集中力高く仕事を効率的にこなすにはどうすればいいか。研修会社らしさラボ代表の伊庭正康さんは「われわれの脳は、ワーキングメモリの容量が小さいため、『1つのこと』しかできない仕様になっている。そのため、同時に2つのことをすると、キャパオーバーになり、『ミスの確率が高くなる』『仕入れた情報を活かす能力が低下してしまう』という状態に陥る。さらに、複数のことを同時に処理すると、ストレスホルモンである『コルチゾール』の分泌が促され、ネガティブな感情になることもわかっている」という――。

※本稿は、伊庭正康『やる気ゼロからフローに入る 超・集中ハック』(明日香出版社)の一部を再編集したものです。

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■“ベストを尽くせ”より「具体的な目標」を

どんなタスクでも、“中だるみ”は起こります。

対策は、「いつ、何をするのか」を明確にしてから着手すること。

そうすることで、あたかもドミノ倒しのように、次々とタスクを処理できるようになります。

出所=『やる気ゼロからフローに入る 超・集中ハック』

アメリカの心理学者ロックが提唱した「目標設定理論」は参考になります。

この研究では、“ベストを尽くせ”といった「曖昧な目標」より、「具体的な目標」を設定した方が、難易度の高いことでも完遂できることが確認されているのです。

例えば、30ページ分の分厚い企画書を作成するとしましょう。

なかなかの重労働です。気を抜くと、締め切りまでに間に合わないかもしれません。

さて、次のAさん、Bさんのどちらが、確実に仕上げられると思いますか?

Aさん:
「今週中に終える」と期限を明確にした上で、着手する。
Bさん:
月曜、業界の情報をネットで調べる。
火曜、ネットでは得られない情報を先輩に教えてもらう。
水曜、作成に着手。15ページを完了させる。
木曜、残りの15ページを作成。
金曜、確認をした後、お客様にメールを送る。
と決めてから着手する。

この場合、正解はBさんというわけです。

■着手する前に「いつ」「何を行うか」まで決める

ニューヨーク大学の心理学者、ピーター・ゴルヴィツァー教授は、行動レベルで「いつ、何を行うか」を事前に計画すれば、目標達成(完遂)率が40%も上がるとの発表をしています。

「月曜にネットで調べ」たら、すぐに「先輩に教えを乞う」。

「教えを乞う」たら、すぐに「企画書の作成に着手」。

このように、1つのタスクを完了させた瞬間、「次に何をしよう」と考えずとも、ドミノ倒しのように、次のタスクにすぐさま着手できるようになるからです。

まず、普段からアクションを起こす前に、「いつ」までに達成するのかを決めるのはもちろん、「何をする」といった実行レベルまで決めてみましょう。

■「聞いているようで、聞いていない」のメカニズム

会議で話を聞きながら、チラチラとメールをチェック……。

資料を作成しながら、今日の予定の確認……。

忙しい時、つい同時並行でやってしまうことはないでしょうか。

だとしたら、注意が必要です。

出所=『やる気ゼロからフローに入る 超・集中ハック』

テキパキとこなしているようで、むしろ効率が悪い仕事の仕方の典型であることを理解しておきましょう。

われわれの脳は、ワーキングメモリの容量が小さいため、「1つのこと」しかできない仕様になっています。そのため、同時に2つのことをすると、キャパオーバーになり、次の状態に陥ることが検証で得られているのです。

・ミスの確率が高くなる。
・仕入れた情報を活かす能力(「知識の転移」と言われる)が低下してしまう。

たしかに、会議でメールをチラチラとチェックしている途中で、司会者から「疑問点はありますか」と聞かれても、「今は大丈夫」と返事をするくらいはできるでしょう。

でも、「どのように現場で活かせそうですか? 2つくらい、アイデアをもらっていいですか?」と求められたら、とても対応できないでしょう。

これこそが、集中できていない証拠なのです。

だからこそ、しっかりと集中するためには、同時並行でやりたくなる衝動を抑えて、「シングルタスク」を徹底させることが必要になります。

白状しますと、こんなことがあったばかりです。

朝食をつくりながら、音声(オーディオブック)で日経新聞のニュースを聞いていた時、私のお客様のニュースが流れてきたのです。無意識だったのですが、そのニュースに集中してしまったのでしょう。焼いていた魚が丸焦げになってしまいました。

マルチタスクをするとイライラしやすい

もう1つ付け加えると、複数のことを同時に処理すると、ネガティブな感情になることもわかっています。

ストレスホルモンである「コルチゾール」の分泌が促されるためです。

リモートワークで、子供が騒ぎ出したらどうでしょう。穏やかではいられないはずです。

識者の中には、「邪魔されない環境で仕事をしましょう」と言う人もいます。

たしかに一理ありますが、日本の住環境では、限界があるのが現実ではないでしょうか。だとしたら、騒いだ時は、「いったん作業を止めて休憩をする」とした方が、得策というわけです。

■「少しだけ」から元の集中力に戻るのは23分かかる

私たちは、次のようにふとした刺激に反応してしまうことが少なくありません。

「PC操作をしている際、デスクの散らかりが気になり、少しだけ掃除」
「資料を作成していたら、途中でメールが気になり、少しだけチェック」

出所=『やる気ゼロからフローに入る 超・集中ハック』

南カリフォルニア大学の研究では、

気を取られるのは、たった0.1秒。

しかし、もとの集中力に戻るのに23分はかかるとの検証が得られています。

だとしたら、私の提案はこうです。

可能な限り、タスクスイッチングを避けてください。

2017年のアカデミー賞授賞式における珍騒動は、まさにタスクスイッチングの危険性を示唆してくれています。

その時、選ばれた作品賞は「ラ・ラ・ランド」でした。

会場は拍手に包まれ、関係者全員がステージに。鳴りやまぬ拍手の中、監督や出演者が壇上で表彰を受け、喜びと感謝のスピーチを順番に語っている、まさに感動のひと時に珍事件が発生したのです。

ステージ上が、少しざわつき始めた瞬間、司会者が慌てながら、こう言ったのです。

「ラ・ラ・ランドではなく、ムーンライトです。ベスト映画はムーンライト。間違いでした」

場内は騒然。

歴史に残る珍事件として記憶されました。

■ツイッターも立派なタスクスイッチング

その後の調査でわかったのは、作品賞の書かれた封筒を司会へ渡す人が、舞台裏でタスクスイッチングをしていたことでした。

伊庭正康『やる気ゼロからフローに入る 超・集中ハック』(明日香出版社)

封筒を渡す人が、渡す直前までツイッター(現X)に投稿をしていたことが判明したのです。

ことの顛末はこうです。

・授賞式の様子をツイッターに投稿。
・その途中で、封筒を手渡す作業を実施。
・すると、違う封筒を渡してしまった。

封筒を間違えずに渡すくらいなら、子供でもできるはずです。

でも、直前までツイッターをしていたので、タスクスイッチングがうまくできなかったということなのです(この珍事件はYouTubeでも公開されています)。

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伊庭 正康(いば・まさやす)
らしさラボ代表
1991年、リクルートグループ入社。営業部長、フロムエーキャリア代表取締役を歴任後、2011年に研修会社らしさラボを設立。YouTubeチャンネルでも営業のノウハウを配信中。近著に『超効率的に結果を出す テレアポ&リモート営業の基本』(日本実業出版社)がある。
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(らしさラボ代表 伊庭 正康)