ロバート秋山のクリエイターズ・ファイルで紹介されているクリエイターは100人を超えている(出所:ロバート秋山のクリエイターズ・ファイル公式サイト

ロバート秋山竜次は、いままさに旬の芸人のひとりだろう。特にここ最近、テレビなどで姿を目にする機会がぐんと増えた印象だ。超個性的なオリジナルキャラクターに扮する「クリエイターズ・ファイル」などマニアックな芸風のイメージも強かったロバート秋山が、なぜいまこれほど存在感を増しているのか? その魅力を掘り下げてみたい。

「体ものまね」と「クリエイターズ・ファイル」

改めていうまでもなく、秋山はお笑いトリオ・ロバートのメンバー。ロバートは、2011年に「キングオブコント」で優勝した実力派。一方でキャリアを重ねるなか個人での活動にも精力的に取り組んできた。そして秋山は、ソロでも頭角を現すように。

たとえば、「体ものまね」は有名だろう。着ているTシャツの裏地に梅宮辰夫の顔写真がついていて、脱ぐ要領でひっくり返すと秋山の顔が隠れ、日焼けした裸の上半身のちょうど上のところに梅宮の顔が来る。

秋山のがっちりした体形を生かした代名詞的ネタだ。つい最近、あの大谷翔平の体ものまねTシャツまで発売された。同じラインとしては、『シューイチ』(日本テレビ系)でアルコ&ピース・平子祐希と組んだ「体格ブラザーズ」という人気企画もある。


7月にはロバート秋山プロデュース「体モノマネTシャツ大谷翔平&山本由伸コラボ」も発表した(出所:株式会社SUPER MARKIT プレスリリース)

秋山の評価を一気に高めたと言えるのが、さまざまな職業の人物になりきる「ロバート秋山のクリエイターズ・ファイル」である。みな架空の人物だが、妙なリアリティのあるところが共通点だ。

【写真】ロバート秋山の多彩ぶりがわかる写真の数々(7枚)

トータル・ファッション・アドバイザーのYOKO FUCHIGAMIはファッション界の大物。見た感じは某有名女性デザイナーに似ていなくもない。そして「GUCCIもまあまあおしゃれよね。でも、裸が一番のおしゃれ」などと、ふざけているようで深い意味もありそうな言葉を矢継ぎ早に繰り出して周囲を煙に巻く。


トータル・ファッション・アドバイザー YOKO FUCHIGAMI(出所:YouTube『ロバート秋山の「クリエイターズ・ファイル」』@creatorsfile_akiyamaより)

また上杉みちは劇団遠近法(動画では遠近法のトリックを使って大柄な秋山が子どものように小さく映る仕掛け)に所属する名子役。撮影の合間は子どもらしい純真なみちくんだが、いざ撮影になると大人顔負けの集中力と演技でスタッフをうならせる。最近はNTTドコモのCMにも起用されるほどの人気キャラクターである。


子役 上杉みち(出所:YouTube『ロバート秋山の「クリエイターズ・ファイル」』@creatorsfile_akiyamaより)

さらに、歌姫がよく引き連れている取り巻きを仕事にするプロの取り巻き・白木善次郎。当然そんな職業はないが、いてもおかしくない気になるところが秋山の着眼点のすごさだ。


TORIMAKIサービス・白木善次郎(出所:YouTube『ロバート秋山の「クリエイターズ・ファイル」』@creatorsfile_akiyamaより)

いずれにしても超個性的なキャラクターばかりである。

大河ドラマ・『秋山歌謡祭』際立つ万能ぶり

この「クリエイターズ・ファイル」の印象もあり、ロバート秋山と聞いて「マニアック」という形容が思い浮かぶひとも多いのではなかろうか?

だがここ最近の秋山は、「マニアック」を超えてどんどん活躍の場を広げ、メジャーな存在になりつつある。ジャンルもお笑いだけにとどまらない。

現在放送中のNHK大河ドラマ『光る君へ』では、平安貴族・藤原実資役で出演。軽いコメディリリーフなどではなく、物語にきっちり絡んでくる真面目な役柄である。だが、個性的でそこはかとなく面白いという意味ではやはり「クリエイターズ・ファイル」に出てきそうな感じもある。


大河ドラマにも出演し、活躍の場を広げている(出所:NHK「光る君へ」公式サイトより)

世間の話題を独占した『不適切にもほどがある!』(TBSテレビ系)でも、昭和のいかにもいそうなお色気深夜番組の司会者、ズッキーこと鈴木福助を演じて異彩を放っていた。

際立つ万能ぶりで"別格"の存在感

芸人としての多彩な面も広く知られるようになってきた。

昨年10月からレギュラー化した『秋山ロケの地図』(テレビ東京系)は、秋山がいろいろな街を訪れて地元民と交流するロケ番組である。

それだけだとよくありそうな街ブラ番組で、秋山のイメージとは一見ミスマッチだが、番組進行などMCもそつなくこなす。そのうえで、ここでも秋山はきっかけを見つけては突然キャラクターになりきり、地元民やゲストと一緒になって即興劇を繰り広げる。

