『放課後カルテ』©︎日本テレビ

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 10月12日に始まった『放課後カルテ』(日本テレビ系)は小学校の保健室を舞台にしたヒューマンドラマだ。通常はケガや体調不良のときに訪れる保健室。それだけではなく、悩みがあるときや教室に居づらいときなど、子どもたちが利用する理由はさまざま。そこに行けば、どんなときも保健室の先生が笑顔で迎えてくれて、ホッとできるオアシスのような場所だった。

参考:松下洸平、『放課後カルテ』クランクイン 「これから先、30~40人と一緒に作るシーンも」

 西東京にある東多摩第八小学校に、新しくやってきた保健室の先生・牧野(松下洸平)は超仏頂面。態度も言葉遣いも悪く、赴任早々子どもたちに「保健室にはなるべく来ないでもらいたい」と言い放つ。だけど、第1話ではそのたしかな観察眼と医学の知識、そしてぶっきらぼうな態度に隠れた優しさが伝わってきた。

 ちなみに保健室の先生といえば、養護教諭のイメージがあるかもしれないが、牧野の場合は養護教諭ではなく学校医。もちろん医師免許を持っており、牧野はもともと大学病院で小児科医として働いていた。教員や保護者など大人は心強いかもしれないが、子どもたちは違う。医学の豊富な知識と経験よりも、重要視しているのは親しみやすさ。それとは無縁な牧野を怖がり、生徒たちの足は保健室から遠ざかっていく。

 特に保健室の先生が牧野になったことで困っていたのが、6年2組のゆき(増田梨沙)だ。彼女は夜早めにベッドへ入っているにもかかわらず、昼間に突然激しい眠気に襲われ、たびたび保健室で仮眠をとっていた。しかし、「勝手に寝るな」と牧野に言われ、その平穏が破られる。のちに明らかになるのだが、ゆきが眠くなるのはナルコレプシーという睡眠障害が原因だった。

 明確な原因は未だ解明されておらず、日中に我慢できないほどの眠気に襲われる(睡眠発作)、寝ているときの金縛り(睡眠麻痺)、強い感情に伴って体の力が抜ける(情動脱力発作)などの症状が挙げられる。本作を観て初めて知った、という人も多いのではないだろうか。大人でも知らない人が多いこの病気を子どもが知るはずもなく、一人で悩んでいるケースも多い。ゆきもできる限り自分の状況を親や友達に訴えてきたが理解を得られず、「夜更かししてるんじゃないか」「サボりたいだけなんじゃないか」と言われて心を閉ざしてしまっていた。

 そんなゆきを前にして牧野が思い出したのは、立ち入り禁止の裏山でツツガムシに刺されてしまった児童・拓真(柊吾)の言葉だ。そのせいで体調不良だったにもかかわらず、友人たちを連れて再び裏山に入ったところで倒れてしまった拓真。そんな風に無理をしてでも友人たちを裏山に連れていったのは、秘密基地を見つけたことを信じてほしかったから。結果、倒れてしまったけれど、無事友達に嘘じゃないことをわかってもらえて「信じてもらえないのきつかった」と安堵の涙を流す拓真を見て、子どもの頃、何よりも辛かったのはどんなに些細なことでも親や友達に自分の言葉を信じてもらえないことだったと思い出した。

 ゆきもそうであり、どうせ信じてもらえないと諦めていたが、「最初から疑ってかかるようなことはしない」という牧野の言葉を受けて症状を説明し始める。表情は相変わらず仏頂面だけど、「この人なら信じてみてみよう」と子供に思わせる安心感を出せるのは松下だからこそ成せる技だろう。ゆきが話しやすいようにぬいぐるみで恥ずかしながら会話しようとしたり、頭を悩ませながらツツガムシ病について知らせる保健だよりを作ったり、そのぎこちなくチャーミングな一挙手一投足からも不器用なだけで本当は優しい人であることが伝わってきた。

 その後、ゆきが話した症状からすぐにナルコレプシーであることを特定し、彼女を責めていた他の生徒たちを「周囲の人間が病気を知らないことで知らず知らずのうちに当人を追い詰める」「どれだけ酷いことをしたか自覚しろ」と叱咤する。厳しい言葉だが、子どもだからといって大人が全てを許していれば、学ばずに大人になってまた誰かを傷つけかねない。実際、本人の事情も知らず偏見や憶測で誰かを傷つけ、追い詰めてしまうことは大人になってもある。牧野の言葉はそんな私たち大人の胸にも強く語りかけてきた。

 怖い先生と誤解されがちだが、「私を初めて見つけてくれた先生」とゆきが心を許したように牧野は少しずつ児童の信頼を得ていくのだろう。松下の好演が光った第1話だが、森川葵が演じる6年2組の担任・篠谷の存在も見逃せない。彼女が牧野に語った「みんながみんな本心を見せてくれるわけじゃない」という言葉が印象的だった。その頑張りが空回りしているところもあるが、少なからず彼女は生徒たちのことを全て理解できているわけじゃないことを分かっている。その上で生徒たちが出しているわずかなサインを見逃さないようにしている。牧野は観察眼に優れているが、彼がいるのはあくまでも保健室。教室の中で起きていることはわからないし、先生との連携も必要になってくる。今はぶつかることも多い2人だが、いずれは大事なパートナーとなってくるのではないだろうか。

 今回のメインであるゆき役の増田梨沙、拓真役の柊吾をはじめ、児童を演じる子役たちの名演もこの物語の重要な要素を担っている。特に鍵を握ってくるのは、転校生の啓(岡本望来)だろう。「牧野先生って患者を殺したらしいよ」という彼女の衝撃的なセリフで締めくくられた初回の放送。冒頭にも患者の親(塚本高史)から「誤診じゃないのか」と言われる回想シーンがあったように、本作は牧野の過去も見どころになってきそうだ。

(文=苫とり子)