30年で「友達ゼロ」の男性は5倍に増えた…SNSで簡単につながる現代人が「孤独」に苦しむようになった根本原因
※本稿は、マリサ・G・フランコ『FRIENDSHIP 友情のためにすることは体にも心にもいい』(日経BP)の一部を再編集したものです。
■かつて人は「孤独」とは無縁だった
大人になると、友達づくりはどうしてこんなに難しくなるのでしょうか? 以前のように自然と生まれるようには思えません。高校や大学でも十分難しいものですが、多くの人にとって、その後はさらに飛躍的に難しくなります。
そもそも、一体どこに出会いがあるのでしょうか?
知らない土地で暮らし始める場合、みんなすでに顔ぶれが定着した人たちと仲よくしており、さらに難しそうです。どうやって割って入っていけばいいのでしょう?
友達がいない自分を責める前に、友達づくりがいかに大変かをここで見てみましょう。これは、現代という時代に悪化した問題なのです。
私たちは孤独を、人間の必然的なあり方として語る傾向にありますが、そんなことはありません。1800年代以前、人々は農業をしながら家族と共に暮らし、今よりも変化の少ない、地域に根づいた生活をしていました。親類や友達によってできた地域社会があり、村での生活や信仰の場に関わりながら生きていたのです。
コミュニティは求めるものではなく、自分たちでつくるものでした。
1800年以前は、今の私たちが知る「孤独」という状態を意味する言葉さえも存在しませんでした。「lonely」〔孤独な〕という言葉は、「単独でいる」という状態を描写するものであり、激しいほどのその痛みを指すものではなかったのです(※1)。
※1 Fay Bound Alberti, A Biography of Loneliness the History of an Emotion (Oxford: Oxford University Press, 2019).『私たちはいつから「孤独」になったのか』(フェイ・バウンド・アルバーティ著、神崎朗子訳、みすず書房2023年刊)
■孤独は「21世紀の慢性感染症」
産業化の波や、工場で働くために親が家を離れたことにより、地域社会の絆は次第に薄くなり、核家族が人々の暮らしの中心となりました。人は仕事のために引っ越すようになりますが、住宅の可動性が高まったことで、友情が使い捨てにされるようになったとする研究もあります(※2)。
そして、家族を置いて仕事へ向かうようになったことで、人は初めてひとりで暮らすようになり、これが孤独を拡大しました。
愛着理論の生みの親のひとりであるジョン・ボウルビィは、こう述べています。
「知っている人と長期的な人間関係を持つのであれば、助け合いは理にかなっている。なぜなら、今日助けるから5年後に助けてくれ、となるからだ。しかしもし5年後にあなたはここにおらず、地域社会も変化し続けるなら、当然ながら助け合いはできない」(※3)
エコノミスト誌が孤独を「21世紀の慢性感染症」と呼んだ理由は、仕事の負担や、住宅の可動性、単身者住宅がそれぞれ増加したためであると説明できます。
孤独の高まりには、住宅の問題のほかに、テクノロジーもある程度の役割を果たしています。ロバート・D・パットナムは著書『孤独なボウリング』の中で、私たちがなぜ市民生活から離れるようになってきたのか、その原因を徹底的に検証しています。
もっとも罪深いもののひとつとしてパットナムは、テレビをあげています。近所の人がどうしているかとドアをノックする以外にすることを与えたのみならず、パットナムによると、「無気力や消極性を促しているように思える」のです。
私は友達のミケランと共にこの現象を、「ドスン効果」と呼んでいます。カウチソファに「ドスン」と腰を降ろしたら、二度と立ち上がらないからです。
現在、友達がいない人はとても増えています。特に、男性はより深刻で、友達がいない人は、1990年と比べて2021年には5倍になっています(※4)。
※2 Omri Gillath and Lucas A.Keefer, “Generalizing Disposability: Residential Mobility and the Willingness to Dissolve Social Ties,” Personal Relationships 23, no. 2 (2016): 186-98, https://doi.org/10.1111/pere.12119.
※3 Robert Karen, Becoming Attached: Unfolding the Mystery of the Infant-Mother Bond and Its Impact on Later Life (New York: Grand Central Publishing, 1994).
※4 Daniel A. Cox, “Men’s Social Circles Are Shrinking,” Survey Center on American Life, June29, 2021, https://www.americansurveycenter.org/why-mens-social-circles-are-shrinking.
