ワキガ

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監修医師:
高藤 円香(医師)

防衛医科大学校卒業 / 現在は自衛隊阪神病院勤務 / 専門は皮膚科

ワキガの概要

ワキガは、医学的には腋臭症と呼ばれる状態で、特に脇の下から強い臭いが発生することを指します。この臭いは、脇にあるアポクリン汗腺から分泌される汗が皮膚の表面に存在する細菌によって分解される過程で発生します。ワキガは、遺伝的要因や性ホルモン、精神的要因、スポーツによる発汗など様々な要因によって引き起こされます。

ワキガの影響

ワキガは身体的な症状にとどまらず、心理的な影響も及ぼします。強い体臭は、周囲の人々とのコミュニケーションに悪影響を及ぼし、本人の自信や社会生活にマイナスの影響を与える場合があります。そのため、適切なケアと治療が重要です。

ワキガの社会的認識

日本では、体臭に対する感受性が高く、ワキガに対する社会的な弊害は大きいです。実際に労働や勉強においてパフォーマンスが低下すると言われています。このため、多くの患者さんが恥ずかしさやストレスを感じ、治療を受けるのをためらうことがあります。しかし、医療機関での適切な診断と治療を受けることで、多くのケースで症状をコントロールすることが可能です。

ワキガの原因

ワキガの原因は多岐にわたりますが、主に遺伝的要因、性ホルモン、精神的要因、身体的特徴などが挙げられます。

遺伝的要因

ワキガの発生には遺伝が大きく関与しています。親がワキガである場合、その子供もワキガになる確率が高くなります。これは遺伝的要因により、アポクリン汗腺の数や活動が増加しやすいためです。

性ホルモン

腋臭症は思春期に発症しやすく、20歳代でピークとなります。女性では月経前から月経時に増強するため、性ホルモンの分泌が影響していると考えられます。

精神的要因

腋臭症は精神的要因も影響します。ストレスや精神的に緊張する場面に置かれると発汗します。発汗でアポクリン腺からの分泌液が細菌種により代謝されるとにおいの原因になります。

身体的特徴

ワキガでは、腋毛が多く腋窩多汗症を合併し、耳孔や陰部の臭いを伴うことがあります。これはアポクリン汗腺は耳孔や陰部にも分布しているためです。アポクリン汗腺は、特に脇の下、乳首、耳、陰部などに多く分布しており、脂質やタンパク質を多く含む汗を分泌します。この汗が皮膚の表面で細菌と反応することで、強い臭いが発生します。アポクリン汗腺の活動が活発になると、分泌される汗の量が増加し、臭いが強くなる傾向があります。

ワキガの前兆や初期症状について

ワキガの前兆や初期症状は、多くの人が見過ごしがちですが、早期に気づくことで適切な対処が可能です。

自覚症状

ワキガの初期症状として自覚できるのは脇の下からの特有の臭いです。この臭いは、運動後や緊張した時、暑い季節など、汗をかく状況で特に強くなります。自分自身で臭いを感じる場合もありますが、他人から指摘されることで気づくことが多いです。

衣服の変化

ワキガの初期症状として、衣服に黄ばみや臭いが残る場合があります。特に、白い衣服の脇の部分に黄色いシミができることが多く、このシミは洗濯しても落ちにくいです。また、衣服に臭いが染み付いてしまうのもワキガの兆候の一つと考えられます。

皮膚の変化

ワキガの初期症状として、脇の下の皮膚が湿った状態が続くことがあります。これは、アポクリン汗腺からの汗の分泌が増加するためで、皮膚が常に湿っている状態が続くと、細菌の繁殖が促進され、臭いが強くなります。また、湿った状態が続くことで、皮膚が赤くなったり、かゆみを感じることもあります。

心理的な影響

ワキガの初期症状として、臭いに対する過剰な意識や不安を感じることがあります。他人に臭いを指摘されることを恐れ、緊張やストレスを感じることが増える場合もあります。このような心理的な影響は、さらに汗の分泌を増加させ、悪循環を引き起こすことがあります。

多くの患者さんは、ワキガの初期症状に気づいても、それがワキガであるとは認識していない場合があります。特に若年層では、自分の体臭に対する認識が低いため、症状が進行するまで気づかないことが多いです。ワキガに関する知識を持ち、早期に気づくのが重要です。症状を感じた場合は、皮膚科を受診しましょう。

ワキガの検査・診断

ワキガの検査・診断は、専門医による詳細な診察と検査を通じて行われます。適切な診断を受けることで、効果的な治療が可能となります。

問診

医師は患者さんの症状や家族歴、生活習慣について詳しく聞き取ります。臭いの発生状況や強さ、日常生活での影響などを確認し、ワキガの疑いがあるかどうかを判断します。家族に同様の症状を持つ人がいる場合、遺伝的要因も考慮されます。

身体診察

身体診察は患者さんの脇の下を観察し、皮膚の状態や汗の分泌状況を確認します。アポクリン汗腺の活動が活発な場合、脇の下の皮膚が湿っていることが多く、これがワキガの一つの兆候とされます。また、臭いの有無や強さを確認するために、直接臭いを嗅ぐこともあります。

皮膚表面の細菌検査

ワキガの原因となる細菌の存在を確認するために、皮膚表面の細菌検査が行われる場合があります。綿棒などで脇の下の皮膚を軽くこすり、採取したサンプルを培養して細菌の種類を特定します。この検査により、臭いの原因となる細菌が存在するかどうかを確認できます。

