子宮脱

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監修医師:
中里 泉(医師)

2008年宮崎大学卒業後、東京都立大久保病院にて初期研修。東京大学医学部付属病院産婦人科に入局。東京大学医学部付属病院、東京北医療センター、JR東京総合病院などの勤務を経て、現在は生殖医療クリニックに勤務。日本産科婦人科学会専門医。

子宮脱の概要

子宮脱とは、子宮が本来の位置よりも下がり、腟から出てきてしまった状態です。
おなかに力が入ったときに出てくる感じがしたり、入浴時にピンポン球のような丸く固いものに触れたりして気付きます。

子宮は膀胱や直腸といった骨盤内臓器と隣り合っており、一緒に下がってくることも少なくありません。
このため骨盤臓器脱とも呼ばれます。

子宮脱は、骨盤底筋が出産時に傷ついたり、加齢に伴って弱くなることで発症すると考えられます。
高齢女性にはよくある疾患であり、発症ピークは60~69歳といわれます。

脱出が軽度なら骨盤底筋体操で改善が期待できますが、中等度以上の場合は腟内にリングペッサリーを入れて支えたり、手術をしたりといった治療が必要です。
手術が必要な骨盤臓器脱は、年間1,000人の女性のうち1.5~1.8人とされます。

子宮脱の原因

子宮脱の原因は、骨盤底の組織がゆるんで臓器を支えきれなくなることです。

自転車に乗るときサドルに当たる辺りを骨盤底といいます。
骨盤底は尿道および腟、肛門がとおっている部分で、骨はありません。
骨のかわりに筋肉や靱帯が重なり合って、内側の子宮や膀胱、直腸を支えています。

骨盤底の筋肉や靭帯が出産や加齢などの影響で弱くなったり、慢性的に強い腹圧がかかって耐えられなくなったりすると、臓器の脱出が起こります。

子宮脱の前兆や初期症状について

子宮脱の前段階として子宮下垂があります。
子宮が下がってきているけれど、腟から出てくるには至らない状態です。
この段階では、自覚症状がないことも少なくありません。
婦人科の検診で見つかることもあります。

さらに下がってくると、以下のような症状が出てくる場合があります。

重い物を持ったときなどに、何か出てくる感じがする

入浴時、腟に丸くて固いものが触れる

股に何か挟まった感じがする

引っ張られているような感じがする

尿が出にくい/がまんできない

便が出にくい

症状が進むと、脱出した臓器をやさしく押し込んでも戻らなくなったり、臓器が下着にこすれて痛みや出血を伴ったりします。

子宮脱は直接命に関わる病気ではないものの、快適な生活のためには治療が欠かせません。
婦人科や泌尿器科で相談することをおすすめします。
ウロギネセンターや女性骨盤底センターといった名前で専用の外来を設けている医療機関もあります。

子宮脱の検査・診断

子宮脱は、腟からの脱出を確認することで診断されます。

まず行うのは、問診および内診台での診察です。
わざと力んだり咳をしたりして腹圧をかけることで、脱出の程度や種類が確認できます。

泌尿器科では排尿への影響をチェックするために、尿流測定やエコーによる残尿測定といった詳しい検査を行うこともあります。
肛門が出てくる直腸脱を合併することもあるため、症状によって専門医を紹介されるかもしれません。

子宮脱の治療

子宮脱の治療方法は、切らない治療と手術に大別されます。
臓器の脱出の程度および全身状態、生活習慣などを考慮し、患者さんの希望に合わせて選択します。

子宮脱を放置すると、徐々に生活上の不自由さが増すかもしれません。
治療は快適な暮らしを目指すために行います。

骨盤底筋体操

臓器の下がり方が軽度なら、骨盤底筋を鍛えることで支える力の回復を期待できます。
中等度以上では否定はしませんが、これだけで改善は難しいでしょう。
生活習慣の改善と併用しつつ、症状があるようなら次のステップの治療を考えましょう。

骨盤底筋体操では、排便や排尿を我慢するように力いっぱい締める運動と、8割程度の力で10~20秒間締め続ける運動を併用します。
あおむけになって膝を立てた姿勢で行うと、力が入る感じがわかりやすいかもしれません。
なかなか感覚がつかめない場合は、医療機関で指導を受けられる場合もあるため、相談してみてください。

