状況を察した宮永さんは男をはねのけてから、「ちょっと待て。誤解だよ。彼女が自分から僕の部屋に行きたいと言ったんだ。部屋に入るなり、ベッドに倒れ込んでいびきをかいて寝てしまった。だから何もなかったんだよ」と説明したが、男は「嘘つけ、このボケ! ミユキが襲われたと言っているぞ」とさらに掴みかかってきた。

「本当に誤解なんだよ、彼女に聞いてくれよ」と何度も誤解を解こうとしたが、若い男は首を横に振り、「警察に訴えられたくなかったら、ここで示談金を払え」と脅してきた。宮永さんはやっと事情を察した。彼女は美人局なのだ。その時、ある男のことが閃いた。

◆「大阪では二度とナンパしない」

「本当に何もしてないよ。でも示談金を要求するなら、弁護士に相談する」宮永さんはポケットからスマホを取り出して、ある男に電話をした。ある男とは弁護士ではなく、友達の作家だった。

 幸いなことに作家の友達がすぐに電話に出た。こっそりと事情を説明し、「弁護士に相談すると言ったから、電話を替わるけど、いいかな」と言うと、友達は状況を察してくれた。そして弁護士になりすました作家の友達の言われるままに、若い男は自分のスマホを取り出して、友達の番号に電話をかけるとみるみるうちに表情が変わった。

「くそっ!と電話を切った男は、『有り金全部出せ! それで勘弁してやる』と言うので、ポケットから財布を出したら、小銭しかなかったんですよ。クレジットカードはバックの上げ底にあるもうひとつの財布に隠していたから、カードもなし。美人局の男女が関西弁で悪態をつきながら出て行ってくれました」

 宮永さんも大急ぎでチェックアウトをして、東京に戻った。新大阪駅のホームから宮永さんは作家の友達に電話。後日、とっておきのディナーをご馳走すると約束をした。そして「大阪では二度とナンパしない」と心に誓ったという。

<取材・文/夏目かをる>

―[ラブホの珍ハプニング]―

【夏目かをる】
コラムニスト、作家。2万人のワーキングウーマン取材をもとに恋愛&婚活&結婚をテーマに執筆。難病克服後に医療ライターとしても活動。ブログ「恋するブログ☆〜恋、のような気分で♪」