パッチテスト

パッチテストは、皮膚に特定の物質を貼り付けてアレルギー反応を確認する検査です。ワキガの場合、汗の成分に対するアレルギー反応が臭いの原因になる場合があります。このため、パッチテストを行うことで、アレルギー性の要因が関与しているかどうかを確認します。

ワキガの診断を行う際には、他の皮膚疾患や感染症との鑑別診断も重要です。例えば、皮膚の炎症や感染が原因で臭いが発生している場合、適切な治療が必要です。医師は、症状や検査結果を総合的に判断し、ワキガかどうかを診断します。

ワキガの治療

ワキガの治療は、多岐にわたる方法があり、症状の程度や患者さんの希望に応じて適切な治療法が選択されます。治療の目的は、臭いの発生を抑えることと、患者さんの生活の質を向上させることです。

日常的なケア

ワキガの軽度の場合、日常的なケアで症状を抑えられます。まず、清潔を保つことが重要です。毎日シャワーを浴び、脇の下をよく洗いましょう。また、制汗剤やデオドラントを使用することで、汗の分泌を抑え、臭いを軽減することができます。

医薬品の使用

ワキガの治療には、医薬品も利用されます。エタノールやクロルヘキシジンなどの成分を含むデオドラント製品や石鹸を使用することで、細菌の繁殖を抑え、臭いを軽減する効果があります。使用を中止すると腋臭は再発するため、継続的に使用する必要があります。

ボトックス注射

ボトックス注射は、汗腺の働きを一時的に抑える治療法です。ボトックス(ボツリヌストキシン)を脇の下に注射することで、アセチルコリンの放出を抑え、汗の分泌を減少させます。効果は一時的で、数か月間持続しますが、定期的な施術が必要です。

外科的治療

ワキガの症状が重度の場合、外科的治療が選択されることがあります。最も一般的な方法は、アポクリン汗腺を切除する手術です。脇の下に小さな切開を入れ、汗腺を取り除くことで、根本的な治療が可能です。手術にはリスクも伴いますが、効果は長期間持続します。

生活習慣の改善

治療と併せて、生活習慣の改善も重要です。バランスの取れた食事や規則正しい生活、ストレスの管理などを心がけることで、体の全体的な健康状態を向上させられます。さらに、赤み肉の摂取を抑えたり入浴や皮膚の清潔を保つことで腋臭が改善する可能性があります。これらの方法で、ワキガの症状を軽減することが期待できます。

ワキガになりやすい人・予防の方法

ワキガは、特定の条件や体質によって発生しやすい傾向があります。予防のためには、自分の体質や生活習慣を理解し、適切な対策を講じることが重要です。
ワキガには遺伝的要因が大きく関与しています。親がワキガの場合、その子供もワキガになるリスクが高くなります。遺伝的にアポクリン汗腺の数が多い場合、汗の分泌が活発であるため、臭いが発生しやすくなります。このため、遺伝的要因がある人は特に予防策を講じることが重要です。

ワキガの予防には、食生活の改善、衣服の選び方、ストレス管理、清潔の保持、定期的なケアなどが大切です。以下で具体的に解説します。

食生活の改善

食生活の改善はワキガの予防に効果的です。高脂肪、高タンパクの食事は、アポクリン汗腺の活動を活発にし、臭いを強くする可能性があります。バランスの取れた食事を心がけ、特に野菜や果物、食物繊維を多く含む食品を摂取することで、腸内環境を整え、体臭の発生を抑えることができます。

衣服の選び方

通気性の良い衣服を選ぶことで、汗の蒸発を促し、臭いを軽減することができます。綿やリネンなどの天然素材の衣服は、汗を吸収しやすく、臭いをこもらせにくい特性があります。また、フィット感の良い衣服を選ぶことで、摩擦を減らし、汗の分泌を抑えられます。

ストレス管理

ストレスは、汗の分泌を増加させる要因となります。ストレスを適切に管理し、汗の分泌を抑えることでワキガの発生を予防することができます。リラックスする時間を持つことや、適度な運動を行うこと、趣味を楽しむことなど、ストレスを軽減する方法を取り入れましょう。

清潔を保つ

毎日シャワーを浴び、脇の下を清潔に保つことが重要です。特に運動後や汗をかいた後は、早めにシャワーを浴びて汗を洗い流しましょう。また、抗菌効果のある石鹸やボディウォッシュを使用することで、細菌の繁殖を抑えることができます。

定期的なケア

定期的に制汗剤やデオドラントを使用することで、汗の分泌を抑え、臭いを軽減することができます。また、脇の下の毛を定期的に処理することで、汗や細菌の繁殖を防ぎ、臭いの発生を抑えることができます。

これらの予防策を実践することで、ワキガの発生リスクを低減し、快適な生活を維持することができます。自分の体質や生活習慣を見直し、適切な対策を講じることで、ワキガの症状を効果的に管理しましょう。


関連する病気

腋臭症

腋窩多汗症

参考文献

一般社団法人日本形成外科学会脇臭症(わきが)

新たな腋臭菌と腋臭を抑制する素材の発見

腋臭症診療ガイドライン

抗コリン外用剤で治療を行った原発性腋窩多汗症と腋臭症との合併例の臨床的検討