サポート下着

サポート下着とは、腟を押さえて臓器の脱出をふせぐ製品です。
普段の下着を履いてから着用するタイプと、直接身につけるタイプがあります。

臓器が引っ込んだ状態で着用し、ベルトで固定すると、活動しても臓器が出てくることがありません。
医療費控除の対象となる場合があるため、製品のホームページなどを確認してみてください。

リングペッサリー挿入

リングペッサリーとは、腟内に挿入して臓器を支える器具です。
入れっぱなしにすることも、自分で着脱することも可能です。

入れっぱなしにする場合は、3~6ヶ月ごとに外来で交換する必要があります。
長期間入れたままにすると、腟内が荒れて痛みや感染の原因になる可能性があるため、定期的な交換が大切です。
手術までの待機中に、期間限定で使用する場合もあります。

自分で着脱する場合は、朝着用して寝る前に外します。
医療機関で方法を教えてもらいましょう。
外す時間を作ることで腟内が荒れにくくなり、長く使えると期待できます。
手術せずにリングペッサリーを使って生活するなら、自己着脱できるのが理想的です。

手術

臓器が大きく脱出している、症状が強い、ペッサリーを装着したものの容易に自然脱出する、ペッサリー装着により発生したびらんからの出血が持続するなどの場合は手術を検討します。
手術にはさまざまな方法があり、手術経路や臓器を支えるメッシュの使用有無といった特徴が異なります。
代表的な手術方法は以下の3つです。

メッシュを使用しない手術(従来型の手術)

経腟メッシュ手術(TVM)

腹腔鏡下仙骨腟(子宮)固定術(LSC)

メッシュを使わない従来型の手術では、現在残っている靭帯などを使用して臓器の脱出を修復します。
腟から子宮を摘出し、残った腟の上端が下がってこないように固定する方法が一般的です。
腟を縫い合わせて閉じてしまう方法もあります。

経腟メッシュ手術(TVM)では、腟経由で体内にメッシュを入れて、ハンモックのように臓器を支えます。
従来型の手術よりも再発率が低いのが利点です。
メッシュが腟内に出てきてしまうなどの合併症が多く報告されたことから、アメリカでは禁止されましたが、体への負担が少ないメリットから、日本では今も普及しています。

腹腔鏡下仙骨腟(子宮)固定術(LSC)は、腹腔鏡を使ってメッシュを入れる手術です。
子宮または子宮摘出後の腟上部にメッシュを縫い付けて吊り上げ、仙骨の前面の靭帯に固定します。
経腟手術よりも体の負担は大きいですが、成功率が高く、再発率が低い点で優れた方法です。

子宮脱になりやすい人・予防の方法

子宮脱になりやすいのは、骨盤底筋が傷ついたり弱ったりしている人や、腹圧がかかりやすい人です。
具体的には以下のようなケースで発症しやすいです。

高齢

肥満

結合組織疾患

骨盤臓器脱の家族歴

腹圧がかかりやすい状態:慢性の咳や便秘、重いものを持ち上げることが多い生活など

経腟分娩

手術歴:子宮の切除手術や骨盤臓器脱の手術など

このうち、腹圧がかかりやすい状態や肥満は、生活習慣の改善で対処できるかもしれません。

子宮脱の予防方法

子宮脱の予防には、生活習慣の改善と骨盤底筋体操が有用です。

生活習慣ではなるべく腹圧をかけないようにすることと、肥満の改善が大切です。
腹圧については、以下のような対策が考えられます。

重いものを持たない

排便時に力まない

猫背であれば改善する

慢性の咳や便秘があれば治療する

肥満の方は体重を減らすことで、骨盤底にかかる力も減らすことができます。

先にも紹介した骨盤底筋体操は、子宮脱の治療だけでなく、予防にも効果が期待できます。
数ヶ月にわたって地道に継続するのが重要です。

慣れないうちは、おなかや太ももの筋肉に力が入ってしまうかもしれません。
おなかに力が入りすぎると悪化の要因になるため、腟や肛門の周囲だけを締めるように意識しましょう。

ただし骨盤底筋を鍛えても、過剰な腹圧がかかれば耐えられなくなる可能性があります。
生活習慣の改善も併せて行うのが大切です。

参考文献

日本女性骨盤底疾患学会 子宮脱

日本大腸肛門病学会

日本泌尿器科学会

日本老年医学会 子宮脱

POP手術ガイドライン

日本外科学会 子宮脱

日本体力医学会