(※写真はイメージです/PIXTA)

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なかなか子離れできない。そんな悩みをもつ親世代は多いのでは。成人しても、どんなに大人になっても、子どもを心配し、ついつい行き過ぎた行動に出てしまう……そんな経験をもつ人も多いでしょう。しかし、子どもは親の知らないところできちんと成長しているようです。

新幹線で2時間、上京の母(53)…長男の住むアパートへ

――こっそり来てしまった

東北新幹線で2時間ほど。東京駅に到着した53歳の女性。地元の銘菓を手に向かうのは、大学卒業後、就職のために上京した長男が住むアパートだといいます。

しかし、この日は平日、時計は正午まわったところ。長男はまだ会社で働いているのでは?

――息子には内緒で来ました。ちゃんとやれているのか心配で思わず……

――給料も月22万円ほどだというし……そんな安くてちゃんと食べていけているのかしら

子どもを思う親心。とはいえ、本人に内緒でひとり暮らしのアパートを訪ねるのは、親子喧嘩の火種になりそう。しかし子を思う母を誰も止められそうもありません。東京駅から在来線に乗り、30分ほどの駅へと向かいます。

厚生労働省『令和5年賃金構造基本統計調査』によると、大卒新入社員の平均給与は月23.7万円。男性に限ると平均24.0万円。さらに給与分布をみていくと、中央値は23.1万円。上位10%で28.5万円、上位25%が25.4万円。一方で下位10%が19.9万円、下位25%が21.5万円。長男の月収22万円は、大卒新入社員の下位34%にあたります。確かに長男の月収は、金額としては下位グループに入ります。

■大卒新入社員の平均月収の分布

〜18万円未満:2.2%

18万〜19万円未満:2.9%

19万〜20万円未満:5.1%

20万〜21万円未満:8.6%

21万〜22万円未満:15.2%

22万〜23万円未満:13.6%

23万〜24万円未満:14.4%

24万〜25万円未満:9.9%

25万〜26万円未満:8.1%

26万〜30万円未満:12.2%

30万円以上:7.8%

また月収22万円だとすると、手取りは月17万〜18万円ほど。そこから家賃を払い、水道光熱費を払い、携帯電話代を払い……何にするにしても高い東京だと、やっていけないのではないか……母が心配するのも無理はありません。

【東京在住「月収22万円・23歳サラリーマン」の手取り額】

額面収入:220,000円

手取り額:175,491円(183,807円)

(内訳)

所得税:3,741円

住民税:8,316円

健康保険:11,000円

厚生年金:20,130円

雇用保険:1,320円

※(かっこ)内は住民税の天引きがない入社1年目の手取り額

母(53)、息子のアパートの扉を開けてビックリ、冷凍庫を開けてさらにビックリ

何かあったときのためにと、一応預かっていたという、長男が暮らすアパートの鍵。

――まさか、本当に使う時が来るとは

自分の行動に、少々ビックリもしているという母親。なぜか慎重に鍵穴に鍵を入れ、慎重に鍵を回します。カチャと開く音。長男はいるはずもないのですが、なぜか静かにドアを開けます。

――なにこれ!

そこには思いもしなかった光景が広がっていたといいます。

とりあえず、ラインで「ごめんね、あなたに内緒で東京に来ちゃいました。いまあなたのアパートにいます」「適当にしているので、仕事頑張って」と報告。すぐに「!」マークが返ってきたといいます。

夜になり、長男が帰宅。どうやら怒っているというよりも、母親の行動に呆れている様子。母親は勝手に家に来たことを詫びると早々に「あんた、これなに?」と台所を指さし長男に尋ねます。

――何って、見たまんま、豆苗

――あんた、自炊してるの

――するよ、当たり前じゃん

実家にいたころは、お湯さえ沸かすことがなかった長男が、まさか自炊をしているとは……母親としては相当、衝撃だったようです。

――じゃあ、冷凍庫のなかのあれは何?

――何って、見たまんま、もやし

部屋で暇しているのもどうかと思い、料理でも作って待っていようかと冷凍庫を開けたところ、そこにあったのは、冷凍したもやし。近所のスーパーでは、毎週日曜日、特売で1袋9円で売っているとのこと。それを大量に買い込み、冷凍しているのだとか。

――もやしって、冷凍していいんだ

――何言っているの、きちんと洗って、水気をちゃんと切って冷凍すれば、凍ったままでも調理できて便利だよ

主婦歴25年。傷みやすいもやしは、すぐに調理するばかりで、冷凍するという発想がなかったと母親。この情報は、消費者庁の公式X(旧ツイッター)でも発信しているもの。安く手に入るもやしは、家計の強い味方であるものの、傷みやすいのが難点です。ただ冷凍すれば日持ちして便利ということは、国もお墨付きというわけです。

実家を出た長男(23)が、東京暮らしで自炊を始めたワケ

長男の急成長に舌を巻く母。とはいえ、長男が自炊をするようになったのは、厳しい東京での暮らしがありました。

昨今の物価高は、なかなか上がることのない「家賃」にも影響を与え、2023年12月から2024年1月にかけて、民営借家1か月(1畳当たり)は4,313円から4,492円と4%の上昇。この春、家賃の値上げ交渉を迫られた人は多かったのではないでしょうか。そして東京の家賃はというと、1畳あたり全国平均4,495円に対し、23区で9,737円と2倍以上。都外の府中市で6,612円と1.5倍程度。家賃を払うだけでも大変です。

またサラリーマンであれば頭を悩ませるのが、毎日のランチ代。株式会社リクルート/ホットペッパーグルメ外食総研が今年4月に発表した『有職者のランチ実態調査(2024年3月実施)』によると、会社員の平均ランチ代は452円。そのランチの内容をみていくと、最多は「自炊、または家族等が作った食事」で31.1%。その平均金額は392円です。

サラリーマンの3割がランチ持参なのは、やはり昨今の物価高に、なかなか上がらない給与にあります。厚生労働省の調査によると、賃金は上昇傾向にあるものの、物価高がそれを上回り、実質給与減となっている状況は、26ヵ月連続だとか。サラリーマンの節約志向が進むのも当然の結果だといえるでしょう。

――心配かもしれないけど、きちんとNISAもしてるし

――NISA!?

――そう、ネットなら100円からできるから、給料が少なくてもコツコツとね

厳しい経済状況が続くなかでも、しっかりと自炊して、しかも資産形成までしている……なんとも、頼もしい長男。親世代以上に、厳しい未来が予想される若者世代ですが、大人が思っている以上に賢く、力強く生きているようです。親離れしていく長男の姿に、一抹の寂しさを感じつつ、成長を実感したという母親。もうこっそりとアパートを訪ねることはないといいます。

[参照]

厚生労働省『令和5年賃金構造基本統計調査』

消費者庁『消費者庁食品ロス削減【公式】』

株式会社リクルート/ホットペッパーグルメ外食総研が今年4月に発表した『有職者のランチ実態調査(2024年3月実施)』

厚生労働省『毎月勤労統計調査』

総務省『小売物価統計調査』