『トップガン マーヴェリック』以降も堅実な作品選びが続くグレン・パウエル
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 『トップガン マーヴェリック』のハングマン役、そして今夏の大ヒット作『ツイスターズ』に主演し、ハリウッドで今もっとも注目される俳優になったグレン・パウエルがリチャード・リンクレイター監督と組んだ新作『ヒットマン』(全国公開中)。全米公開前に開催されたスクリーニング後の質疑応答に応じたグレンが、製作動機やリンクレイター監督とのコラボレーションなどの裏話を語った。

 本作は実話にインスパイアされたコメディー作品。リンクレイター監督と脚本を共同執筆し、製作も担当しているグレンが演じるのは、ニューオリンズの大学で心理学と哲学を教えている、物静かな男ゲイリー・ジョンソン。テック関係に強い彼は、警察のおとり捜査で、盗撮、盗聴を手伝うアルバイトをしていたが、ある時、殺し屋役の警官が職務停止となったことで代役に抜擢される。自分が殺し屋に向いているとは思えないゲイリーだったが、やってみると驚くほど上手く、さまざまなヒットマンにふんして、次々とおとり捜査を成功させる。そんなある日、夫の殺害を依頼してきた魅力的なマジソン(アドリア・アルホナ)に惹かれたギャリーは、思いがけない事態に巻き込まれることになる。

 本作を製作するきっかけは、グレンが、「テキサス・マンスリー誌」に掲載されていた、テキサス州ヒューストンでおとり捜査に協力した実在するゲイリーについての記事を読んだ時に遡る。

 「彼は一般的な殺し屋ではなく、殺し屋というファンタジーを体現していた。そのアイデアと、(彼が扮した)さまざまなキャラクターに魅了されたんだよ」とグレン。『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』でもタッグを組んだリンクレイター監督に話を持ちかけるが「きみが中学1年生の時にその記事を読んだよ。とても興味深い男だと思うけど、(ストーリーが)どこへ向かっていくのかわからない」と乗り気ではなかったという。そこでグレンが「記事の中に、危険な夫の殺害を依頼してきた女性の話があるけど、その部分を膨らませてはどうだろう」と提案し、2人で一緒に脚本を書き始めたと言う。

 ちょうどコロナ禍が始まった頃で、グレンは、脚本を練るためにリンクレイター監督と素晴らしい会話を交わすことが出来たと語る。「人々が人生で大きな変化を経験し、自分たちの選択に、そして自分が何者かということに、行き詰まりを感じていた。多くの人々がコロナ禍に感じたのは、なりたい自分になれるチャンスだった。一緒にいたいと思う誰とでも、一緒にいられるチャンスだった。そういう話をすればするほど、ゲイリー・ジョンソンは、僕たちみんながなりうるファンタジーのような存在になっていったんだ。それは本当に特別なことだったよ」とグレン。本作には、コメディー、スリラー、フィルムノワールとさまざまなジャンルが混在しているが、参考にした映画として、グレンは『トッツィー』や『深夜の告白』『白いドレスの女』などを挙げていた。
 
 セクシーな殺し屋”ロン”にふんしたゲイリーとマジソンの関係が始まってからのストーリー展開は、グレンとマジソン役のアドリアとの相性が抜群なこともあって、娯楽性に満ち溢れている。もちろん、二人のエピソードは新たに創作されたものだが、「リック(リンクレイター監督)にとって、リアルに感じられることはとても重要」と言うグレンは、「常にフィクションよりも事実を選んだ」と明かす。
 「(ロケ地の)ニューオーリンズ警察から状況を聞いたり、人々に話を聞いたり、ゲイリー・ジョンソンの報告書を読んだり、録音もたくさん聞いた。ファンタジーを膨らませる前に、地に足をつけたやり方でストーリーの土台を作る必要があったんだよ」と徹底的にリサーチしたうえでの創作だったと語った。

 本作の大きな見どころのひとつが、グレンが、衣装やメイク、話し方などを変えて、さまざまな殺し屋を演じる爆笑必至のシーンで、その演技力に唸らされる。撮影開始の直前まで2人で脚本を書いていたため、事前にリンクレイターに殺し屋のキャラクターをまったく見せられなかったというグレンは「最初は不安だったけど、演じていてとても楽しかった。僕がキャスト用バンから降りて来ると、リックは、いろんなアクセントで話す殺し屋を初めて見ることになったんだ。リックにとって最も衝撃的だったのは、僕が赤毛で出てきた時で、息ができないほど大笑いしていたよ」。

 「ほかにすごく可笑しかったのは、レッドネックの”タナー”役だ。僕は、座って適当な話をして撮影を待っていたんだけど、みんなが『グレンはどこだ?』っていうんだ。リックの真横にいたんだけど、彼でさえ僕に気づかなかった。『僕がグレンだよ。さあ、やろうぜ!』って言ったんだ」と、グレンは笑う。

 「僕は、14歳のとき、脚本のクラスを取ってリチャード・リンクレイターについて勉強した。クリエイティブ・ライティング(脚本の授業)の教授は彼の作品に夢中だったんだ。リックは、最高レベルの仕事をしていて、しかもここテキサスにいるんだって思った。『ファーストフード・ネイション』で一言セリフをもらって以来、彼に畏敬の念を抱いていた。そして今、友人と呼べるようになった彼と一緒にこの映画を作ることができたなんて、本当に信じられないほど素晴らしいよ」と興奮気味に話すグレンに、大きな拍手が贈られた。(吉川優子 / Yuko Yoshikawa)