DIR EN GREYの京とPIERROTのキリト

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 異例の超高額ライブが、10月11、12日に東京・渋谷の国立代々木競技場第一体育館で開催されることになった。ヴィジュアル系ロックバンドのDIR EN GREYとPIERROTによるジョイントライブ「ANDROGYNOS - THE FINAL WAR -」だ。

【画像】“信者”なら垂涎!? 「12.5万円」VIP SS席の気になる特典 ほか

 さる音楽業界の関係者が言う。

「娘が神妙な顔をして“ライブに行きたいけど、お金が足りないからカンパしてくれ”なんて言い出したんです。で、金額を聞いたら12万円超だと。この業界に勤めて何十年にもなりますが、邦楽のアーティストで、そんな額のライブなんて聞いたことないですよ。10年前のポール・マッカートニーの来日公演が10万円で話題になったくらいですからね……」

DIR EN GREYの京とPIERROTのキリト

 公演情報には、「VIP SS」席が12万5,000円で、「VIP S」席は9万8,000円とある。また、通常チケット扱いのSS席も4万8,000円、S席が2万5,000円となかなかのお値段だ。また、いわゆる「末席」に当たるA席は1万5,000円、B席が1万3,000円。たしかに日本人アーティストのライブとしては前代未聞の価格設定といえる。

 とはいえ、先行受付は、9月2日の終了期限を待たず即完売。ディナーショーならいざしらず、こんな高額なチケットがなぜ売れるのだろうか?ライブを運営するイベント会社のネクストロード・プロダクションの土持実社長は、あくまで強気の姿勢だ。

「ファンにとってはサプライズ的なライブですからね。ファンクラブ等の優先発売などを見ていると、むしろ高額チケットから売れていきました。当然、新しいファンも獲得できればと思っているので、一般発売用にさらに座席数を増やせないかと検討しています」

 しかし、ヴィジュアル系バンドに詳しくないと、なかなかこの公演の“価値”にピンとこないのはたしか。

DIR EN GREYとPIERROT、何がスゴイのか

 DIR EN GREYは、ヴィジュアル系のロックバンドとして、レジェンド的な存在だ。“世の中の矛盾や人のエゴから発生するあらゆる痛みを世に伝える”をコンセプトとする5人組で、今年で結成27年目を迎える。ライブを中心に活動し、ヴィジュアル系ロックの“雄”として圧倒的な人気を誇ってきた。「特に東日本大震災以降は“日本の背負った痛みを全身で表現している”と評価するファンも多く、注目度が高まっています」(業界紙記者)という。

 昨今はBABYMETALやONE OK ROCK、新しい学校のリーダーズ、YOASOBIなどの米国進出が話題になっているが、DIR〜はこれに先駆け20年ほど前から範囲を世界に広げ、アジアはもちろん、全米やヨーロッパなどでも活動を展開してきた。米音楽誌「ビルボード」の公式サイトでは、「異色の日本人ロック・グループ」としてトップページを飾ったほか、英国の老舗ロック誌「KERRANG!」でも、ボーカルの京が日本人アーティストとして初めて表紙に登場したこともある。

 一方のPIERROTも、圧倒的な人気を誇ってきたヴィジュアル系ロックバンドだ。ただし、これまでの歩みは少し変わっている。ボーカルのキリトを中心とした、アイジ、潤、KOHTA、TAKEOによる5人組で、1998年にメジャーデビューしたものの、それから8年目の2006年に突如、解散を発表。理由は明言されず、それがかえって、ファンが神格化する要因にもなった。その後、2014年に、埼玉・さいたまスーパーアリーナで突如ライブを行い話題となった。まさに神出鬼没のバンドといえる。

 つまりファンにしてみれば、今回の公演は、“伝説”の2組によるジョイントライブというわけである。実は7年前にも同様のライブを行なっているのだが、この時は神奈川・横浜アリーナを会場にした2日間の公演だった。今回ほどではないにしろ、チケットは8万円〜1万2,000円と高めの設定で、にもかかわらず「2日間で2万5,000人を動員しましたが完売でした」(前出の土持社長)という。

“聖地”でのジョイント

 さらに、ヴィジュアル系の事情に詳しい音楽業界関係者は、今回の公演の“開催場所”に注目する。

「彼らはヴィジュアル系のバンドが全盛期だった95年後半から00年代前半にかけて2大カリスマとしてシーンをけん引してきたわけですが、当時、東京・JR原宿駅近くの神宮橋が“聖地”とされていました。双方のファンが、思い思いのコスチュームを着て集ったのです。2つのバンドのファンが同じ場所に集ったことで、いつの間にか“2つの宗教(バンド)の信者(ファン)による抗争”と言われるようにもなりました。もちろん、実際に乱闘のように争ったわけではないのですが、ファンの間では“神宮橋の宗教戦争”と、今でも懐かしく語り継がれています。今回のイベントの会場は代々木第一体育館の公演と、いわば“聖地”にごく近い場所でのジョイントになるのです」

 現在のようにSNSも普及していない時代、バンド好きにとって仲間づくりや情報交換の場所が「神宮橋」で、いわば「ファン同士のコミュニケーションの場」だったわけだ。

「7年前のジョイントライブが発表された時には、Google Map上の『神宮橋』に、『アクロの丘』(DIR EN GREYの曲名)と『メギドの丘』(PIERROT曲名)が地名として表示されたこともありました(現在は消去)。ファンによるいたずらですが、彼女らにとって『丘』というのは『待つ』という意味。このことからも、神宮橋が特別な場所であることがわかりますよね」

 今回の高額チケット公演の会場設定には、ファンのモチベーションを高めるための、巧みな仕掛けが加えられているのである。

「五輪や外タレなんかの金額よりも…」

 公演をプロデュースするのは、ダイナマイト・トミー。ヴィジュアル系ロックの先駆けとして知られた「COLOR」のカリスマ・ボーカルで、当時は「東のX、西のCOLOR」と、YOSHIKIと並べられて語られる存在だった。現在はDIR EN GREYのプロデューサーとして知られる。

 トミーに今回のライブについて尋ねると、開口一番「タイミングかな」との返事が返ってきた。

「祭りだって思ってくれたらいいんじゃないの、7年ぶりの……。長野の諏訪大社だっけ、御柱(おんばしら)祭ってあるじゃない。急斜面を巨木(御柱)にまたがって滑り降りる、あの凄い祭り。それって7年ごと(※正確には満6年間隔、慣例として「数えで7年」等と言われている)に行われ、その都度、柱を更新するんでしょ。それと同じかな」

 さらに、高額なチケット代については、

「両バンドともずっと心に残るようなステージを見せてくれるのだろうし、それを強烈に感じられる場所には価値があると思うけどね。またビッグカードですし……」

 と言う。元アーティストならではの思い入れがあるのかもしれない。

「僕は舞台を用意するだけなんだけど、(このライブを)見る人にとっては。それこそ五輪や外タレなんかの(チケット代の)金額よりも価値があると感じてもらえると思っているけどね」(同)

 公演には“交わる事の無かった2バンド 交わる事の無かった2つの物体 ここに破壊的融合”というキャッチが掲げられている。今回は“聖地”での破壊的融合――ということなのだろう。

渡邉裕二(わたなべ・ゆうじ)
芸能ジャーナリスト

デイリー新潮編集部