FCNT(旧富士通)の新作Androidスマホ「arrows We2」(筆者撮影)

2023年は日本のスマホメーカーにとって苦難の年だった。

旧富士通の携帯電話事業の流れを汲むFCNTは経営破綻し、国内製造を主力としていた京セラは個人向けスマホ製造の規模縮小を決めた。新興メーカーとして参入したバルミューダは2機種目を出せないまま撤退した。

世界でシェアを持つアップルやサムスン、XiaomiやOPPOといったメーカーが勢いを増している。残された日本メーカーはどう闘うのか。新たな動きも出てきている。

レノボ傘下で再始動狙うFCNT

FCNTは、中国レノボグループの傘下に入ったことで新たな局面を迎えている。

【写真】FCNTのarrows We2シリーズは泡ハンドソープで丸洗いできる。シャープのAQUOS R9は外部デザイナーの起用でデザインを刷新

レノボグループは、これまでもスマートフォン製造のアメリカのモトローラ・モビリティや、PC分野での日本企業との合弁(NECパーソナルコンピュータ、富士通クライアントコンピューティング)など、複数のブランドを傘下に収めてきた実績がある。その過程で、買収先の独自性を尊重しつつ、調達力や開発の合理化などでグループの強みを活かすノウハウを蓄積してきた。

FCNTの経営においても、この手法が踏襲されている。日本市場に根ざしたFCNTの独自性を保ちながら、レノボグループの持つグローバルな経営資源を効果的に活用する戦略だ。新生FCNTはarrowsやらくらくフォンといった日本市場に特化したブランドと製品ラインナップを維持し、日本のユーザーニーズに応える製品開発を継続している。

FCNTは8月に「arrows We2」と「arrows We2 Plus」の2機種を発売した。手頃な価格の入門機と、コストパフォーマンスに優れた中上位クラスの機種だ。FCNTは今回、約5年ぶりにSIMフリー市場への再参入を果たしている。キャリア向け端末と並行し、より幅広いユーザーの獲得を狙っている。らくらくフォンについても、8月に実際された発表会見の席で2024年度内に発売する方針を示した。

FCNTのプロダクトビジネス本部、外谷一磨氏によると、新モデルは40〜50代をターゲットとしつつも、全年齢層に対応できる設計を心掛けたという。「arrows We2 Plus」は、以前からの強みである堅牢性や使いやすさを維持しつつ、自律神経測定機能など新たな技術も導入。従来支持の高い法人市場に適した機能も備えている。


arrows We2シリーズは泡ハンドソープで丸洗いできる(筆者撮影)

スマホの価格が全体的に高騰する傾向がある中、「arrows We2 Plus」は性能比でコストパフォーマンスを高めた点も特徴がある。価格は5万9950円(税込み、以下同)だが、楽天モバイルでは4万9900円で販売するなど、販路によってはより安価に購入できる場合もある。性能と価格に敏感な若年層を意識した商品企画を行っているという。

レノボとの連携は、グローバルな部材調達ネットワークを活用してコスト競争力を高めているうえで奏功した。技術面ではレノボグループのモトローラ・モビリティ本社の開発部隊と深く連携しており、カメラや音響技術の改善においてモトローラの知見を取り入れるなど製品改善につなげているという。

レノボからFCNTに派遣された桑山泰明副社長は、「FCNTの製品には説明しきれないほど多くの特徴がある」と話す。「レノボグループになった初日から、FCNTの製品のユニークさをレノボに認めてもらった」と桑山氏。この相互理解が、日本市場に特化した製品の開発と、グローバル企業の強みを活かすという2つの軸を両立させる基盤となっているようだ。

デザイン刷新で海外展開を進めるシャープ

シャープは日本発のスマートフォンブランド「AQUOS」の再始動を宣言し、グローバル市場を見据えた新しいデザインコンセプトを採用した。「AQUOS R9」と「AQUOS wish4」の両機種は、この新しいブランドイメージを体現する製品だ。

シャープのパーソナル通信事業部事業部長、中江優晃氏は、新機種を「本当の意味でのグローバルへの挑戦」と位置付けている。多くの日本メーカーが撤退する中、シャープは日本のスマホが世界で通用すると考え、海外進出への意欲を示している。


シャープのAQUOS R9は外部デザイナーの起用でデザインを刷新した(筆者撮影)

新デザインは「miyake design」とのコラボレーションで生まれた。シャープ 通信事業本部本部長の小林繁氏は、「グローバルでやるうえで、日本の良さを我々もわかっていない。そのため、デザイナーの三宅さんにご協力いただいている」と語る。三宅一成氏率いる「miyake design」は、現代的でありながら日本らしさを表現することに長けたデザイン事務所だ。

シャープはこれまで台湾とインドネシアでAQUOSの販売実績があり、2023年にはこの2ヵ国での出荷数量が前年比2倍になった。今回の新機種では、これらの国に加えてシンガポールでの販売も予定している。

シャープ製品の特徴である耐衝撃性や防水性能は、海外での販売パートナーからも評価が高い。小林氏は「海外で売られている端末は精緻に作られているが、割れやすかったりする。防水も、石けん水で洗えるようなものは聞いたことがないと驚かれる」と語る。

独自の強みを活かし、グローバル市場の要求に適応

一方で、海外市場のニーズを踏まえ、「AQUOS R9」では大音量・低音重視のスピーカー設計を行い、「AQUOS wish4」では大きいディスプレイを採用するなど、グローバル市場の要求に適応している。

海外市場のニーズを踏まえて強化した要素もある。「AQUOS R9」の大音量・低音重視のスピーカー設計を行った。「AQUOS wish4」の大きいディスプレイは、海外市場でのニーズを見込んで取り入れた要素だ。


AQUOS wish4は大画面の需要が高い東南アジアを意識し、6.6インチディスプレイに刷新した(筆者撮影)

耐衝撃性や防水性能へのこだわりが海外から高く評価されている一方で、オーディオ性能はグローバル市場のレベルへキャッチアップしているという点では、FCNTとシャープで共通している。日本のスマホメーカーが厳しい競争環境に置かれる中、FCNTとシャープは独自の強みを活かしつつ、グローバル市場の要求に適応することで生き残りを模索している。

(石井 徹 : モバイル・ITライター)