石破茂首相

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続投意向

 与党過半数割れ――。10月27日投開票の衆院選は自民、公明両党の歴史的敗北に終わった。にもかかわらず、まるで居直るかのように「誰も詰め腹を切る必要はない」と周囲に語る石破茂首相。世論に見放され、側近不在の孤独な宰相、その政権運営は迷走必至だ。【前後編の前編】

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 10月28日午後2時、自民党本部。紺のスーツに水色のストライプのネクタイという格好で記者会見に臨んだ石破首相は、終始厳しい表情を崩さないまま、

「“政治とカネ”に対する国民の疑念を払拭できなかった」

 今回の衆院選の敗因をそう分析した上で、自身の責任については、

「国政は一時たりとも停滞が許されない」

石破茂首相

「現下の厳しい課題に取り組み、国民生活を守る、日本国を守ることで職責を果たしていきたい」

 などと述べ、続投する意向を示したのだった。

 最終的な獲得議席数は自民党が191、公明党が24で、与党として計215議席。過半数の233議席に18議席足らない、という結果だった。一方、立憲民主党は選挙前の98議席から50議席増の148議席、国民民主党は選挙前の4倍の28議席を確保し、大躍進を遂げた。

「夜、電話していると声のトーンが……」

 石破首相の妻、佳子さんが振り返る。

「選挙の間、毎日電話でやりとりはしていたのですが、情勢の厳しさに関しては私には言わなかったですね。けど、疲れていると声のトーンがより下がるんですよ。夜、電話していると声のトーンが下がっていることが多かったです」

 歴史的大敗ともいえる選挙結果について、元自民党事務局長で選挙・政治アドバイザーの久米晃氏は、

自民党と公明党は予想通りの惨敗。しかし、立憲民主党などの野党に対しても、2009年の“政権交代選挙”の時のように追い風が吹いたわけではありませんでした」

 と、語る。久米氏は自民党職員として30年以上も選挙に携わった「選挙のプロ」である。

自民党が勝手につむじ風に巻き込まれて苦しんでいるのを、無風状態の野党が傍観している、という雰囲気だったのではないか。みんなあきれかえって自民党を見ているかのようでした」(同)

2000万円問題

“つむじ風”の正体は言うまでもなく、東京地検特捜部が手がけた「政治資金パーティー収入不記載事件」である。石破首相は事件に関係した候補のうち、10人を非公認とし、他の34人については比例代表との重複立候補を認めずに選挙に臨んだ。その“裏金候補”らの選挙結果は、18勝28敗。高木毅氏や下村博文氏、武田良太氏といった大物議員がこぞって落選したのは、選挙戦終盤に発覚した「2000万円問題」の影響も大きかった。

〈裏金非公認に2000万円 公認と同額 自民本部が政党助成金〉

「しんぶん赤旗」がそんな見出しのスクープ記事を掲載したのは、選挙まであと4日と迫った10月23日のことだった。記事によると、公認候補に支払われたのは公認料500万円と活動費1500万円の計2000万円。一方、非公認となった候補に対しても、党勢拡大のための活動費として同額の2000万円が支払われた。この報道を全国紙も後追いし、野党は「裏公認料だ」として一斉に批判。自民党を苦しめていた“つむじ風”がいっそう勢いを増すことになったのだ。また、この問題に対する石破首相や党執行部の対応もまずかった。

石破首相の「本当に最悪の対応」

 赤旗報道が世に出た日、自民党の森山裕幹事長は、

「政党支部に対し党勢拡大のための活動費として支給した。候補者に支給したものではない」

 とのコメントは出したものの、会見などは開かず。石破首相に至っては赤旗報道翌日の24日、広島での街頭演説で、

「私どもはそのような報道に負けるわけにはいかない。そのような偏った見方にも負けるわけにいかない」

“逆ギレ”ともいえる発言をしたのである。

「広島での発言は前日、夜更けまでかかって自分で考えたものだったようです。しかし、あれは本当に最悪の対応でした。あんなことを言うなら黙っていたほうがよかった」

 と、官邸関係者。自民党関係者に聞いても、

「選挙においては、“何これ?”と人々に疑問に思われるようなことは絶対にやってはいけません。今回の2000万円問題はまさにその典型。非公認候補の支部への支給は公認料の500万円分を引いて1500万円にしておくなど、公認と非公認で金額に差をつけていれば言い訳ができたはず。そうしなかったからこの問題について説明できなくなってしまったのです」

「余計なことをしてくれたな、と思います」

 選挙戦終盤に、

「暴風となって吹き荒れた」(自民党代議士)

 2000万円問題。それは誰の判断で引き起こされたものだったのか。

「決裁者の森山幹事長と、党の金庫番である元宿仁事務総長。どちらかが主導したのでしょう。また、石破首相にも当然、報告は上がっていたはずです」(先の自民党関係者)

 非公認ながら当選を果たした平沢勝栄元復興相は2000万円問題について次のように話す。

「こんな大きな問題になるってことを全く想像できなかったとしたら、(党執行部は)ちょっとどうかしてると思うな。余計なことをしてくれたな、と思いますよ。時期が悪過ぎますよ。なんでこんなにセンスがないんだろう」

「党の執行部に責任を感じていただきたい」

 石破首相と総裁選で戦った小林鷹之元経済安保相もこう慨嘆する。

「2000万円の問題が報じられたことによって、自民党候補が苦戦を強いられ、多くの有為な人材が苦杯をなめる結果となった。だから、私は万歳する気にはなれなかった。党の執行部の方々には、この責任を感じていただきたい。2000万円問題と併せて、非公認・比例重複を認めないという突然の決定についても丁寧に説明いただきたい」

 怨嗟の声が上がっているのは、党執行部に対してだけではない。大敗を喫したにもかかわらず続投の意向を示した石破首相に対する疑問の声も、党内には渦巻いている。

「責任を取るのは当然」

 山田宏参院議員が言う。

「本人が勝敗ラインを与党の過半数と決めたわけだから、目標を達成できなかったら責任を取るということでしょ。そうじゃないと、そんなことを宣言する意味がないじゃないですか」

 西田昌司参院議員も、

「選挙で負けたら責任を取るのは当然だから、まずは今の事態を考えるべき。それを考えた上で、次の総裁になる人が党を立て直しましょうということです」

 そう憤慨するのだ。

「仲間が何十人も“死んで”いるんだから、敗軍の将の責任はあるでしょう。幹事長を指名したのも、解散を決めて内閣支持率が下がっている中での選挙になったのも、全部、石破さんの責任じゃないですか」(同)

 後編【「自派閥もなく、まともな側近もいない」 石破首相の「多数派工作」の行方は… 「私だったらノイローゼに」】では、今後難航が予想される政権運営の行方について報じている。

「週刊新潮」2024年11月7日号 掲載