2024年9月に開業した積水ハウスのオープンイノベーション拠点「イノコム・スクエア」

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人口減少の日本で、成長をするために何が必要か─。この命題に向けて、積水ハウスが動き始めた。スタートアップや研究者など外部の知恵を生かして「オープンイノベーション」を進めようとしている。そのための新会社、新施設も用意。新会社の代表取締役を務める辰井伸洋氏は「社内の技術、人材、顧客基盤だけを活用するのではなく、広く外の技術を取り入れ、人材と協力していく」と力を込める。同社の戦略とは─。


広く外の技術、人材と連携を進める

「オープンイノベーションを推進していくためのエンジンであり、ハブ」と話すのは、積水ハウス イノベーション&コミュニケーション(イノコム社)代表取締役の辰井伸洋氏。

 住宅大手の積水ハウスが、外部の知恵も活用しながら、新たな事業づくりを本格化している。2024年2月にはイノコム社を設立。グループの技術や顧客基盤、データ、人を活用したオープンイノベーションの推進と、それに向けたグループ全体の人材育成を担う会社。

「社内の技術、人材、顧客基盤だけを活用するのではなく、広く外の技術を取り入れ、人材と協力しながらオープンイノベーションを進めていく」と辰井氏は強調する。

 では、どのようにオープンイノベーションを進めようとしているのか。辰井氏は大きく2つのやり方を示す。

 1つは「リバースピッチ」。通常、スタートアップ企業が大企業などに事業アイデアを提案することを「ピッチ」と呼ぶが、逆に、大企業側が課題などを提案し、スタートアップ企業からソリューションを募ることをリバースピッチという。

 積水ハウスでは「この指とまれ方式」と呼んでいるが、同社が掲げるテーマに関心を持つスタートアップや既存企業、あるいは研究者など〝仲間〟を集め、事業化を目指していく。

 24年10月から12月にかけて、このリバースピッチの開催や、事業提案、関連のセミナーなどを立て続けに実施する計画。

 もう1つが「CVC」(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)。事業会社が自己資金でファンドを組成し、主にスタートアップ企業に出身や支援を行う組織のことを言う。

 積水ハウスは24年4月、積水ハウス投資事業有限責任組合を設立。ファンドの総額は10年間で50億円。「積極的に、有望なスタートアップに対して投資活動をしていく」(辰井氏)

 このCVCファンドでは、第1号案件として、すでに3社のスタートアップに出資している。

 1社目がAtomis社。京都大学発のベンチャーで「多孔性配位高分子」という基盤技術で、二酸化炭素を吸着、分離し、別の物質に変換していく技術を開発している。将来的には積水ハウスの建材への応用を期待しているという。

 2社目がlog build社。以前から積水ハウスと協業している企業で、AI(人工知能)やVR(仮想現実)技術を活用して建設現場の施工管理ロボットや、クラウドによる現場管理プラットフォームを開発している。「人手不足」などの社会課題解決につながる可能性を持つ企業と言える。

 3社目がRePlayce社。学生向けのオンラインスクールや教材開発、教育サポートアプリ開発を手掛ける企業。NTTドコモ出身者が設立した会社で、新しい教育のあり方を模索している。一見、積水ハウスの事業とは遠く見えるが、同社が20年に発表した「グローバルビジョン」の中で〝住〟に関して追求するテーマとして「健康・つながり・学び」を掲げており、その「学び」に関連する企業ということで出資。