■友達は自然発生的にはできない
では、友達をつくるにはどうしたらいいでしょうか? 一番の方法は、自分から話しかけることです。
私たちは過去の経験から、友達は自然発生的にできるものだと思っていますが、実際にはそうではありません。つながりが分断された人類史上、もっとも友達ができにくい時代を生きています。
気になる人には自分から話しかけましょう。内向的な人は、最近会っていない人に連絡をとってみてもいいでしょう。自分から、繰り返し話しかけることが、友達をつくる秘訣です。いちばん友達が少ない人は「受け身」な人です。
受け身の姿勢や無力感を払拭するには、「内的な統制の所在」と呼ばれるものを育てることが大切です。
「内的な統制の所在」とは研究者が使う専門用語です。これは、簡単にいうと「目標を達成するための責任は自分にあると思う」ことを意味します。こういう人は、内的統制型と呼ばれます。
反対のタイプが外的統制型です。外的統制型の人は、自分の人生は自分ではコントロールできない力によって決められると考えており、そのため目標の達成に向かって働きかけることがなかなかできません。
あなたは、自分という飛行機のパイロットは、誰だと思いますか?
内的統制型の人は自分だと言いますが、外的統制型の人は、星回り、上司、配偶者、あるいは逆行中の水星、などと自分以外をあげます。
内的統制型の人が友達をつくりたいときは、ハイキングのグループに加わり、参加者に自己紹介するかもしれません。一方で外的統制型の人は、楽しそうなハイキングのテレビ番組をソファに座ったまま見ているでしょう。
私はいつも人に「自分から働きかける」とアドバイスするのですが、昔つきあっていた恋人が、このアドバイスを私自身にしてくれたことがありました。
■自分から働きかけよう
当時私が住んでいたマンションのエントランスをふたりで歩いていたときのことです。マンションの住人が数人、立ち話をしていました。私は近所の人と友達になりたいと思っていたのですが、話している彼らを見て、怖気づいて挨拶できませんでした。
自室に入ると、近所の人と友達になりたいと思っていたことを知っていた彼氏がこう聞いてきました。
「自分自身にどんなアドバイスする?」
「自分から働きかけなさい、自己紹介しなさいって」と、もごもごと答えました。
「そのとおりだね」と言いながら、彼は私をエントランスへと押し戻しました。気まずさを感じつつも、あいさつをする責任、つまり内的な統制の所在は自分の手の中にある、と私はわかっていました。
「こんにちは。最近引っ越してきました。ごあいさつだけしたくて」
隣人はオープンでフレンドリーな人たちでした。連絡先を交換して別れ、その後はメッセージ・アプリのグループチャットでおしゃべりするようになりました。そのグループの人たちで、ピクニックを毎週するようになりました。
あいさつなどのちょっとした行動は、人生にそこまで大きく影響しないと人は思うものです。でも、実際はするのです。たった1回のあいさつが、孤独でいるか、親友を見つけるかの違いをつくる可能性もあります。
内的統制型でい続けることは、友情の始まりの段階だけにとどまらず、全段階でプラスとなります。
「友達とは、自ら動いたときにできるものだ」と考えれば、内的な統制の所在を発達させることができます。もっと距離を縮めようとすれば近づける、と信じるようにもなります。
友情は何も努力せずに育つはずだとか、相手が自分を選んでくれるまで待たなければ友達はできない、という決めつけを手放せるようにもなります。
自分が選ぶのです。自分が働きかけるのです。自分がフォローアップするのです。会いたいと自分が思ったときに誘うのです。このプロセスの責任を自分が持つのです。
しかしそれにはまず、こうしたことを邪魔する可能性のある根本的な決めつけを探り、解決に向けて取り組む必要があります。
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マリサ・G・フランコ心理学者、フレンドシップ専門家
メリーランド大学でカウンセリング心理学の博士号を取得。現在、同大学で教授として勤務するかたわら、心理学に特化したメディアPsychology Today(サイコロジートゥデイ)に寄稿している。また、心理学者としてNew York Times紙、NPR(アメリカ公共ラジオ放送)などへのメディア出演や、全米の企業や大学、非営利団体での人間関係に関する講演なども行っている。
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(心理学者、フレンドシップ専門家 マリサ・G・フランコ)