WR-VがフリードCROSSTARと競合することもあるならフロンクスは?

写真拡大 (全9枚)


スズキの新型SUV「フロンクス」とSUVテイストとしたホンダのミニバン「フリードCROSSTAR」(写真:三木宏章)

コンパクトSUVの概念が、ユーザーの意識の中で崩れ始めているのではないか?

直近で登場している新型各モデルを取材しながら、筆者はそんな想いを抱いている。具体的には、スズキ「フロンクス」、ホンダ「WR-V」、同「フリードCROSSTAR」を比較してのことである。

まずは、スズキの新型コンパクトSUV「フロンクス」について触れたい。

開発責任者の森田祐司氏は「ハッチバックのバレーノではなく、日本はSUVの需要が高いため、フロンクスがマッチすると考えた」と、日本へのフロンクス導入を決めた経緯を説明する。


報道陣向け試乗会で筆者が乗ったフロンクスのプロトタイプ(筆者撮影)

「バレーノ」は、かつて日本でも販売されていたハッチバックモデルで、2代目となる現行型は「フロンクス」の兄弟車だ。

初代バレーノの日本での販売が、スズキの想定より伸びなかった理由として、森田氏は先進運転支援システム(ADAS) などの安全装備が他社モデルと比べて少なかった点と、ボディ形状を挙げた。

つまり、今回のフロンクス導入は、「ハッチバックではなくSUVを選んだ」ということである。実際にフロンクスの実車を見ると、デザインはスポーティで、日本のユーザーからの“引き”は良さそうだ。

「SUVとしてわかりやすい」WR-V

本稿執筆時点では、プロトタイプ試乗のみを体験しており、正式発売は2024年秋(価格も未公開)。ボディサイズは、先行発売されている南アフリカ仕様を参考にすれば、全長3995mm×全幅1765mm×全高1550mmとなる。

乗ってみると、走りもいい。ステアリングの手応えがしっかりあり、クルマ全体の動きに深みがある。まさに「スイフト」などから脈々と続く、スズキの知見を基にコンパクトSUVに仕上げた感じだ。

見た目も走りも、「スポーティなコンパクトSUV」という概念をストレートに表現したといえる。メーカーが考える、ユーザーにとって「わかりやすい商品」だ。

そんなフロンクスの「SUVとしてのわかりやすさ」の対極にあるコンパクトSUVが、ホンダWR-Vである。

【写真】フロンクス/WR-V/フリードCROSSTARのデザインを見る(32枚)

フロンクスと同様、インド生産のグローバルコンパクトSUVなのだが、サイズ感やコンセプトの方向性はフロンクスとまったく違う。パッと見の印象は、フロンクスよりだいぶ大きい。


スクエアなデザインで「SUVらしさ」を強調するホンダ「WR-V」(筆者撮影)

実際に全長4325mm×全幅1790mm×全高1650mmのボディサイズは、価格を抑えたコンパクトSUVとしては大きめで、さらにガッチリとした面構えと長い目のフロントノーズが、クルマをより大きく見せる。

運転席に座ってみても同様だ。フロントノーズが長いことで、実寸以上に大きなSUVに乗っている感覚になる。

走りの味もフロンクスとは異なり、いうならば“まったり”走る。それでも高速道路では、旋回中のクルマの動きとドライバーの意思がしっかり同調するところに、ホンダらしい走りへのこだわりを感じる。

エンジンは、フロンクスと同じ1.5Lでハイブリッド機構などは持たないが、ドライバーが鈍さや重さを感じることはなく、ほどよいパフォーマンスだと言える。

200万円台前半という価格も追い風に

後席スペースや荷室はミニバンのような印象で、このクラスとしてはかなり広い。

開発責任者の金子宗嗣氏は、「開発期間がコロナ禍と重なり、市場だけでなくオンライン主体の働き方への移行などから、グローバルでのライフスタイルの変化を実感した」と、タイのホンダR&Dアジアパシフィックによる日本仕様を含めた、WR-V量産開発の経緯を振り返る。


「WR-V」は荷室や後席の広さも十分に広かった(筆者撮影)

こうして誕生した「他に類のない新種」ともいえるWR-Vの国内での価格は、209万8800円〜248万9300円。4輪駆動のハイブリッドもないが、この「お得感」がWR-V人気の背景にあることは間違いない。

次に、フリードCROSSTARだ。フリードは、ご存じのように3列シートを基本とするスライドドアのミニバンだが、2列シート仕様もあり、CROSSTAR(クロスター)というSUVテイストのモデルもある。

先代では、追加モデルという印象だったCROSSTARは、2024年6月に発売された新型フリードでは、標準仕様のAIRとともに「選べる2つのテイスト」という位置づけになり、メイングレードの1つとなった。


ブラックの樹脂パーツをつけることでSUVテイストを醸し出す「フリードCROSSTAR」(筆者撮影)

新型フリードはパッケージング、操縦安定性、ADAS(先進運転支援システム)の最適化、エンジン+CVT制御の精度向上、「フィット」での導入から改良を重ねたホンダ独自ハイブリッドシステム「e:HEV」の進化、さらには4輪駆動車の性能向上など、内容も盛りだくさん。

また、ボディサイズは、CROSSTARで全長4310mm×全幅1720mm×全高1755mmでWR-Vと近く、ミニバンであっても競合になりうるのだ。ただし、価格帯は281万2700円からと、WR-Vより高い。

フリードのライバルは「3列シート車」だけじゃない

横浜市内で実施された報道陣向け試乗会で、開発責任者の安積悟氏に、WR-Vとの違いを聞いた。質問の意図は、SUVテイストのフリードCROSSTARは、WR-Vと競合になるか。

