われて」。そこからLoLの世界にハマっていった。

5対5のチーム対決…大切なのは「チーム内のコール」

 今、組んでいるチームは1年生が4人と2年生が1人。「なんとなく、そこにいた5人で組みました」と笑うが、チーム結成から5か月あまり。「誰かがいないとチームがまとまらない」と、今では大事な仲間となっている。

 夏休みの間はチームの仲間とオンライン上で集合し、少なくとも10試合プレイしながら連携を強めた。1試合ごとにチーム内でフィードバックを重ね、「勝ったら褒め合ったり、何かミスったら笑い飛ばしたり。マイナス発言はしないようにしています」という。

 野球であれば、左中間に飛んだフライを誰が捕球するのか、左翼と中堅で声を掛け合う。ボールを後ろにパスするラグビーであれば、選手同士が声を掛けながらパスする方向を決めてトライを狙う。それと同じように、LoLをプレイする上で最も大切であり、魅力的でもあるポイントは「チーム内のコール(声掛け)」だ。

「チームとして次に何をしようとか、今こうしてほしいとか、コールをたくさんするので、そこでみんなと仲良くなったり、まとまったりしていきます」

 チーム内で井上くんは「集団戦のコールがいいって言われます。誰から狙おうとか、前に行くからここは頼んだとか、戦うとめっちゃ喋るらしいです。気付いたらめっちゃ良いこと言ってるみたいな。なんでだろう?」と話す顔は、少し照れくさそうだ。

プロゲーマー養成ではないeスポーツコース開講の本当の狙い

 自分でも驚くほどコールができるのは、チーム内のコミュニケーションが上手くいっているから。「僕が今いるチームのいいところは、隠さずに全部ストレートで言ってくれるところ。自分でも修正しやすいし、コミュニケーションがとりやすい。コミュニケーションが取れないと、本当に何もできなくなってしまうので、いい関係が築けていると思います」と信頼は厚い。

 コミュニケーションを深めるために、キャンパスに通学すると「みんなで外で食事をしたり、ブラブラ歩きながら話をしたり、ボードゲームで遊んだり、意外とリアル(笑)」。そう話す井上くんの姿を、嬉しそうに見守るのが中田快先生だ。eスポーツコースの立ち上げに関わった1人でもある。

 eスポーツコースと聞くと、主な目的はプロゲーマーの養成だと思う人は多いだろう。しかし、ルネサンス高校グループでは不登校を改善する方法としてeスポーツに着目。英語教育と合わせて、生徒が社会性を身につけて卒業することを目的としている。プロ養成を目的としたわけではなかったが、結果として大会で好成績を収める強豪となった。

 月1回は掲げた目標に対して自分はどの位置にいるのか「振り返りシート」に自己評価を書き込むことなど、OODA(Observe・観察、Orient・状況判断、Decide・意思決定、Act・実行)ループを身につけ、高校生が中学生を指導する時間を作って教える難しさを感じることで他者の立場になって考えることを体感する。中田先生は「大会では勝つことより負けることの方が多い。負けの振り返りをしっかりして、次こそは!と挑戦し続けることで人間性が育つと思います」と話す。

練習を重ねて育んだチームワークで狙う日本一

 井上くんも中学校へ行けなくなった時期があり、中学2年からルネ中等部に入塾。元々ゲームは好きだったが、eスポーツの存在を知ったのは入塾を決めた時だったという。「スポーツみたいに大会があると思っていなかったから、すごく不思議な感じでした」と振り返るが、今では「オリンピックにも出られるチャンスがあれば目指してみたいし、チームに入って海外の大会にも出てみたいです」と大きな目標を掲げる。

 海外では、特にアメリカやヨーロッパで普及しているイメージがあるが、韓国や中国など東アジアも盛んで名だたるプロプレイヤーが誕生している。井上くんが憧れるのは、韓国のeスポーツチーム「T1」に所属する「Zeus(ゼウス)」という選手。「自分が使っているカ・サンテというキャラをメインで使う人で、かなり強いです」。

 9月に開催された「NASEF JAPAN全日本高校eスポーツ選手権」オンライン予選に初出場した井上くんはチームの仲間と力を合わせ、全国決勝への切符を手に入れた。12月28日に予定される全国決勝はオンラインではなく、東京・品川プリンスホテル内にあるClub eXでオフライン開催となる。

「楽しく、そして勝てるように。やるからには勝つのは大事。勝つために楽しむ、みたいな感じです」

 舞台がバーチャルな世界であろうが、リアルな世界であろうが、目標に向かって練習を積み重ね、仲間と切磋琢磨する姿は青春そのもの。「今、すごく楽しいです」。そう思える毎日が宝物だ。

(THE ANSWER編集部・佐藤 直子 / Naoko Sato)