住宅を買う際にローンを組むと、税金が安くなる場合がある。ファイナンシャルプランナーの風呂内亜矢さんは「住宅ローン減税が適用されると、最大で400万円超の控除が受けられる。ただし諸条件があり、購入する際には注意が必要だ」という――。

※本稿は、風呂内亜矢『やってはいけない「ひとりマンション」の買い方』(青春出版社)の一部を再編集したものです。

■単身者向け物件の情報はまだまだ少ない

マンション購入に関しては、大きな買い物ということで、雑誌や書籍、インターネットなどにさまざまな情報が溢れています。

しかし、実はそのほとんどはファミリー向け物件についてのもので、単身者向け物件の情報はまだまだ少ないのが現状です。

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単身者向け物件の情報はまだまだ少ない(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/loveshiba

ファミリー向けの情報を鵜呑みにしてしまうと、物件選びを間違えたり、かえって損をしてしまう可能性があります。

単身世帯は徐々に増えつつあるため、今後は単身者向けの情報や制度変更も増えていくことが期待されますが、過渡期にある今は自分でしっかりと情報収集することが欠かせません。

■「住宅ローン減税」を受けられない場合がある

「家を買う時ローンを組んだら、税金が安くなる」と思っている人は多いのではないでしょうか。

これが住宅ローンを組んで自宅を購入した際に利用できる「住宅ローン減税」です。

2024年の入居だと、最大400万円強の減税が受けられるため、対象となる人は抜け漏れなく手続きをとりたい制度といえます。

しかし、実は住宅ローン減税を受けられる物件は、登記簿記載面積で50m2以上(2024年までに建築確認された物件は、合計所得金額が1000万円以下の年分に限り40m2以上も対象)という広さの条件があるのをご存じでしょうか。

つまり、単身でコンパクトな物件を希望している人は、住宅ローン減税を受けられない可能性があるのです。

■無理に広い物件を選ぶ必要はない

この時、住宅ローン減税を受けたいがために、無理して広い物件を選んだほうがいいかというと、必ずしもそうとはいえないでしょう。

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無理に広い物件を選ぶ必要はない(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/mapo

不動産経済研究所の「首都圏 新築分譲マンション市場動向(2023年11月)」によると、新築分譲マンションの1m2当たりの単価は128.0万円。5m2広い物件を求めようとすると、物件価格が640万円程度アップする計算になります。

住宅ローン減税で13年かけて減税される総額を、物件価格の上昇分が容易に上回る計算となるわけです。

新築で首都圏のマンションのデータということを考えると、単価が高くなりやすい数字を使った試算ではありますが、実際の購入検討では5m2どころではない広さの違いのある物件を比較することもあるでしょう。

■住宅ローン減税対応物件は高くなる可能性

シングルの場合、30m2程度の物件を検討することも多く、40m2や50m2の物件とは、10m2や20m2の開きがあります。この場合、1m2当たりの単価が多少低くても、やはり金額は大きく上昇することになります。

また住宅ローン減税が受けられるか否かを意識している人は多いため、平米単価以上にその境目の面積では物件価格に差が出るケースもあります。

住宅ローン減税で受けられる恩恵以上に物件価格そのものが大きくなることは、珍しくはないでしょう。

物件価格が上がるということは、ローンを借りる金額も増えることになります。

それに伴い利息も増えるわけです。住宅ローン減税の恩恵額と、物件価格の差が同額でも、やはり住宅ローン減税にこだわらず、物件価格を抑えることが賢明です。

■すべての人が受けられるわけではない

そもそも、住宅ローン減税の最大減税額は、必ずしもすべての人が受けられるわけではありません。

住宅ローン減税は「年末ローン残高の一定割合が一定の年数」税額控除される制度です。

2024年に長期優良住宅などを住宅ローンで購入した人の場合、4500万円を上限に0.7%の金額が13年間、減税されます。

4500万円以上のローンを組んでいる人は、その0.7%に当たる31.5万円が最大の年間控除額です。それが13年間続けば合計409.5万円の減税が受けられることになります。

