優等生だった人ほど「完璧主義」から抜け出せない「厳しすぎる現実」

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根性論を押しつける、相手を見下す、責任をなすりつける、足を引っ張る、人によって態度を変える、自己保身しか頭にない……どの職場にも必ずいるかれらはいったい何を考えているのか。5万部突破ベストセラー『職場を腐らせる人たち』では、これまで7000人以上診察してきた精神科医が豊富な臨床例から明かす。

他人と一緒の職場で「自己完結型」ではやり通せない

実に皮肉な話だが、確認せずにはいられない人は、自分が迷惑をかけているとは夢にも思わない。この医師も、むしろ自分は正しいことをやろうとしただけという認識だったようで、なぜ自分が怒られたのか納得できず、病院に出勤できなくなった。そのため、外科の教授が精神科の教授に相談して、診察を受けさせた。

すると、「強迫性障害」という診断が下された。「強迫性障害」とは、何回手を洗っても黴菌や汚れが完全に落ちたとは思えず、長時間手を洗い続ける「手洗い強迫」、あるいは何度確認しても大丈夫という確信を持てず、戸締まり、ガスの元栓、コンセントなどを長時間確認し続ける「確認強迫」などの症状が認められる精神疾患である。こうした一連の症状を、精神医学では「強迫行為」と呼ぶ。

この医師は、何度消毒しても100%大丈夫という確信を持てず、長時間消毒し続けたわけだから、明らかに「強迫行為」が認められる。しかも、そのせいで周囲と軋轢(あつ れき)が生じているので、過剰なほどの確認癖が認められる支店長や新人行員と同類の「巻き込み型」といえる。

もちろん、支店長も新人行員も「強迫性障害」と診断されたわけではない。だが、やりすぎとも思えるほどの完璧主義や確認癖が認められる人が何かのきっかけで精神科を受診して「強迫性障害」と診断されることは少なくない。

しかも、「強迫性障害」の患者の病前性格は真面目で几帳面であることが多く、こうした資質は日本社会では高く評価される。それゆえ、何度も洗ったり確認したりすることがあっても、自身がよほど困るか、周囲にかなり迷惑をかけるかのいずれかでない限り、本人が自覚することも受診することもない。だから、支店長も新人行員も、「強迫性障害」と診断することはできないにせよ、少なくともそうなりやすい病前性格、つまり「強迫性格」ではないかと疑いたくなる。

「強迫性障害」にせよ「強迫性格」にせよ、100点満点を目指す完璧主義であることが多いのだが、これは芸術家や作家などには必要な資質だ。実際、「強迫性障害」だったのではないかと疑われている天才もいて、その典型がレオナルド・ダ・ヴィンチである。

とことんこだわり、一切妥協しない姿勢が傑作を生み出したことは否定できないが、その反面、緩慢な仕事ぶりはあまりにも有名で、ほとんどすべての作品が未完成に終わっている。彼の最高傑作といわれる『モナ・リザ』も例外ではない。フィレンツェで4年かけて描いたが、完成させるには至らず、結局注文主の手に渡すことはできないまま、フランスまで持って行った。かの地で当時のフランス国王、フランソワ一世に買い上げられ、現在ルーヴル美術館にあるわけだ(「レオナルド・ダ・ヴィンチの幼年期のある思い出」)。こういう仕事ぶりが許されたのも、彼が創作を一人で担っており、「自己完結型」でやり通せたからだろう。

それに対して、金融機関でも医療機関でも、仕事を「自己完結型」でやり通すことはできない。完璧主義で職務を遂行しようとすると、どうしても周囲を巻き込んでしまい、結局「巻き込み型」にならざるを得ない。だから、少なくとも他人と協力しなければならない職場では、どこかで妥協し、ほどほどのところで折り合いをつけるしかないのだが、完璧主義の人ほど、この妥協が苦手だ。

完璧主義からなかなか抜け出せないのは、過去の成功体験によるところが大きいように見える。完璧主義者は、100点満点でなければ気がすまず、60点とか80点とかでは満足できない。そのため、並々ならぬ努力を積み重ねてテストでいい点を取り、親や教師にほめられた経験が染みついていることが多い。さらに、そのおかげで手に入れた学歴が自身のプライドを支えていることも少なくないので、完璧主義からの脱却は自己否定につながりかねない。

しかも、子どもの頃から勉強のできる優等生だった人ほど、「怒られたくない」という願望が人一倍強い。当然、怒られる原因になるような失敗や間違いを回避しようとするあまり、完璧主義から抜け出せない。

おまけに、困っているのは自分ではなく周囲であることが多い。だから、よほどのことがない限り本人が自分自身の完璧主義のマイナス面を自覚する可能性は低い。自覚がなければ、それを直そうとも思わないので、改善する望みは薄い。その結果、周囲はずっと振り回され、クタクタに疲れ果てるわけである。

つづく「どの会社にもいる「他人を見下し、自己保身に走る」職場を腐らせる人たちの正体」では、「最も多い悩みは職場の人間関係に関するもので、だいたい職場を腐らせる人がらみ」「職場を腐らせる人が一人でもいると、腐ったミカンと同様に職場全体に腐敗が広がっていく」という著者が問題をシャープに語る。

どの会社にもいる「他人を見下し、自己保身に走る」職場を腐らせる人たちの正体