人が全然足りない…人口激減ニッポンの「人手不足」が引き起こす「深刻な影響」

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この国にはとにかく人が足りない!個人と企業はどう生きるか?人口減少経済は一体どこへ向かうのか?

なぜ給料は上がり始めたのか、経済低迷の意外な主因、人件費高騰がインフレを引き起こす、人手不足の最先端をゆく地方の実態、医療・介護が最大の産業になる日、労働参加率は主要国で最高水準に、「失われた30年」からの大転換……

注目の新刊『ほんとうの日本経済 データが示す「これから起こること」』では、豊富なデータと取材から激変する日本経済の「大変化」と「未来」を読み解く――。

(*本記事は坂本貴志『ほんとうの日本経済 データが示す「これから起こること」』から抜粋・再編集したものです)

データと企業事例から考える

本書『ほんとうの日本経済』の特徴として、労働市場を起点に経済全体の構造を捉えているということがあげられる。

これは労働市場の分析が私の専門であるからという点が大きいが、これまでの日本経済の状況を理解するうえで、労働市場を起点として考える方法が結果として、最もあてはまりが良かったと感じるからでもある。

財・サービス市場や資本市場の変化についても必要に応じて触れ、労働市場の需給や賃金の動向、人々の働き方や現場のタスク構造の変化などに特に注目しながら、日本経済の現在地点を解説する。

さらに、ふだん経済にはあまりなじみのない読者を想定したうえで、現在起きている経済の構造変化について、具体的な事例を通じてその実態を丁寧に解説することも本書のコンセプトとしている。

経済の実態をつかむためには、経済統計の分析が欠かせない。その一方で、データ分析だけで経済の変化を実感をもって把握することは難しい。また、経済の行方を決める上で技術革新の動向は最も重要な要素になるが、近年のデジタル技術の浸透に伴う経済の実態変化はデータだけでは見えてこない。

こうした問題意識から、『ほんとうの日本経済』ではデータによる分析と合わせて、地方に拠点がある中小企業から首都圏に本社を置く大企業まで、さまざまな業種の企業の経営者に対して私が行ったインタビューを通じ、実際の企業や労働者の行動変化を浮かび上がらせている。さまざまな統計データと企業の事例紹介を通じて、読者にリアリティをもって経済のメカニズムを実感してもらうこともまた本書の狙いの一つである。

『ほんとうの日本経済』の構成は以下のようになっている。

プロローグでは、山形県酒田市の事例をもとに、人口減少の影響をいち早く受けている地方の中小企業に焦点を当てながら、近年企業が直面している経済環境の変化を解説する。

続いて第1部では、統計データを分析することで、近年の日本経済で起きている構造変化を概観する。

第2部では再び企業事例の紹介に移る。人口減少が続く中、少ない人手で効率的に生産するため、企業は絶え間ない努力を行っている。各業界の事例については私が必ずしもそれぞれの業界の事例に精通しているわけではないことからあくまで概説的な説明にとどまる。しかし、さまざまな企業事例からはデジタル技術が企業のビジネスの現場や人々の働き方やタスクの構造にさまざまな影響を与え始めていることをうかがい知ることができるだろう。

最後に、第3部ではこうした現状分析をもとに日本経済の先行きを予想する。なお、本書の目的はあくまで人口減少時代の経済の構造変化についてその機序を明らかにすることにあるが、第3部の後半ではこうした変化に伴ういくつかの政策的な論点も付している。

人口減少経済はどこへ向かうか

データを分析していくと、足元の労働市場では人手不足の深刻化や賃金上昇の動きが広がっていることがわかる。さらに、それは2010年代半ば頃から顕在化していることがわかる。

これには日本銀行による大規模金融緩和や政府の財政出動が影響している可能性が高い。しかし、それだけではないだろう。現在の経済の変化について、一時的な政策効果と構造的な変化とを峻別することは難しいが、その根本には人口減少や高齢化といった人口動態の変化があるはずだ。

これまでのデフレーションの時代において、企業が最も警戒してきたのは需要不足の深刻化であった。つまり、人口減少によって国内市場が縮小すれば、将来、企業間で顧客を奪い合うことになるのではないかという懸念が企業の間にあった。しかし、いざふたを開けてみると、多くの地域や業種で需要不足が深刻化する展開にはならなかった。

そうではなく、近年判明してきたのは、人口減少と少子高齢化が引き起こす経済現象の正体は、むしろ医療・介護などを中心にサービス需要が豊富にあるにもかかわらず、それを提供する人手が足りなくなるという供給面の制約だったのである。

現状経済に起きている変化は、景気変動に伴う一過性の現象だけではなく、構造的なものである可能性が高い。そう考えれば、今後もその時々の景気循環による影響を受けながらも、日本経済の供給能力が十分に高まっていくまでのしばらくの間、現在の経済のトレンドは続いていくとみられる。

今後、少子高齢化が進む中で人手不足がさらに深刻化すれば、企業による人材獲得競争はますます活発化する。そうなれば、将来の日本経済においては、多くの人が予想する以上に、賃金が力強くかつ自律的に上昇していく局面を経験するはずだ。その後は、労働市場における激しい競争にさらされる形で企業は利益を縮小させることになり、経営の厳しい企業は市場からの退出を余儀なくされるだろう。

将来の日本経済を展望すると、人口減少に伴う日本の経済規模の低迷や国際的なプレゼンスの低下は、ほぼ確実にやってくる未来だと考えられる。しかし、生産性が低い企業が市場から退出し、人件費高騰に危機感を持った企業が生き残りをかけて経営改革に取り組めば、先進技術を活用した機械化や自動化の進展も相まって、労働生産性はむしろ上昇していく展開になることもありうる。実質賃金に関しても、名目賃金の上昇率が物価の上昇率を上回っていく形で、緩やかに上昇に向かう可能性が高い。

近代において、日本は主要先進国で初めて大規模な人口減少を経験する国になる。人口減少が進む国の経済はどのような道をたどるのだろうか。これから世界の多くの先進国が経験することになる人口減少経済──。その嚆矢となる日本経済の現状を分析することで、人口減少経済の行きつく先を予想してみたい。

つづく「これから日本の地方で何が起こるのか…「人手不足」の先端を走る地方都市が直面する「現実」」では、いち早く人口減少が進んでいる地方部について「人口動態の推移」から分析していく。

これから日本の地方で何が起こるのか…「人手不足」の先端を走る地方都市が直面する「現実」