小泉選対委員長と菅副総裁

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菅元総理から全幅の信頼

 日本で安全保障政策に通じた石破茂総理が誕生する一方、世界情勢はこれまで以上にきな臭さを増しつつある。各地で戦火が燃え広がるなか、アジアにおいては中国・台湾問題という誰の目にも明らかな火薬庫が存在する。そしていま、ひとりの外交官が“台北”に赴任することが判明し、霞が関に衝撃が走っている。

【写真】菅政権を影で支え、小泉氏の総裁選でも水面下で動いたとされる「エリート外交官」の素顔

 今年5月、台湾の頼清徳総統は就任演説で、中国が掲げる「台湾は中国の一部」との主張を否定。これに対して中国側は、台湾周辺で大規模な軍事演習を敢行するなど、圧力を強めた。さらに、自民党総裁選が行われた9月27日には、中国外務省の林剣報道官が記者会見で日本側にクギを刺す事態に。同報道官は、石破総理が8月に台湾で頼総統と会談したことについて「中国は日本の政治家の訪台に断固反対している」と言及した。さらに、習近平国家主席も9月30日、国慶節を祝う行事で「台湾は中国の神聖な領土だ」強調している。

小泉選対委員長と菅副総裁

 まさに「いまそこにある危機」と呼べる台湾情勢。その渦中に身を投じようとしているのが、外務省で官房総務課長を務めていた高羽陽氏(51)である。異動先とされるのは、公益財団法人「日本台湾交流協会」だ。同協会は公式な国交がない両国の窓口機関であり、その台北事務所代表は事実上の“大使”に相当する。高羽氏は副代表として赴任する予定だという。

「高羽さんは東大法学部を卒業した1995年に外務省に入省。安倍政権下で日朝交渉を指揮した斎木昭隆外務次官(当時)の秘書官を務め、北米2課長を経て菅義偉官房長官の秘書官に登用された。そこで菅氏から全幅の信頼を寄せられ、“官邸の秘蔵っ子”と報じられたことも。菅総理時代は政権の最後まで総理秘書官を務め上げました」(霞が関関係者)

異例中の異例

 高羽氏は学生時代から付き合いのある女性と結婚し、5人の子宝に恵まれた人呼んで“霞が関のビッグダディ”。長女は父親の背中を追って外務省に入省したばかりだ。また、無類の読書家としても知られ、遠藤周作や中上健次、安部公房、三島由紀夫を愛読する一面も。SNS上に公開している読書日記は「外務省内ではひそかに人気」(同)だという。

 95年入省のキャリア組のなかでは、常に「頭ひとつ抜けた存在」と目されてきた高羽氏。総理秘書官を経て、安全保障に関する議論をリードし、ついに大臣官房の総務課長に登りつめたわけで、

「となれば、未来の“次官候補”として、駐米公使やアジア大洋州局次長といったど真ん中の出世コースを歩むものだと思われていた。それが、まさか台北とは……。チャイナスクールではない外交官が台北事務所に赴任するのは異例中の異例。実は、高羽さんは先の総裁選で、かつての“上司”である菅元総理の意を汲み、小泉進次郎氏を勝利させるべく水面下で動いていたと囁かれている。石破総理は菅さんや小泉さんを懐柔策として党の要職に就けました。その一方で、菅さんや小泉さんの影響力を削ぐために“ブレーンとされる高羽さんを飛ばしたのでは?”という声も聞こえてきます」(同)

「うってつけの人事」

 なるほど、権謀術数が渦巻く永田町らしい噂ではある。だが、外務省関係者はこう話す。

「実際には今回の人事は、高羽さん本人の強い希望もあって、総裁選のかなり以前に決まっていたようです。アフガニスタンでの勤務経験もある高羽さんは、かねて“北京や台北、テルアビブのような日本外交の火種となりうる地域に身を置きたい”と話していた。その意味ではうってつけの人事ではないか。少なくとも高羽さん自身は政治的な野心とは縁遠い人物。むしろ、外交官としての仕事に強いこだわりがあるタイプで、2021年9月に菅総理(当時)が退陣表明しておよそ4年ぶりに外務省へ復帰したときも、“40代のうちに本省の課長として戻ってこられた”と心底、喜んでいました」

 その際、“古巣”で与えられたポジションは安全保障政策課長。いわゆる反撃能力の保有や、防衛関連予算をGDP比で2%まで増加させる方針を明記した「安保関連3文書」を巡って奔走し、岸田政権下で無事に閣議決定への道筋をつけている。

 当時のインタビュー記事で、高羽氏はこう語っていた。

〈「安全保障」を実現していく上では、国の守りを固めておくことも当然重要ですが、同時に、外交の力によって、日本にとって望ましい安全保障環境を創り出し、脅威の出現を未然に防ぐ、いわば「戦わずして勝つ」ことが極めて肝要です〉(「日経ビジネス」2023年3月7日配信)

 中台関係という我が国にとっても重大なリスクに対し、“外務省の軍師”は「戦わずに勝つ」を貫けるのか。

デイリー新潮編集部