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国際宇宙ステーション(ISS)の引退が近づいています。宇宙での建設が始まったのが1998年、完成は2011年。以来、人類の宇宙研究最前線の場所として親しまれています。が、何事にも終わりがあるように、ISSも2030年に運用終了が予定されています。

運用終了に伴い、たくさんの計画が進行中。NASAでは、ISSを地球低軌道上からどう解き放ち、地球の大気圏へと突入させるかを計画しています。大気圏に突入すれば、国際宇宙ステーションの大部分は燃えて消えてしまいます。NASAを中心に各国の宇宙機関が相談に相談を重ね、あらゆる策と可能性とコストを検討。その結果、アメリカの民間宇宙企業SpaceXが、ISSを地球軌道から放つための宇宙船を開発することになりました。

ISSのサイズは全長109m、サッカーのフィールドくらいあります。宇宙空間にある(現在では)最大の人工物です。となると、地球軌道上から放たれる最大の人工物ということになります。低軌道から解放するのも、大気圏に突入させるのも、そして燃えきらない残骸を安全な場所に落下させるのも容易ではありません。

ISSはなぜ運用終了するの?

単純に老朽化、です。

ISSは、NASAだけでなく多くの宇宙機関にとって、超微重力下での最新テクノロジーや科学的実験を行なう重要な場所として長年親しまれてきました。アメリカ、ロシア、ローヨッパ、日本、カナダなど18カ国もの宇宙飛行士が時に共に滞在し、協力してきた国際的で平和な場所。ISSの引退後、その場所は民間宇宙企業にとって大きなチャンスの場となります。

ロシアは自国の宇宙ステーションを建設しながら、2028年までISSに宇宙飛行士の派遣を継続します(国際宇宙ステーションには、常に最低でもNASAから1人、ロシアから1人の宇宙飛行士が派遣されている)。ロシアは、ソユーズとプログレス補給船で、今までも多くのクルーメンバーや物資をISSに送り届けてきました。が、ISS引退でそれらの船はロシアに戻ります。つまり、ISS引退ミッションにおいて、NASAは最大のパートナー(ロシア)の力を借りずに遂行しなければならないということ。

Image: NASA

解体ではなく破壊

ISS引退は、すなわちISSの破壊です。なぜなら、解体・分解は現実的ではないから。

そもそもステーションは解体を想定してデザインされていません。ゆえに、今ある計画が唯一可能な選択肢でしょうね。

そう教えてくれたのは、オランダのデルフト工科大学の宇宙力学講師Marco Langbroek氏。

ISS建設は、NASAのスペースシャトルを使い27のミッションで完成しました。これを解体するとなれば、NASAをはじめ各国の宇宙機関に、宇宙飛行士にとんでもない労力を求めることになります。

NASAもISS引退ミッションに関するレポートにてこう語っています。

安全に取り外し、モジュールなどそれぞれの部品を戻すという解体労力は、今までISSで行われたのと同じ数以上の船外活動、地上チームによる大規模計画、スペースシャトルの巨大カーゴと同クラスの宇宙船など、物流とコスト面であまりにも大きな壁となります。

破壊計画

ISSをコントロール下で大気圏突入させ、燃え残ったものは地上へ落下。その際、人的被害リスクは1万分の1以下でなくてはなりません。

ISSを破壊する前に、まずは地球に戻すべきもの、戻せるもの、移動可能なモノを動します。宇宙飛行士も退去します。運用開始から、無人になったことがないISS。最後にここを離れるのは誰になるのでしょう。

モノも人もいなくなって、そこで初めてISSの移動が始まります。地球低軌道上を飛ぶISSの飛行高度を下げることからスタート。海抜400kmの位置をキープするため、燃料燃焼を止めます。最終的には、ISSの飛行軌道を海抜250kmまで下げます。大気抵抗によって、自然に軌道高度を下げていく予定で、Langbroek氏いわく徐々に下がっていくこのプロセスには数ヶ月かかる想定なのだそう。

SpaceXの力

ここで登場するのが、軌道から解放するための宇宙船を開発するSpaceX。この宇宙船がISSとドッキングし、飛行軌道をさらに下げるための燃料解放など一連の作業を担います。今年3月、NASAは2024年の仮予算を発表。2030年ISS引退の軌道解放のため、開発費用1億8000万ドル(約283億5000万円)が盛り込まれています。NASAの予想では、ISS引退には最終的にトータル10億ドル(約1567億円)ほどコストがかかる見込み。

SpaceXが獲得したプロジェクトの契約はおよそ8億4300万ドル(約1354億円)規模。ただし、この予算は宇宙船の開発費用であり、打ち上げ費用は含まれていません。宇宙船のデザイン詳細は、現段階では公開されていません。また、SpaceXお馴染みのドラゴン宇宙船が応用されるかどうかも不明。

高額な費用は、軌道解放ミッションを機体が耐え抜くのは難しい(大気圏突入で燃え尽きるだろう)という見方から、一度きりの使用が想定されているため。SpaceXが開発した宇宙船は、完成後はNASAが所有、運用する予定。

安全かつ管理下での大気圏突入

SpaceX開発の強力な助っ人宇宙船により、ISSはどかーんと大気圏へ突入。が、ISSからでるデブリ(不用物)を管理するため、突入の仕方にも指定があります。

ドイツの人工衛星の空気力学を研究する企業Hyperschall Technologie GöttingenのTobias Lips氏いわく、大気圏に適切に捕獲されるには、楕円軌道へ引っ張って乗せる必要があるといいます。この突入がうまくいけばいくほど、地上への不確かなリスク(落下物のサイズ、数、落下範囲)は下がると、Lips氏が解説してくれました。

大気圏再突入の専門家は、ISSの4割程度が大気圏の熱に耐えられると予想。NASAは落下地点の十分な管理が必要になるということです。

ISSの大気圏再突入スピードは時速2万8000km。高度100km地点で、ISSが分解され始めると言うLangbroek氏。

外側にある、ソーラーパネルやアンテナなどが最初に壊れるでしょう。次に、本体が分離していきます。多くは燃え尽きますが、ドッキングポートなど大きな構造物は残るでしょう。

大気圏で燃え尽きないと想定されるのは、ISS総重量の1割から4割、8万1646kgほど。こららが落下するのは、人工衛星の墓場とも言える太平洋。太平洋で最も陸地から遠いエリア「ポイント・ネモ」が予定されています。

新たな時代の始まり

国際宇宙ステーションの運用終了は宇宙史において1つの章の終わりを意味します。つまり、新しい章が始まるということ。新章のタイトルは、きっと「宇宙の商業化」。地球の底軌道が、これから大きく変わります。

一方で、人類の宇宙史いおいてあまりにも大きな部分を占める国際宇宙ステーションだけに、一部を保存しようという計画も進行中です。

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