焦りか、認知能力低下か…恐怖の思い違いが危険の入り口に(mono / PIXTA)

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8月末、愛知県で軽トラックが高速道路を逆走した。その距離なんと約33キロ。対向車をおののかせた戦慄のドライブは、警察官による確保でようやく終わった――。

報道によると運転手は80代男性。ジャンクション付近で目的地との方向違いに気づき、逆走を開始したとみられている。

約30分の走行中、同社と対面した車は死ぬ思いをしたという。一方、当の老人ドライバーは堂々としていたそうだ。おそらく、自分が逆走しているとはつゆほども思っていなかったのだろう。

データが示す逆走事案の実状

危険極まりないこの逆走。絶対に遭遇したくないが、実状はどうなのか。国交省が高速道路の逆走事案を分析し、その結果を公開している(「逆走事案のデータ分析結果」平成27年)。

高齢者が圧倒的に多いことがわかる(国交省HPより)

調査によると、逆走事案の約6割はインターチェンジ、ジャンクションで発生。そのうち、75歳以上の割合が45%を占める。驚くべきは、国内における75歳以上の免許保有者はわずか6%という実状。つまり、数少ない高齢ドライバーが、かなりの高確率で逆走事案を引き起こしているのだ。

逆走に限らず、高齢者の事故多発を受け、免許の自主返納を求める動きは年々高まっている。調査結果は、それを推進するに十分説得力のあるエビデンスのひとつといえるだろう。

一気に跳ね上がる逆走時の死亡事故

逆走事故が問題なのは、その危険性にある。逆走による死傷事故は、高速道路での事故全体の発生状況10%に対し、46%で約5倍の割合。これでも恐ろしい数字だが、死亡事故になると事故全体の0.3%に対し、54%で約40倍にも跳ね上がる。

逆走事故の怖さを示すデータ(国交省HPより)

高速道路であり、対向車をかわすのにも限界がある。なにより100キロ前後のスピードで正面衝突する可能性が高く、想像しただけでもその瞬間の恐怖や危険さは容易に察しがつく。

なぜ、そこまで危険な逆走をしてしまうのか。調査ではその理由も解明している。

「道を間違えて戻ろうとした」が25%。これはわからなくもない。

だが、「最後まで逆走の認識なし」がそれを上回る26%となっている。9月8日に茨城で発生した逆走事故でも、ドライバーは80代とみられ、本人は「逆走していない」と否定していたという。

これらは、逆走事案を起こす約半数が75歳以上という結果を踏まえると、免許返納も含めた対策を真剣に考慮すべきポイントといえるかもしれない。

過失割合は10対0とは限らない

前出の愛知県の事案では、幸いにも事故が発生しなかった。結果的に、無事故だった80代のドライバーは、どんな罪に問われるのか。

道路交通法(道交法)では一般道や高速道を問わず、左側通行が定められており、右側を通行すれば逆走となり、通行区分違反(道交法8条1項)で、「3か月以下の懲役または5万円以下の罰金」が科せられる。

交通事故の当事者間において、どちらにどの程度の責任があるかを示した割合である過失割合は10対0と思われるが、そうとは限らない。相手側に注意義務違反があった場合は、その程度に応じて過失割合が軽減される。

たとえば、相手方が、早い段階で対向車が接近していることに気づいたにもかかわらず、回避措置をとらなかった場合などは、状況に応じて、過失割合に修正が加えられる。

諸外国の高齢ドライバー対策は?

高齢者による、認知能力低下が原因と思われる事故。もちろんこれらは、日本特有というわけではない。

お隣の中国では、60歳以上は毎年身体検査の受診が義務で、クリアしなければ免許を保持できない。70歳以上は免許取り消しだったが、年齢制限は2020年に撤廃されている。

韓国でも高齢者による事故が多発し、社会問題化。速度や走行時間帯に制限を設ける条件付き免許制度の導入が検討されている。自主返納した高齢者の優遇策を手厚くすることなどで、免許返納促進にも力を入れている。

アメリカでは免許更新時に実車試験を取り入れている州や運転適性に疑義がある場合、第三者が運転免許当局に情報提供する仕組みなどがある。

イギリスでは70歳をひとつのラインに設定。以降は3年ごとに心身の健康を条件に自己申告制となっている。ドイツでは「生涯安全運転」を掲げ、シニアドライバーの安全運転を支援する施策を豊富に用意。国として、高齢ドライバーの事故防止に力を入れている。

日本でも、高齢ドライバーの事故多発を受け、国交省が断続的に対策を検討。逆走事案については、高齢者が多いことを問題視し、ハード面での対策の他、事故発生時のより詳細なヒアリングやより分かりやすい注意喚起の必要性なども議論されている。

飲酒運転では「飲んだら飲むな」のキャッチフレーズが有名だが、高齢者の運転については年齢制限も視野に入れつつ、「物忘れが多くなったら乗るな」といった、厳しめの啓蒙メッセージを真剣に検討してもいいタイミングなのかもしれない。

ちなみに、運悪く逆走車に遭遇したら、どうすればいいのか。NEXCO東日本によれば、衝突回避に努めるとともに、同乗者からの110番、もしくは最寄りのサービスエリア等からの非常電話、料金所スタッフへ申し出てくださいとのこと。通報後は、すぐに情報板やハイウェイラジオで告知されるという。