吉林省から釉薬の研究で来日した先代が、数軒の中華料理屋で腕を磨き、大阪・九条の町で独立したのが始まり。

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中央線九条駅から商店街を抜け、九条新道の交差点を渡ってすぐ。創業69年を迎える大衆中華『吉林菜館』のレトロな看板が見える。

●家族的懐の深さ



町の人にとっては食卓がわりの馴染みの老舗。先代の創業者の味を現在も家族が結束して守り続けている。この日は名物の北京風火鍋を囲む宴席に遭遇した。聞けば3代続けて通う常連さん。歴史のある店には、お客の歴史あり。

春雨、肉団子、種々の野菜と見た目も豪華な火鍋を複数人で取り分けている傍ら、こぶし大の唐揚げを大量にテイクアウトして帰っていくお客がいる。こちらも大勢でシェアするのだろうか。

お薦めのお酒はと尋ねて、中国から厳選して取り寄せたという老酒の甕を見せてもらった。店の外から台車で運ばれてくる真白い大きな甕に、なんだなんだとお客たちが注目する。

昔の中国では娘が生まれたときに仕込んで熟成させ、嫁入り時に祝い酒として出すものだったそう。なんというか、ビッグサイズな国の抱擁力を勝手に感じる。

では少しだけ、と甕の底に沈んだオリも含んだお酒をいただくと、濃縮された芳醇な香りが鼻を抜け、この店の懐の深さを見たような気がした。

『吉林菜館』

住所/大阪府大阪市西区千代崎2-7-12

※こちらの記事は、関西の食のwebマガジン「あまから手帖Online」がお届けしています。

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