金融課税を嫌う一部の投資家は、ロレックスをはじめとする高級時計にマネーを移動しはじめている

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金融課税を嫌う一部の投資家は、ロレックスをはじめとする高級時計にマネーを移動しはじめている
5度目の挑戦で自民党総裁選を勝ち抜き、第102代総理大臣に選出された石破茂氏。その石破首相が総裁選でぶち上げたのが金融所得課税の強化だった。すると、他の候補者はもちろん、株式投資のインフルエンサーや資本家らがSNS上で一斉に反発。さらに市場も反発して、9月30日の日経平均株価は一時2000円以上下落し、「貯蓄から投資へ」という国策に水を差すかたちとなった。

そんな中、近年高騰著しいロレックスなどの「実物」が新たな投機対象として注目されるが、「実物」投資は多発する「押し込み強盗」に狙われる危険性をはらむ。

【写真】反発される石破首相

■ZOZO創業者前沢氏「投資する人が増えてきたのに」

石破首相が言及した金融所得税とは、株式・投資信託の売却益や配当金に、一律約20%税率が課されるものだ。累進性はなく、給料所得などに課される所得税や住民税とは分離して課税される。

金融所得は富裕層ほど多いため、その課税強化は「富裕層増税」とも言われるのだが、総裁選で石破首相が「金融所得課税の強化」に言及すると、SNS上で「株クラ」と呼ばれる株式投資の愛好家や、若いうちに資産形成をして早期退職し、配当金でFIRE生活を送る人たちが一斉に反発した。


10月4日、所信表明演説に臨んだ石破首相
配当株投資に関する著作があり、X(旧ツイッター)のフォロワー数約19万人以上の著名なインフルエンサー・配当太郎さんは9月28日のポストで、「金融所得課税強化は富裕層が対象なら関係がない、問題はないではない。一度実施されると徐々にその対象が広がって行く」と警鐘を鳴らした。

さらに、配当金を主な収入源とするFIRE民たちも、9月30日前後のX上で、「金融所得課税もやられたら全て終わりだな」「金融所得課税にはぜひ反対のムーブを!」と次々にポスト。ZOZO創業者の前沢友作氏もX上で「せっかく投資を始めようとする人たちが増えてきたのに増税はやめて」と訴えた。

実際の株式市場も敏感に反応した。石破氏が新総裁に選出されて初めて開かれた9月30日の東京株式市場では、日経平均株価が全面安となり、前週末の終値より1900円以上も下落して「石破ショック」と呼ばれた。

全国紙の経済部記者が解説する。

「通常、新しい内閣が誕生すると、『ご祝儀相場』と言って株価は上がるものですが、株価は大幅な下落となり、市場は石破内閣に早速冷や水を浴びせた格好です」

■「ロレックス」投資で2000万の利益

「今年は、ロレックスを十数本売ってトータル1000万ぐらい儲かりましたよ。石破首相誕生で株への投資はますます遠のきましたね。やっぱり実物が一番です」

九州地方在住で、大手保険代理店に勤める望月亮さん(仮名、50)は、株式に代わる投資先を「ロレックス」や「パティック・フィリップ」といった海外の高級時計に見出す。転勤族の望月さんは新しい勤務地に着任すると、その地方にある時計店を調査。ターゲットの時計店を絞った後、足繁く通い、懇意となった店員から高級時計を定価で売ってもらう。それをさらにプレミア価格がつく時計販売店へと転売し、この10年でこれまでに2000万近い利益を手にした。

「『貯蓄から投資へ』とか言うけど、株って結局、その時の政権や首相に影響して乱高下するじゃないですか。ましてや金融所得税の強化とか言い出した石破さんが総理になったわけだし、これでますます株式投資が遠のいた気がします」(望月氏)

確かに、近年の高級時計の相場は高騰している。高級時計の中でも「リセール価格が優れているのがロレックス」と望月さんは言う。大手中古時計専門店のウェブサイトによると、高級時計は2019年頃から価格が上がり始め、世界的なインフレや品薄も重なり、「ロレックス」の代表的な人気モデル「デイトナ」の定価は現在約197万円だが、市場では500?600万で取引されているという。

「ユーチューバーのヒカキンが3500万で買って話題になったロレックスの記念モデル『デイトナ ル・マン』だって定価は700万ぐらいですから。ただ問題なのは、こういった価格高騰の影響で今や正規時計店に行っても一般人にはまず売ってくれなくなってしまったことです。ですから、地道に時計店をまわり、店員と関係性を作ってロレックスを売ってくれるような営業活動が必須になるんです」(望月氏)

同じ九州地方に住む望月さんの友人は、こうした高級時計の投資にのめり込み、週末は泊りがけで都内に赴き、1日何十軒もの時計店をまわるという。宿泊費や交通費はかかるが、「ロレックス1本入手できれば全てプラスになるから気にならない」と、そんな生活を何年も続けているという。

望月さん自身はこうしたロレックス投資を続けるかたわら、もう一つの実物投資として高級時計以上に近年高騰著しい金相場を見据えている。

「インフレの影響を受けにくて価値が下がりにくいし、ピンチになったときにすぐに換金できるのも魅力ですね」(望月氏)

■タンス預金に舞い戻る高齢者

「我々のような年寄りはタンス預金が一番だと思ってます」

関東地方の郊外に住む男性(82)は、石破政権誕生で揺れる株式市場のニュースを見ながら改めてそう感じた。大手造船会社を65歳で定年後、まもなくして妻を亡くし、一人で年金暮らしを送っている。定年退職時に3000万円を超える退職金を手にし、どこから聞きつけたのか、銀行や証券会社から投資に関する種々の営業電話がきたが、「胡散臭いし、面倒くさくて」手を出していない。昨年自宅で転倒して足を骨折してからは、外出には杖が欠かせなくなった。


金融課税はNISAによって促された国民の投資への関心に対する冷水となり、タンス預金が再び増加する可能性も
「銀行まで車で20分かかるので、行くこと自体が大変な労力。だから金庫を置いて、そこにドカンと現金を入れておき、好きな時に使うのが都合がいい。

預金口座にたくさんお金を入れておくと、銀行からの営業の電話があって面倒くさい。今更お金を増やそうなんて思いませんしね。石破内閣が何をどうしようが私の金庫は無風です」(82歳男性)

「長年日本は、膨れ上がった家庭の貯蓄をいかにして投資に回すかが大きな課題でした。石破内閣の誕生によって新NISAによる『貯蓄から投資へ』の流れが後退する可能性もあり、高齢者を中心にタンス預金も再び増えていくかもしれませんね」(同上記者)


タンス預金の増加は、近年増加している押し込み強盗の温床となる危険性も指摘されている
奇しくも、9月から10月にかけて東京都や埼玉県では強盗事件が相次ぐ。いずれの手口も、深夜に住宅に押し入って住民らに暴行を加えて緊縛する「押し込み強盗」で、闇バイトで集った若者たちの犯行とみられる。警視庁のある捜査関係者は警告を鳴らす。

「広域強盗事件があれだけ騒がれても、いくらでも新規参入組が出てくる。食えないヤクザには入らず、タタキ(強盗)でもやって小金を稼ぐのが手っ取り早い。匿名アプリの進化も犯行を後押ししている。解析可能になったテレグラムはもはや古く、連中は最近はシグナルというアプリを使っている傾向が強い」(捜査関係者)

富裕層から税金を絞り、庶民の喝さいを浴びて政権浮揚につなげようという意図が透けて見える金融課税強化だが、凶悪事件の横行という危険性まではらんでいるのだ。

文/山本優希 写真/首相官邸、奥窪優木、photo-ac.com