「令和の米騒動」の原因は猛暑やインバウンドだけじゃなかった...深刻な米不足が今後も起き続ける「本当の理由」

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この夏、「令和の米騒動」とも呼ばれた空前の米不足が注目を集めた。スーパーの棚から次々と米袋が姿を消したことは各メディアで報じられた通りだ。すでに新米が出回る季節となり、米不足は解消に向かっている。

だが、この夏に我々が経験した“米騒動”は今後も繰り返し起きるかもしれない。今回はその理由について考えていきたい。

今夏の米不足を振り返る

まずは今夏の米不足の背景を簡単に振り返ってみよう。すでに各所で指摘されているように、需要と供給、双方にそれぞれ事情があった。

「食べる側」の事情としては、米への需要が増加したことが挙げられる。日本人の米の消費量は右肩下がりだが、直近で思わぬ需要が舞い込んだ。インバウンドの増加や、円安にともなうパンやパスタなどの価格高騰によるものである。

一方、「作る側」の生産者に目を向けると、思うように米が作れない事情があった。夏場の猛暑が当たり前になっている昨今、気温が高すぎるせいで米がうまく育たなくなっているのだ。

出荷される米の品質は、粒の形などによって1等から3等に分けられているが、昨年収穫された「令和5年産米」では1等米の割合が前年比で18%減少(3月末速報値)した。その結果、1等米の流通量が減り、スーパーの棚から米袋が無くなる事態につながった。

綱渡り状態にある「日本の米事情」

今夏の米不足について、各メディアはおおむね、上記のような解説をしている。

だが、こうした説明を聞いて「外国人の旅行客が増えたくらいで、なんで米が無くなるんだ」とお思いの方もいるのではないだろうか。コロナ禍からの回復で急増したとはいえ、訪日外国人旅行者は月間約300万人。そもそも日本には1億2000万人が暮らしていることを考えると、数百万人分の需要が新しく生まれたところで大した影響はないようにも思える。

だが現在の日本の米市場では、こうしたわずかな需給バランスの乱れが思いもよらぬ事態をもたらすことがある。なぜなら、日本政府は米が余らないギリギリのところで生産量を抑制(調整)しようとしているためだ。

米の生産調整といえば「減反政策」というキーワードをご存知の方も多いだろう。戦前までの日本は米を自給できなかったが、戦後に入って自給を達成した。すると、今度は逆に米が余るようになり、大きな問題が発生しはじめた。

なぜ政府は田んぼを減らしたのか

1960年代末まで、原則として米はすべて政府が生産者から買い上げ、消費者に売り渡す制度になっていた。米が余れば生産者に支払われる米の価格(米価)も下がるのが自然だが、当時は農協が強い政治力を有しており、「米価闘争」とも呼ばれる政治運動が展開された結果、なかなか生産者に支払う米価を下げられなかった。

その結果、消費者に売り渡す時の米価より、農家に支払う米価の方が高い「逆ザヤ」と呼ばれる事態が発生。こうなると政府の抱える赤字は増える一方であり、1971年からは米の生産を抑制する政策へと舵が切られた。

具体的には、水田を麦や大豆の畑に変えることが推奨され、これに協力した農家には転作奨励金が支払われた。「減反」の「反」とは田の面積単位であり、文字通り「反(田)を減らす」政策だったのだ。

「減反政策」は廃止されたはずだが……

その後、政府が米を買い取る制度は1990年代には完全に廃止された。だが、減反政策そのものは無くならなかった。消費者の米離れが進んでいるなかでは、生産量をコントロールしないと米価が暴落しかねないからだ。米価が暴落すると米を生産する農家が減り、食料安全保障上、極めて重大な問題になる。したがって、米価を維持するためには減反政策が必要不可欠だった。

しかし、今から約10年前に、政府は減反政策の「廃止」を決定した。「農家が自らの経営判断で作物を作れる農業を実現する」ことが望ましいとして、当時の安倍政権が2018年度から廃止する方針を固めたのだ。

だが、現在もなお、政府は米生産へのコントロールを続けている。ここに「令和の米騒動」が起きたひとつの理由がある。

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