グラニュー糖をまぶして食べるドーナツ。セブンの再挑戦は成功するか――

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 セブン-イレブンは、9月3日よりドーナツの販売を始めた。かねてより埼玉県の一部店舗で行っていたテスト販売を拡大し、東京都と千葉県をふくめた5,000店舗へ本格導入する形だ。とはいえ、ドーナツは一度失敗しているのは知られた通り。なぜいま、再挑戦するのか。

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【画像】ドーナツ再挑戦を導いた「セブン」2つのヒット商品  ほか

 前回、セブンがカウンター販売のドーナツに参入したのは2014年だった。コンビニコーヒーのヒットを受け、その“おとも”としての売り上げが期待されていたものの、潜在的な需要がそれほど高くなかった……というのが、2017年に撤退に至った理由として語られることが多い。

 今回販売されるドーナツは「お店で揚げた」点を売りにしている。購入後、お好みでドーナツにグラニュー糖をまぶし食するスタイルだ。前回のドーナツは、あくまで“温める”だけだったことを考えると、ひと手間加わったといえる。国内のドーナツ市場が拡大中との報道はあるが、とはいえ、この10年間でドーナツ好きの日本人が急増したとは考えにくい。はたして勝算はあるのだろうか。

グラニュー糖をまぶして食べるドーナツ。セブンの再挑戦は成功するか――

ローソンが開拓した商機

 現在、新ドーナツは「メープル」(140円)と、「カスタード」「チョコ」(各160円)の3種類が用意されている。

「早速食べてみましたが、美味しかったです。値段も手ごろですし、冬場、小腹が空いた時にぴったりの商品だと思いました。人によってはやや油っぽさが気になるかもしれませんが、揚げパンの味わいも感じられ、個人的には好きでした」

 とは、元ローソン勤務で、マーケティングアナリストの渡辺氏だ。今回のセブンの狙いは次のように読み解く。

「いま、コンビニの食をめぐる状況は、大きく3つに分かれて言えるといえるでしょう。ひとつは、工場で作られるチルドの弁当類、中食と言われるジャンルです。この分野では、味や鮮度、流通ルートなどで、セブンは世界に誇れるレベルを確立しました。ただ、コンビニ他社のみならず、スーパーマーケットなども弁当類に参入するいま、飽和状態なのが事実。もうひとつは、フードロスの観点から関心が高まっている冷凍食品。こちらは現在も注力しています。そして、まだセブンが開拓の余地を残しているのが“できたて”という分野なのです」

 コンビニ業界で「できたて」と聞けば、ローソンの「まちかど厨房」が思い浮かぶ。専用スペースで弁当やサンドイッチを調理し、店内で炊いたごはんなどを提供している点が売りだ。

「恥を承知で言いますと、2011年にローソンが『まちかど厨房』を始めたとき、私は絶対に失敗すると思っていました。ただでさえ雑多な業務を担う従業員に、調理なんてする余裕はないと考えたからです。ところがセルフレジの導入が急速に進みました。こうした省力化の流れは今後も続くはずですが、店員がレジ業務から解放されたことで調理の余裕が生まれ、今や『まちかど厨房』は全国9,300店舗で展開される成功を収めています」

ファミマは“デカく”で対抗、セブンは…

 これによって、コンビニでも“できたて”の食が提供できること、その需要があることが証明された。しかし、ローソンの成功は店舗内に厨房を確保するという、設備投資あってのもの。セブンやファミリーマートが、そのまま真似できる仕組みではなかった。

「簡単に“できたて”を導入できないと分かり、ファミマはパンやパスタ、惣菜の“デカ盛り”など、お得感を打ち出し男性を中心としたニーズに活路を見出そうとしています。一方でセブンは“揚げる”という調理法をうまく活用し、できたてをアピールする道を模索しました。それが2021年から始まった『お店で揚げたカレーパン』です。結果、昨年は約7,700万個を売り上げギネス認定されるなど、定着しました。そのさらなる展開として始まったのが、今回のドーナツでしょう」

 加えていえば、今夏、専用マシンで提供する「お店で作るスムージー」が一部店舗で品薄状態となるほど好調だったことも、セブンの“できたて”注力を後押しする要因になったのではと、渡辺氏は見ている。

「ミスドを目指してはいけない」ワケ

 だが「揚げる」調理ならではの弱点もある。それはずばり、時間が経つと途端に美味しくなくなるという点だ。「とにかく揚げたあとに劣化させないように配慮すべき」と渡辺氏は語る。

「カレーパンだけならば、ある程度の売れ行きの予測も立てられ、適切な品質の商品を出すことができたでしょう。ところが、種類が増えると途端に予測が難しくなる。私がローソンの店長をしていた25年近く前、一時、店でアイスクリームの販売を行っていました。“サーティーワンアイスクリーム”のような、従業員がサーブするスタイルです。12種類のフレーバーがあったはずですが、チョコミントだけがやたら売れ、グレープフルーツは売れないなど、管理がとても難しかった記憶があります。それこそサーティーワンや、ミスタードーナッツなど、その商品を求めて来る専門店ならばラインナップを充実させる意味もありますが、他のものもついでに買うコンビニは、そうではない。定着には時間がかかるでしょうから、まずは売れ筋の味にだけ展開をしぼり、とにかく揚げたてで、おいしいと認知してもらうことが大事。セブンはミスドを目指してはいけないんです」

 セブンの再挑戦は成功するのか否か。まずはお近くの店舗で試してみてはいかが――。

デイリー新潮編集部