父親の死から半年、母親も相次いで死亡…60代男性を突如襲った「行き場のない不安」

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いつやって来るか分からない、親の死。思いもよらないタイミングでその日を迎えてしまったときに、考えなくてはならない問題のうちのひとつが「相続」です。半年前に父親を亡くし、相続の手続きを進めていた矢先に母親を亡くしてしまったという60代男性のケースから、夢相続代表の曽根恵子さんが相続に関する疑問を紐解きます。

父親の死後、母親も亡くなった

Тさん(60代男性)が相談に来られました。半年前に父親が亡くなり、相続の手続きをしようと思っていた矢先、相次いで母親も亡くなったと言います。父親も、母親も遺言書はありません。相続の手続きはどうすればいいかというのがご相談の内容でした。

Тさんは長男で両親と同居してきました。Тさんのきょうだいは、3人。姉と妹がいますが、2人とも嫁いでいて、相続の手続きはТさんに任せると言われています。Тさんはアパートの申告をしてもらっている税理士さんに相談して、見積もりを出してもらったといいますが、親身なアドバイスをしてもらえず、費用も思った以上に高いと感じていたことから、それも適切かどうか、判断してもらいたいということです。

父親、母親の財産

父親は不動産をいくつも所有しているということでしたので、固定資産税納付書を持参してもらい、不動産の評価をしました。自宅やアパート、空き地、畑などで5000万円。預金、株などで4000万円あり、合計9000万円程だと確認できました。

父親が亡くなった時点では母親は健在ですので、父親の相続人は4人となり、基礎控除は5400万円です。

母親の財産は父親と共有名義のアパートと預金で3800万円だとわかりました。母親の相続での相続人はきょうだい3人で基礎控除は4800万円です。

父親の相続の遺産分割協議はどうする?

父親の相続手続きでは相続人の遺産分割協議書が必要になりますが、相続人である母親は亡くなっていて、参加できません。母親の実印はあるものの、本人がいないのに押してもいいのかという疑問が生じることでしょう。

この場合、亡くなった母親の相続人である子どもたちが、母親の代わりに遺産分割協議をし、母親の相続分を決めてよいことになっています。

そうなると母親の相続も見越したところの割合を決めていいということで、特に法定割合の財産の半分に拘らなくてもいいのです。

父親の相続税

父親の財産に対する相続税は400万円です。母親には配偶者の税額軽減の特例がありますので、全部を母親が相続して、400万円の相続税の納税をなしにすることもできます。しかし、次の母親の相続では母親の財産3800万円に会わせて、父親から相続した財産9000万円が加算された1億2800万円の財産に対して相続税の申告をすることになり、相続税は700万円になります。これは得策ではないと言えますので、相続税が最小限で済む割合を想定して、父親の財産の遺産分割協議をするようにします。

当社で試算したところ、母親の財産が基礎控除以内になるには、父親の預金の4分の1、1000万円以内に抑えることで、母親の財産は基礎控除以内となり、相族税の申告が不要となります。

その割合でいけば父親の相続税は90%、360万円を子どもが負担することで母親のときの相続税の負担はしなくてよいとなります。結果、48%は節税できるのです。

居住用の小規模宅地等の特例は使えるが

居住用の小規模宅地等の特例を適用できるのは、母親と、同居しているТさんの2人。どちらに適用してもいいのですが、適用するには、自宅の土地を相続する必要があります。母親が自宅を相続することも可能ではありますが、相続登記をする必要があり、さらに母親の相続では、同居するТさんが相続する必要があります。

母親が相続してメリットがある1000万円は、不動産でもいいし、金融資産でもいいのです。けれども不動産であれば相続登記が必要で、15万円ほどはかかりますので、金融資産を相続するよりは余分にかかると言えますので、やはり自宅はТさんがストレートに相続するのが得策だと判断できます。

母親が相続しなくてもよい

基本的には、一次相続(父)よりも、二次相続(母)の相続の方が法定相続人の数も少なく「基礎控除」も少なくなります。父の遺産をすべて母に寄せてしまうと、母の遺産が多くなるため、母親が相続することはせず、子どもたちで相続することが一般的ではあります。けれども、Тさんのように、母親の財産の基礎控除の枠が余っていれば、その分程度の財産を相続したとして、相続税を減らすこともできますので、専門家のアドバイスに従って判断するようにしましょう。

納税も、費用も抑える

Тさんには、父親と母親の相続手続きの費用の見積もりを提示して、きょうだいで検討してもらい、夢相続に委託を頂くことができました。

父親の相続税は致し方ないところですが、母親分と居住用の特例適用で20%程度は減らすことができそうです。また、母親の相続では、相続税の基礎控除の範囲内になりますので、相続税も申告費用もかからないとすることができます。

相続税の申告必要は1回だけで、母親の分は遺産分割協議書の作成と共有の不動産の相続登記のみで済みます。最初に相談した税理士さんの見積もりの80%程度の費用で、2人分の相続の手続きができるので、Тさんはよかったと言って頂いています。

父親の相続税の申告期限まで3ヶ月程度ですが、不動産は長男のТさんが相続し、姉と妹には金融資産を渡す形で合意は得られているので、円満に遺産分割協議ができそうで、間に合わせられます。母親の手続きも一緒に終えるようにできますので、一挙に不安解消できます。

〖遺産分割協議書の記載例〗

遺 産 分 割 協 議 書

被相続人 ○○○○(昭和〇〇年〇〇月○○日生まれ)

死亡日  令和〇年○○月○○日

本籍

最終の住所地

相続人兼被相続人  ○○○○(昭和〇〇年〇〇月○○日生まれ)

死亡日  令和〇年○○月○○日

本籍

最終の住所地

被相続人 ○○○○(以下「被相続人」という。)の遺産相続につき、被相続人の長男 ○○○○、及び被相続人の長女 ○○○○、及び被相続人の次女 ○○○○の相続人全員が遺産分割協議を行い、本日、下記のとおりに遺産分割の協議が成立した。

1. 相続人 ○○○〇は、以下の遺産(負債も含む)について相続する。

(1)土地

(2)建物

(3)動産

上記(2)の建物内にある家具家財等一切の動産

(4)代償債務

相続人 ○○○○ に対して金 ○○○万円の代償債務を負う。

相続人 ○○○○ に対して金 ○○○万円の代償債務を負う。

2. 相続人 ○○○○及び○○○○は、以下の遺産をそれぞれ取得する。

相続人 ○○○○ に対して金 ○○○○○○万円の代償債権

3.相続人 ○○○○、○○○○、○○○○は、以下5の遺産について、3分の1の割合で、それぞれ取得する。

(4)預貯金等

(5)有価証券4

4.その他、本遺産分割協議書に記載のない遺産及び本遺産分割の後に判明した一切の遺産については、4分の1の割合で、それぞれ相続する。

5.被相続人名義の一切の債務及び葬式費用は、4分の1の割合で、それぞれ負担する。

以上のとおり、相続人全員による遺産分割協議が成立したことを証明するため、本協議書を4通作成し、相続人全員が署名押印のうえ、各1通ずつ所持する。

令和〇年〇月〇日(作成日の日付)

相続人兼○○○○の相続人(長男)     ○○○○(実印)

相続人兼○○○○の相続人(長女)    ○○○○(実印)

相続人兼○○○○の相続人(次女)     ○○○○(実印)

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