■返済が進むと減税額が減る

利用できればお得な住宅ローン減税ですが、実は誤解している人が少なくありません。

ここで3つ、注意点を挙げておきましょう。

1つ目は、この0.7%は、年末のローンの残高に対してかけられるという点です。

初年度の年末は4500万円ぴったりあったとしても、返済が進んで翌年の年末ローン残高が4400万円になっていたら、その年に受けられる最大の減税額は30.8万円(4400万円×0.7%)になります。

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返済が進むと減税額が減る(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/kool99

■税金の支払いが少ない人には意味がない

2つ目の注意点は、あくまで減税なので、自分が通常支払うであろう所得税や住民税以上には恩恵がないという点です。

例えば、独身で年収400万円の人の所得税は約8.5万円、住民税は約18万円です。

合計しても約26万円のため、これ以上の減税をしようがありません。

大きな金額のローンを借りることができたとしても(そもそも年収400万円の場合、4500万円のローンを借りることは通常できません)、年間最大の31.5万円の減税は受けられません。

ちなみに、住民税からの控除にも上限が定められていて、2024年入居のケースだと9.75万円。今回例に挙げた人が最大限の住宅ローン減税を受けられたとしても、所得税から約8.5万円と住民税から9.75万円の合計約18.25万円が減税を受けられる最大の額となります。

■減税の上限額は物件の性能によって異なる

3つ目は、4500万円と例示した上限額は、購入する物件の性能によって異なるという点です。

4500万円を上限とするのは、新築の長期優良住宅や低炭素住宅です。ZEH水準省エネ住宅では3500万円、省エネ基準適合住宅では3000万円、その他の住宅では2023年までに建築確認された物件では2000万円ですが、そうでなければ限度額は0円と減税を受けることができません。

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減税の上限額は物件の性能によって異なる(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/ArLawKa AungTun

■2020年10月から40m2以上も対象に

風呂内亜矢『やってはいけない「ひとりマンション」の買い方』(青春出版社)

中古物件では上限額が下がるなど、細かく決められています。

住宅ローン減税は、年収が高いため所得税・住民税も高い人が、低炭素住宅などスペックの高い物件を高額の住宅ローンを組んで購入したケースで、より多くの恩恵を受けられる仕組みになっているのです。

ちなみに、住宅ローン減税はこれまで50m2以上の広さの物件を対象としてきました。消費税率の引き上げや新型コロナウイルスの影響、少子化対策などを背景に2020年10月から限定的なニュアンスで40m2以上も対象にするという特例が何度か延長されながら続いている状況です。

■住宅を買いやすい状況が続いている

基本的に、投資物件ではなく「住宅」ならば50m2以上必要だろうという考え方から定められている基準ですが、都心部の場合は、40〜50m2でも充分に自宅として購入することもある広さです。

もともとこの水準の広さを検討していた人にとっては、限定的に買いやすい時期とはいえるかもしれません。

出典=『やってはいけない「ひとりマンション」の買い方』

もちろん、だからといって予定していなかった人が購入を検討したり、平米を広げたりする必要はなく、制度を抜きにして自分がどういう広さ、どういう予算の物件を買いたいのかを決めるのが先です。

制度の利用は、制度があってもなくても採用するであろう選択肢を固めた上で、抜け漏れなく利用できることを後から丁寧に拾い上げていく感覚で活用するのがいいでしょう。

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風呂内 亜矢(ふろうち・あや)
1級ファイナンシャル・プランニング技能士
企業勤務の際にマンション購入やお金の勉強を始め、その後不動産会社に転職。2013年にファイナンシャル・プランナーとして独立し、各媒体で活躍中。『コツコツ続けてしっかり増やす!つみたてNISAの教科書』『先生でも学べる「お金」の基本』など著書も多数。
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(1級ファイナンシャル・プランニング技能士 風呂内 亜矢)