「24時間テレビ」を救ったやす子

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 第1回【「やす子」が苛酷なマラソンを完走しても、ネットは「無意味」の批判が殺到…なぜ「ひろゆき氏」も「デーブ・スペクター氏」も24時間テレビの価値を認めないのか】からの続き──。お笑いタレントのやす子が感動のゴールインを果たしても、ネット上では《やす子さんが可哀想》との声が殺到する。なぜ、これほどまでに「24時間テレビ」は評価されないのか。その理由を専門家に訊いた。(全2回の第2回)

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【写真】「24時間テレビ」でマラソンを走るやす子のレアショット。どんなに疲れていても笑顔を絶やさない姿が印象的だ

 24時間テレビは1978年8月に第1回が放送された。以来、ビデオリサーチが調査した関東地区、世帯の視聴率を調べてみると、歴代最高の視聴率は2005年の19・0%だった。

24時間テレビ」を救ったやす子

 一方、スポーツ紙を中心とする芸能メディアは今回の放送を「瞬間最高視聴率は24・8%」と大きく報じた。

 平均の世帯視聴率も11・3%を記録し、一部のネットメディアは《ワースト記録更新を免れたことは紛れもない事実》(東洋経済ONLINE:註)と積極的に評価した。とはいえ、全盛期に比べれば視聴率が減少傾向にあるのは誰の目にも明らかだ。

 ITジャーナリストの井上トシユキ氏は「『24時間テレビ』に対する批判はSNSを中心に、ネット上では当たり前のように見られます。その源流は2002年5月のワールドカップ(W杯)、つまり日韓共催の大会に遡ることができるでしょう」と言う。

「このW杯で新聞やテレビなど主要メディアは、日本と韓国の友好関係を全面に押し出し、あたかも未来の日韓関係が盤石であるかのように、必要以上に強調して報道しました。ところが蓋を開けてみると、フジテレビが表彰式における重要な場面をカットするなど、多くの視聴者にとってテレビの放送内容は満足できるものではなかったのです。言ってみれば、日韓友好という建前で大々的に放送したにもかかわらず、視聴率至上主義という本音が垣間見え、視聴者が失望したのです」

日韓共催W杯が残した悪影響

 この時点で、かなりの視聴者がテレビそのものに強い違和感を覚えた。しかも、それは一時的なものではなかった。

「W杯が終わったばかりの7月、フジテレビは『27時間テレビ』で“湘南1万人のごみ拾い”というイベントを企画します。ここでテレビの偽善性に異議を申し立てようと、ネット民は平和的に嫌がらせする方法を思いつきます。つまり番組の前にみんなでゴミ拾いを行おうと呼びかけたのです。湘南をピカピカにするという“善行”でテレビ局の目玉コーナーを“潰す”という成功体験は大きな自信となり、この経験が2011年のフジテレビ抗議デモで再燃します」(同・井上氏)

 俳優の高岡蒼甫がフジテレビの番組編成が韓国ドラマなど、韓国のコンテンツに偏りすぎだと批判し、これがフジテレビ本社前での抗議デモに発展した。

「この抗議デモは単に日韓両国の関係を考えるきっかけとなっただけでなく、テレビ局の報道姿勢に対する不満表明として受け止められました。『24時間テレビ』が最初に放送されたのは1978年、ネットメディアの元祖とも言われる『2ちゃんねる』が開設されたのは1999年。かつてはチャリティーマラソンの状況がリアルタイムで掲示板に報告され、多くのネット民が沿道に駆け付けるなど、蜜月の時代もありました。しかし、それは過去のものになってしまったのです」(同・井上氏)

決定的だった着服の発覚

 結果として、「テレビ局の放送内容は偽善ばかり」という認識が広まった。その矛先が「24時間テレビ」にも向かった。

「例えば『番組の会計がブラックボックスになってしまっている』という疑問もネットが最初でした。出演者のギャラなど番組の制作費と、CMの広告収入、そして募金の関係が全く開示されていない。おまけに募金は小銭が多い。ごまかそうと思えばいくらでもできる。そんな疑念が強まっていく中、鳥取県の日本テレビ系列地方局・日本海テレビジョン放送の幹部局員が10年にわたって寄付金を着服していたことが昨年11月に発覚し、ネット上の懸念が正しかったことが証明されたのです。これが『24時間テレビ』に対する不信のダメ押しになりました」(同・井上氏)

 番組への信頼度が低下すると、「24時間テレビ」のコンセプトにも疑問の声が強くなっていく。例えば、なぜ、やす子は苦しみながらマラソンを走らなければならないのか。これは「彼女が苦労することで、感動した視聴者が募金する」という二段構えの演出になっているからだ。しかし、この演出は納得できないという層が増えているという。

「30代より下の世代と話していると、『なぜマラソンを見て募金するのか分からない。そんな暇があるのなら、やす子さんが直接、募金を訴えたほうがタイパがいい』と本気で首を傾げます。マラソンというワンクッションを置くことで多数の人々が感動してきたのは事実だとしても、これからの世代は『全く無意味な演出』と冷めた目で見ることは重要でしょう」(同・井上氏)

“お祭り騒ぎ”の問題点

 比較が可能なのは、赤い羽根共同募金運動や、NHK歳末たすけあいだろう。例年、前者は5月から、後者は12月から始まる。立派な社会的関心事ではあるが、誰もお祭り騒ぎはしない。歳末たすけあいの場合、NHKのアナウンサーがニュースで報じ、自ら赤い羽根をスーツの背広のジャケットに飾るぐらいだ。それでも毎年、多くの人が募金を行う。

「『あんなお祭り騒ぎの放送でなければ、「24時間テレビ」の趣旨は理解できる』という若い人も珍しくありません。具体的には当日も普段通りの放送内容で、定期的に募金会場の様子を流す。これだけで充分だという意見です。わざわざ多数の芸能人にギャラを払ってお祭り騒ぎをするくらいなら、その制作費を募金に回したほうがいいのではないか、と番組を全否定する意見も増えてきました」(同・井上氏)

 重要なのは現在、「24時間テレビ」に納得していない若い視聴者層が、50代になったところで「若い時は『24時間テレビ』が嫌いだったが、年を取ると素晴らしく思える」と考えを改める可能性は少ないことだ。

減り続ける視聴者

「これからも短期的には視聴率が上下動したり、募金額が増えたり減ったりするでしょう。とはいえ、未来の視聴者が確実に減っていることだけは間違いないと思います。実際、ネット上では『「24時間テレビ」はいつ終わるのか?』という疑問を通り越し、『「24時間テレビ」は延命措置の段階に入っている』という認識が一般的です。今後の視聴率を長いスパンで見れば、たとえ緩やかであっても、確実に右肩下がりを示す可能性は高いと考えられます」(同・井上氏)

第1回【「やす子」が苛酷なマラソンを完走しても、ネットは「無意味」の批判が殺到…なぜ「ひろゆき氏」も「デーブ・スペクター氏」も24時間テレビの価値を認めないのか】では、ひろゆき氏の24時間テレビに対する痛烈な批判、お笑い手練とのやす子マラソンを完走したとしても感動しないネット民などについて詳細に報じている──。

註:「"嫌われた"24時間テレビ」結局成功した深いワケ 激しく叩かれた割に視聴率も募金額も好調だった(東洋経済ONLINE:9月2日 西山守氏の署名記事)

デイリー新潮編集部