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毎年誕生月に届く「ねんきん定期便」。年金の見込み額をもとに老後に備えたり、年金制度に間違いなく加入しているかを確認したりできます。一度も見たことがないという人も珍しくありませんが、恐ろしい悲劇に巻き込まれないためにも、1年に1度はチェックするのがおすすめです。

将来を見据えての準備をしている…わずか4割だけ

厚生労働省『令和5年国民生活基礎調査』によると、年金をもらっている高齢者世帯において、年金が「所得の100%」が41.7%、「所得の80〜100%」が17.9%。年金への依存度が特に高い高齢者は6割にのぼります。また高齢者世帯の59.0%が「生活が苦しい」と回答。厳しい状況下にいる年金依存度の高い高齢者の姿が浮き彫りになっています。

自身がどれほど年金に依存するかは、実際に年金をもらうような年齢にならないとわかりませんが、収入のほぼすべてが年金という可能性があるという事実には誰もが不安に思うはず。

――将来に向けて準備をしていこう

と思うでしょうが、ただ、実際に行動するのは難しいようです。生命保険文化センター『生活保障に関する調査 2022年度』で「自分や家族の将来をどのようにしたいか、そのための経済的準備をどうしたらよいか」と、具体的な生活設計の有無を聞いたところ、「生活設計あり」は39.9%と4割を下回ります。性別・年齢別にみてみても最も高い「40代男性」でさえ、46.7%と半数以下。高齢者の6割が生活苦を訴える現実を前に、なんとか行動を起こしたいものです。

その第一歩としてしたいのが、毎年誕生月に送られてくる「ねんきん定期便」のチェック。圧着ハガキで届き、保険料の納付状況や将来の年金の見込み額などを知ることができます。

記載されている内容は大きく50歳未満と50歳以上で異なり、50歳未満では「ねんきん定期便」の作成時点(原則送付2ヵ月前)で納付済みの保険料に基づく見込み額。50歳以上はこのまま同じように保険料を納めていった場合の見込み額。50歳未満では、たとえば保険料をまだ10年しか納めていないなら、120ヵ月分保険料を納めた分だけの年金額が記されています。そのため「将来もらえる年金額はこれだけ!」とパニックになる人も多いようです。50歳以上では、より現実に近い年金額が記されるようになるので、具体的に老後生活を設計していくのに役立てることができるでしょう。

日本年金機構が間違えるわけがない…という過信で起こる悲劇

ねんきん定期便でチェックしたいのが、保険料の納付状況。きちんと納付がされているか、自分の認識と照らし合わせ、「あれ、納めているはずなのに」という齟齬があれば、まずは連絡を。

――そんな、間違いあるわけないじゃん

そう思うかもしれませんが、人間のやること、100%ということはありえません。たとえば日本年金機構が毎月発表している「事務処理誤り等について」をみていると、年金の過払いや未払いなどの間違いが少なからず起きていることがわかります。このなかで恐ろしいのが「年金過払い」です。

たとえば年金月17万円を受け取るはずの65歳男性。偶数月の15日に2ヵ月分が振り込まれますが、そこでふと気づきます。「あれ、5,000円多いような……」。しかし多い分には特に問題ないとアクションを起こさずに20年後。85歳になったときに突然、「年金を払い過ぎていました。返してください」と連絡があるわけです。月2,500円、1年で3万円、20年で60万円……そんなお金返してといわれても、使ってしまってあるはずがありません。

――もう使ってしまって払うことはできません

――でも払ってもらわないと困ります

日本年金機構では、事務処理誤り等の年金の過払いについて、「法律上の原因がなく支払われたものであり、民法(明治29年法律第89号)に基づく不当利得として返還を求める必要がある」として、過払い年金の返納事務を行っています。2024年9月の報告では、たとえば、「共済年金への記録の移管後の厚生年金保険の記録削除漏れによる老齢厚生年金の支給誤り」として、対象1人に264万円の過払いがあったとしています。突然「264万円の借金」が発生したようなもので、寝耳に水、「何かの間違いでは?」と騒いだところでどうしようもありません。

一方、厚生労働省は、返納金債権のうち年金給付の過誤払により生じた返還金に係るものについて、会計法第30条の規定により5年間行使しないときは時効により消滅するとしています。どちらにせよ、法律の専門家の領域という部分もあり、素人にはどうすることもできなさそう。

こんな面倒すぎることに巻き込まれないためにも「ねんきん定期便」で、将来の年金額はもちろんのこと、「年金制度に間違いなく加入しているか」はしっかりとチェックを。また日本年金機構からの通知は必ず目を通して、違和感を覚えるようなことは、きちんと解決しておくのがベストです。

[参考資料]

厚生労働省『令和5年国民生活基礎調査』

生命保険文化センター『生活保障に関する調査 2022年度』

日本年金機構『事務処理誤り等について』