「ストレスに弱いJリーガー」SNSで名乗る訳…「1人でも多く救いたい」 プロ5年目・27歳の思い【インタビュー】
プロ5年目「ストレスに弱いJリーガー」、SNSで日々発信
J3カターレ富山でプロ5年目を迎えた坪川潤之は、「ストレスに弱いJリーガー」と名乗り、SNSで日々発信を続けている。
大学時代、試合や練習中に吐き気、動悸を起こす症状に見舞われてから、2020年にプロ入り。自らの弱みに関して「人に打ち明けるのは勇気がいる」と言いながらも、堂々と公言する意図とは?(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・橋本 啓)
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北海道生まれの坪川は、東洋大学を経て、2020年にAC長野パルセイロへ入団。同年にJリーグデビューを飾った。23年シーズンからは富山へ活躍の場を移し、今季で2シーズン目を迎える。そんな27歳のサッカー人生を大きく変えたのが、プロ入り前の大学2年夏に起きたある出来事だった。
プレッシャーによるストレスから「トレーニング中にめまいがしたり、嗚咽が頻繁に起きたりするようになって、ついには試合中に吐いてしまう」症状が繰り返し現れる。病院で診察を受けても“異常なし”と言われ、不安ばかりが募った。
「病名を一切言われていないんですよね。症状があるだけで『こういう病気です』って言われたわけでもないですし。こういう治療法がありますっていうふうに言われればいいんですけど、それがずっと分からない。どうやって治していくのか分からなかったのが1番しんどかったです」
治るのか、治らないのか……悩ましい日々を送っていたなか、プロ入り後「メンタルのスポーツコーチング受けてみないか」という代理人のアドバイスをきっかけに、転機が訪れる。坪川が入団した2020年シーズンはちょうどコロナ禍で、リーグ戦は2月下旬の開幕節を実施後、中断期間に入った。その間にカウンセリングを受けて見ると「自分のメンタル面をうまくコントロールできてないことが原因」と判明。同じような症状を抱える選手が、思いのほかたくさんいたことも分かった。「自分1人だけじゃないんだ」と安堵した今、緊張感から来るストレスと上手く向き合えるようになった。
現在、症状はいくらか緩和されているが、試合前に吐き気や動悸に見舞われる状況はしばしば起こる。坪川は当初、自らの症状はなるだけ隠し通そうとしていた。大学時代を回想したXの投稿には、「周りには嗚咽してるところバレたくなくて」とも綴っている。それが今では「ストレスに弱いJリーガー」と公言。トレーニングマッチ前に「久々に吐き気がきた」などと、赤裸々に告白するようになったのはなぜなのか。
フットサル選手やJリーガーから届く「どうやって治したのか」の声
「メンタルの弱さを話すのって勇気がいると思うんですけど、実はそういう選手が結構いるんじゃないかっていうのもあって。自分がメンタルトレーナーから受けたことを放っておくのは勿体ないと思ったんです。少しずつでもSNSで発信していけたら、同じような症状を抱えている選手に『治るんだよ』と伝えられるのかなと」
坪川のメンタルは「プレッシャーがむしろワクワクする」というスタンスに変わった。同じ症状で悩む選手たちを「1人でも多く救いたい」。そんな思いから、メンタルトレーナー、心理カウンセラーの資格を勉強できる講座を受講。約1年間、カウンセリングする側のスキルも学んだ。
実際、いくつか反応もあった。フットサル選手として活躍する大学の同級生伝えに「ツボと同じ症状の選手がチームメイトにいるんだけど、どうやって治したのか、どうアプローチしたのかを聞きたいらしい」と話が来た。LINEや電話を通じてコンタクトを取ると「『俺もその症状はあるよ』と言ってあげると、僕自身が感じたような『俺1人じゃないんだ』みたいな様子が話してるとすごくありますね」と笑う。
親身になって相談に乗ったあと、その選手たちの動向も気にかけている。「継続的に連絡を取ってるわけじゃないんですけど、ゴール決めたとか、活躍していると、なんか個人的にも嬉しいですね。同じ悩みを持ってる選手なので」。坪川へのアプローチはJリーガーからも寄せられ、その悩みに寄り添い、アドバイスを送り続ける。
「フランクに『頑張ろうや』みたいな感じなんで、何かしたっていう感覚はないんですけどね。これしたほうがいい、あれしたほうがいいっていうことは一切なくて」と謙遜する坪川の表情には、充実感がみなぎっていた。自らの経験を、人のために--。“ストレスに弱いJリーガー”はピッチ外でも奔走する。
[プロフィール]
坪川潤之(つぼかわ・ひろゆき)/1997年5月15日生まれ、北海道出身。矢板中央高校―東洋大学―AC長野パルセイロ―カターレ富山。2020年に東洋大から長野入り。同年6月の富山戦でJリーグデビューを飾る。22年シーズン後に契約満了となり長野を退団。翌年から富山へ完全移籍し、在籍2シーズン目を迎えている。(FOOTBALL ZONE編集部・橋本 啓 / Akira Hashimoto)