人気の街「世田谷」で空き家が増加中。なぜ、81万戸に及ぶ<空き家だらけの都内>で、住宅価格が高騰しているのか
総務省の発表によると1950年代から空き家は増え続けています。それは人気エリア「世田谷」も例外ではありません。一方で都内の住宅価格が高騰しており、都内に勤務先や通学先のあるファミリーから悲鳴が上がっています。これは一体なぜでしょうか? ポイントは東京都の空き家総数のうち7割を超えるのが「賃貸住宅」であるところにあります。リノベーションバリューデザイン協議会の代表理事、REISM株式会社 取締役の挽地裕介氏が、「空き家」と「賃貸住宅」を取り巻く問題に加えて、投資先としての「賃貸住宅」について解説します。
増加する日本の空き家の半数以上が賃貸住宅なのはなぜ?
総務省が発表した内容によると1950年代から空き家は増え続け、東京都の空き家総数81万戸のうち賃貸用の住戸は58万戸(71.6%)を占めています。
高齢化や人口減少が問題視されているなかで、2023年の東京都への転入超過数は7万人を超える勢いで回復(※総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告」しているため一見例外に見えがちですが、世田谷区(5.0万戸)が最も多く、大田区(4.8万戸)、足立区(4.0万戸)と続いています。
また空き家率は、豊島区(13.3%)、港区(12.4%)、中央区(11.9%)と都心部も例外でないと言えます。住宅種別では賃貸用の空き家のうち、非木造型(高層ビルやマンションなど)がその大半であり、都心部や主要駅周辺の高層建築物やマンションにおいては、人口動態のようなマクロ的課題ではなく、所有者の管理や再利用における問題が表面化しています。
投資目的で購入されたが管理が複雑になったり、品質や価値が持続されないために利用されていない場合等が特に多いといわれています。
「投資目的で賃貸マンション購入」の「落とし穴」
投資目的で賃貸住宅を選ぶ際には、気をつけなければならないポイントがあります。一般的に賃貸用のマンションは区分所有されているケースも多く、管理組合や建物管理によって修繕やメンテナンスが行われております。建物や設備が適切な状態で管理されているかが重要で、外壁のヒビ割れや配管の詰まり等が放置されて劣化が進んでしまうと、居室内の漏水が発生したり建物自体の寿命を縮めることになりかねません。
トラブルが起きた場合は当然、所有者の責任として想定外の費用がかかってしまうこともありますし、住環境や安全性が損なわれた住宅は空室のリスクも大幅に上がってしまいます。
また、収益不動産の売買における価格は主に収益還元法の直接還元法とDCF法によって算出されます。なかでも直接還元法による算出が事業会社では一般的に行われています。
不動産価格は下記の計算式により決定されます。
不動産価格 =
年間の純収益賃料(入居賃料 - (管理費 + 修繕積立金等の諸経費))÷ 利回り
劣化が進むと、管理費や修繕積立金等が管理組合によって引き上げられ、純収益賃料が下がることによって不動産価格も下がります。
都内の空き家が増加するなか、依然住宅価格が高騰しているワケ
住宅の劣化により不動産価値が下がり、空き家が増加しているという問題が浮き彫りになっているにもかかわらず、都内の住宅不動産の価格はここ数年引き続き、上昇傾向にあります。
それには下記、3つの理由が挙げられます。
1. 都市部への集中的な居住ニーズに伴い安定していること
2.近年100年に一度と言われる規模の再開発があちこちで行われ、特定エリアの価値が再評価されていること
3.マイナス金利政策が解除されたが依然として低金利が続いており資金調達が容易であること
特に、投資対象とされているワンルームマンションは購入層の裾野が広がったことによりこうした影響を受けやすくあります。首都圏投資用マンション一戸あたりの平均価格は1995年に1,953万円だったのに対し、2022年は3,221万円まで上がっています。
所有者と居住者で「関心をもつ住宅の特徴」に乖離
都内・住宅価格の高騰により、中古再販市場は活況になることが予想されます。そんななか、戸建やファミリータイプのような「自身が住むことを目的とした不動産売買」では起こらない問題点が指摘されています。
投資目的の賃貸不動産における、所有者と居住者の間で「品質や管理維持の課題意識」に乖離が見られる点です。
とある調査では、「災害対策に優れた賃貸住宅」について関心がある居住者が51.2%であるのに対して、関心があると答えた所有者は25.1%でした。さらに、「住宅性能の高い賃貸住宅」について関心がある居住者が45.1%であるのに対して、関心があると答えた所有者は21.9%でした。
不動産市場に燻る問題点
一方で、兼ねてより不動産市場には不動産の表向きと実態が的確に結びついていないという問題があります。現在の仕組みでは内装や管理がどれだけ良好な状態だとしても評価のアドバンテージとされず低い評価がなされる場合があります。
また、築年数が20年以上の不動産については、評価自体が出されない、もしくは表面的なデザイン変更やリフォームで刷新したように見えて実際の内部劣化まで気づかない、もしくは塞いだ状態で流通している場合があります。
「住宅ストック維持・促進事業」とは
このように現在の住宅市場は、良質な住宅ストックが適正に評価されず、維持管理・リフォームを行うインセンティブが働かない悪循環構造にあります。そこで、「良質な住宅が適正に評価される」市場の整備が求められます。
こうした問題に対して、国⼟交通省は「⻑期優良住宅」や「住宅性能表⽰」「瑕疵保険」「インスペクション」「『安⼼R住宅』制度」「住宅履歴」等の住宅性能の確保や、客観的評価に係る各種制度の整備を進めています。
「良質住宅ストック形成のための市場環境整備促進事業」は、これらの制度を活用し、維持管理やリフォームの実施などによる住宅の質の維持向上が市場において適正に評価されるような、住宅ストックの維持向上・評価・流通・金融等の一体的な仕組みを開発・普及等する取組に対して支援を行う事業であり、平成28年から行われています。
この取組により、「良質な住宅が適正な価格で流通する市場の整備」や「住宅の維持管理・リフォームの促進」、「住宅資産の有効活用の促進」、「ライフステージに応じた住み替えの促進」等が期待されます。
賃貸住宅経営を検討するなら、居住者が「関心をもつ住宅の特徴」を重視して不動産を選ぶべき
空き家問題、建物の老朽化に伴う資産価値の低下、管理委託費の高騰、など賃貸不動産における課題をいかに捉えるかが今後の賃貸経営を左右すると言っても過言ではありません。
賃貸住宅経営のポイント
賃貸住宅経営は「品質」「機能」「意匠」の3点から居住者が満足のいく不動産を選ぶことができるかが鍵です。
たとえば、下記の方法が挙げられます。
・維持管理を徹底して快適な住み心地が実現する
・室内だけでなく、建物全体の健康診断(=インスペクション)によってる災害やトラブルから身を守る
・ライフスタイルに合わせたリノベーションを行い居住者のQOLを向上する
居住者が住み継ぐ、所有者が受け継ぐ、これらを繰り返すことによって古いものに新たな価値が見出されて、社会的意義をもつ活動となって推し進められることがこれからの賃貸経営の魅力と言えるのかもしれません。
挽地裕介
リノベーションバリューデザイン協議会 代表理事
REISM株式会社 取締役