また、歌の魅力も知られるようになってきた。

『だれかtoなかい』(フジテレビ系)では、秋山の熱烈なファンだという杏のリクエストで登場。そこで秋山の作詞した「TOKAKUKA」をデュエットして話題を呼んだ。東京芸術劇場や浅草公会堂など東京都に実在する施設が都のものか区のものか、つまり「都か区か」を答え合わせしていく歌。それがわかったからどうというわけではないが、軽快な曲調もあって頭から離れない中毒性のある1曲だ。

秋山のオリジナル曲は、この「TOKAKUKA」のようにちょっと笑えるようなものばかり。だがどれも本格的で音楽性豊か(パロディ的な要素もある)。それを歌唱力抜群の秋山が歌い上げるので、思わず聞き入ってしまう。

そして秋山の曲だけで構成された『秋山歌謡祭』(メ〜テレ)という特番も昨年から放送されている。実は企画したディレクターの篠田直哉は、少年時代から秋山の熱狂的なファン。お笑いライブの客席に座り、忘れないよう必死でメモを取っている「メモ少年」として有名だった。その彼が長じてテレビ局員となり、『秋山歌謡祭』を実現させた。オタクとしての夢を叶えたわけである。ロバート秋山という芸人の持つ強烈な魔力を物語る話だ。

このように最近は、バラエティはもちろんドラマに歌にと万能ぶりが際立つ。しかも、普通なんでもできる器用な芸人にマニアックな印象はあまりないが、秋山は異なる。メジャーになってもマニアックさが失われない。その点、別格だ。

芸人・ロバート秋山の3要素とは

ロバート秋山の芸は、どんな場合も演技力、発想力、そしてアドリブ力がベースにある。この3つがしっかり噛み合うことで、他の芸人には追随できない「秋山ワールド」が生まれる。

演技力についてはいうまでもないだろう。大河ドラマでもそれは証明されているが、バラエティ番組でネタをやっていないときも“素が見えない”ところがある。いつも誰かを演じているような底の知れなさとでも言ったらよいだろうか。

「クリエイターズ・ファイル」も、よく見ると絶対にいそうにない人物なのだが、秋山が演じることで「こういう人いるよね」と思わされてしまう。

裏を返せば、そこには卓抜な発想力がある。

「クリエイターズ・ファイル」は「あるある」ネタ的なところもありつつ、「どこからこんな人を思いつくの?」というオリジナリティに驚かされる。「TOKAKUKA」にしても、「そこを歌にする?」とあきれながら感嘆してしまうような発想の飛躍がある。

あまり知られていないかもしれないが、『IPPONグランプリ』(フジテレビ系)で実は3回優勝経験があるように、大喜利にも強い。

そしてそれらにアドリブ力が加わることで、いっそう芸のすごみが増す。

『秋山ロケの地図』で即興劇をやるとき、もちろん台本はない。すべてアドリブである。たとえ素人が相手でも面白く成立させる手腕は流石だ。

また同じなりきり芸人の代表格である友近などとのコラボでは、アドリブ力が全面的に解き放たれる。

2人のコラボで有名なのは町内会ネタ。秋山と友近がそれぞれ町内会の会長と副会長に扮し、お祭りの運営や自転車置き場のことなど小さなことで自分がマウントを取ろうとして延々と小競り合いを続ける。笑いながらも、よくぞここまで即興でやり取りが続けられるものだと感心してしまう。

こう見てくると、ロバート秋山は、基本スペックが抜群に高い正統派コメディアンの流れを汲む芸人なのがよくわかる。実際はそうではないが、まるで浅草の舞台で鍛えられた芸人であるかのような印象もある。

そんな正統派がマニアックな存在に思えてしまうのは、いまのテレビでは漫才がバックグラウンドにある人気芸人が主流を占めているからということもあるだろう。

その意味でも秋山は貴重な存在であり、最近の際立った活躍は、もしかすると笑い全般の流れがちょっと変わりつつあるひとつの兆しなのかもしれない。

ロバート秋山の芸は「現代アート」

先日放送された『新美の巨人たち』(テレビ東京系)も興味深かった。秋山がポップアーティストとして世界的に有名な村上隆の展覧会を訪れるという内容である。

出演のきっかけは、前から見た目が村上にそっくりと言われていたこと。その流れでこの日は秋山が「村上隆」になりきり、いかにもそれっぽい扮装で出演。するとサプライズで村上隆本人が登場。前から「クリエイターズ・ファイル」のファンだったという村上が秋山に会って逆に興奮ぎみなのがちょっと面白かった。


ロバート秋山の芸は「現代アート」に通じるところも(出所:テレビ東京系列『新美の巨人たち』X公式アカウント@binokyojintachi)

そう言われれば、秋山の芸にはポップかつシュールな点など現代アートに通じるところがある。そしてそのベースには、他の追随を許さないひらめきと、それを即座にかたちにするずば抜けた表現力がある。そんな秋山を「天才」と呼びたくなるのは、自然なことだろう。

【写真】ロバート秋山の多彩ぶりがわかる写真の数々(7枚)

(太田 省一 : 社会学者、文筆家)