フリードCROSSTARをコンパクトなSUVだという見方をすれば、ひとつ下の価格帯に位置するWR-Vと比較検討する人もいるのではないか、と考えたのである。

これに対して、安積氏はあくまでも「SUVのスポーティなデザイン特性」を理由に、「フリードとWR-Vのカテゴリーの違い」を強調するにとどまった。


「フリードCROSSTAR」にはSUV的な使い勝手を想定した2列シート仕様もある(写真:三木宏章)

また、フリードの競合車として、安積氏が挙げたのはトヨタ「シエンタ」「ルーミー」、ダイハツ「トール」の3車種。同じ3列シートのシエンタを挙げたことは当然としても、2列シートで価格帯も低いルーミー/トールの名前が出たことに、筆者は少し驚いた。

乗車定員や価格帯の違うルーミー/トールがフリードと競合になるとすれば、ユーザー視点ではフリードCROSSTARとWR-Vが同じテーブルに乗ることあるだろう。

フロンクス、WR-V、フリードCROSSTARの3車種は、ミニバンとSUVという違いはあっても、ユーザー目線では広い意味で同じカテゴリーにあるクルマのように思える。

クルマのカテゴリーの観点から、少し時代を振り返ってみよう。

まずミニバンは、日本特有のクルマ文化として、商用車(バン)が乗用車(ワゴン)の領域へと時間をかけて段階的に移行し、確立されていったものだ。

たとえば、トヨタ「タウンエース」などバン/ワゴンの両方を持っていた車種が、1980年代に入り乗用車化が加速。1990年にワゴン専用設計のトヨタ「エスティマ」が、1994年に背の低いミニバン、ホンダ「オデッセイ」が発売され、流行へ。


1994年に「アコード」をベースとして7人乗りミニバンを成立させた初代「オデッセイ」(写真:本田技研工業)

そして、1997年に日産「エルグランド」が高級車としての価値をミニバンに与え、2000年代以降は、トヨタ「アルファード」や「ヴォクシー」が乗用車として当たり前の存在になる、といった具合。軽自動車市場でスーパーハイトワゴンが浸透したことも、商用車から乗用車への移行だといえる。

海外ではどうか。アメリカでミニバンというと、子どもの送迎用途を強調した「サッカーママ(サッカーの練習への送り迎え)」のイメージが強調され、SUVとは別物であるという意識が強い。

東南アジアや中国では、旅行業者の送迎用として「ハイエース」需要が今も高い。一方で、アルファードを筆頭とした、乗用ミニバンへのニーズも増えている。

また、インドネシアを中心に、MPV(マルチ・パーパス・ヴィークル)が根強い地域もある。日本でのコンパクトミニバンが、これと近い存在だ。


筆者がタイで試乗した三菱自動車のMPV「エクスパンダーHEV」(写真:三菱自動車工業)

セダン市場を上回るSUV

一方で、SUVの発祥はアメリカにある。ジープの乗用化モデルとして登場した「チェロキー」が火付け役となり、1990年代に入るとフォード「エクスプローラー」など、アメリカ市場におけるミッドサイズSUVがブームに。

同時に、シボレー「タホ」「サバーバン」、キャデラック「エスカレード」といったフルサイズSUVの需要も急拡大した。

2000年代に入ると、ヨーロッパと日本のメーカーも、ミッドサイズ/フルサイズSUV市場に本格参入する。ピックアップトラックの乗用化と同時に、SUVはアメリカ市場の中心的な存在となっていった。

さらに2010年代になると、アメリカ市場でいうコンパクトSUVとして、トヨタ「RAV4」やホンダ「CR-V」の販売台数が、「カローラ」「カムリ」「シビック」「アコード」といった、長きわたりアメリカ市場の中核にあったC/Dセグメントのセダンを超えるようになる。


トヨタ「RAV4」の日本向けモデル(写真:トヨタ自動車)

現在は、アメリカ市場系SUVのほか、東南アジアを製造および輸出拠点とするグローバルSUVとして、トヨタ「フォーチュナー」や三菱「パジェロスポーツ」などがあり、インドネシアのMPVとともに、地域特性に応じて売れている。

つまりWR-Vは、単なるコンパクトSUVではなく、日本を含めたグローバルでの需要の最大公約数を「ホンダらしく具現化した多目的車」だと言えるのだ。

今、日本市場で何が起こっているのか?

最後に、日本におけるカテゴリー別の市場変化について、ホンダの資料をもとに紹介する。

2023年の日本の乗用車市場は、全部で381万台。セグメント別に見ると、多い順に軽2BOX(33%)、SUV(24%)、2BOX(2%)、ミニバン(13%)、4ドアおよびステーションワゴン(5%)だった。

これを10年前の2014年と比べると、SUVの伸びが目立つ。当時、SUVは6%にすぎなかったのだ。

そのSUV市場の中でも伸びているのが、新車価格200万〜250万円の日本でいうスモールコンパクトSUVで、過去5年間で急成長している。


東洋経済オンライン「自動車最前線」は、自動車にまつわるホットなニュースをタイムリーに配信! 記事一覧はこちら

2023年、この価格帯のスモールコンパクトSUV市場は、国内SUV市場全31万台のうち、42%を占めた。次いで150万〜200万円(29%)、250万〜300万円(27%)となっている。

こうして、ミニバンとSUVの国内外での市場変化を俯瞰し、さらに直近の注目モデルを乗り比べながら開発者らとの話を聞くと、作り手であるメーカーの予想を超えて、日本のユーザーが求めるクルマ像の変化が、加速しているように思えてならないのだ。

【写真】フロンクス/WR-V/フリードCROSSTARの内外装を比較する(32枚)

(桃田 健史 : ジャーナリスト)