何度も議論を重ねた末、GoogleはChromeブラウザでサードパーティCookieを維持することを決定した。結局、長年にわたる騒ぎは無駄ではなく、広告業界の叫びがようやく聞き届けられたのだ。

Googleは米国時間7月22日のブログ投稿で、「サードパーティのCookieを廃止するつもりはない」ことを明らかにした。その代わりに、ユーザーがWeb閲覧中に十分な情報を得たうえで選択でき、いつでも調整できる「Chromeの新しい体験」を導入するという。

Googleの幹部はすでに、英国の競争・市場庁(CMA)や情報コミッショナー事務局(ICO)などの規制当局とこの方向転換について話し合っており、業界とも近々同様の話し合いを行う予定だ。いまのところ、これが実際に何を意味するのかはわからない。

一方で、「プライバシーを保護する代替手段を持つことは依然として重要だ」とプライバシーサンドボックスのバイスプレジデント、アンソニー・チャベス氏はブログ投稿で述べている。「我々はプライバシーサンドボックスAPIを引き続き提供し、プライバシーと実用性をさらに向上させるために投資していく」。

プライバシーサンドボックスはすぐにはなくなることはない



サードパーティのCookie代替手段に時間と労力を費やしてきた人たちが心配する必要はないようだ。GoogleはAPIをプライバシーサンドボックスに保持する。実際、「今後もAPIに投資を続け、プライバシーと実用性をさらに向上させる計画だ」とチャベス氏は述べている。さらに、最近発表されたChrome のシークレットモードでのIP保護(つまり、プライバシー保護のためのIPマスキング) では、追加のプライバシーコントロールがプライバシーサンドボックスに追加される。

「我々は活気あるパブリッシャーのエコシステムをサポートし、企業と顧客を結び付け、我々全員に幅広いコンテンツへの無料アクセスを提供する広告支援型インターネットを維持しながら、オンラインプライバシーを大幅に改善する革新的なソリューションを見つけることを目標にプライバシーサンドボックスを開発した」と、チャベス氏はブログ投稿に記した。

言い換えれば、「プライバシーサンドボックスはすぐにはなくなることはない」ということだ。

これは、Googleの計画によりChromeユーザーがサードパーティCookieをオプトアウトするようになれば、不幸中の幸いとなるかもしれない。重要なのはユーザーに選択肢を与えることであり、多数のユーザーが「Cookieは不要」と判断した場合、サンドボックス内のAPIは実際にCookieなしでそれらのユーザーをターゲットにするのに有効な可能性がある。

ここで強調したいのは、プライバシーサンドボックスに現在ある技術的な問題をすべて考慮すると、「可能性がある」と言えることだ。しかし、これが実現すれば、3年前にAppleがモバイル識別子で行ったこととあまり変わらないだろう。当時、AppleはApp Tracking Transparencyと呼ばれるプライバシー保護策を導入し、ユーザーがプロンプトを通じて自分のデータや広告主向け識別子(IDFA)をアプリやサイトと共有するか否かを判断できるようにした。

広告担当幹部は安堵のため息をつけるのか



一方で、Googleは業界に変化球を投げかけるかもしれない。サードパーティCookieをめぐる一連の騒動が広告業界の幹部に何かを教えてくれたとすれば、それは予想外の事態を予想することだ。

広告主は、Googleがプライベートサンドボックスを売り込むために全力で攻めると予想できる。ChromeでサードパーティCookieを維持するという決定が、1月から3月にかけてGoogleが実施した代替手段のテストがいかにうまくいったかという発表と同時に発表されたのは偶然ではない。テストでは、有望な以下のような結果が示されていた。

規模の維持:広告主の支出はGoogleディスプレイ広告で89%回復し、ディスプレイ&ビデオ360では86%回復した。

投資収益率(ROI):1ドルあたりのコンバージョン数(CPD)は、Googleディスプレイ広告で97%、ディスプレイ&ビデオ360で95%回復した。

リマーケティングの回復:広告主の支出回復率は、Google広告では55%、ディスプレイ&ビデオ360では49%で、リマーケティングとほかの戦略を組み合わせたキャンペーンではより良い結果が得られた。

こうした調査結果から、プライバシーサンドボックス技術はサードパーティCookieなしで広告のパフォーマンスを回復するのに役立つことが示唆されていた。しかし、これらの結果は暫定的なものであり、やるべきことはいくつもある。Googleは、とくに広告業界や英国のCMAからのフィードバックが殺到していることから、このことを十分に認識している。

それでも、プライバシーサンドボックスがサードパーティのアドレス指定能力に関するGoogleの計画のすべてではないとわかれば、広告担当幹部は安堵のため息をつくだろう。4年前にChromeでサードパーティCookieを廃止する計画を発表してから現在に至るまで、Googleの戦略はプライバシー擁護者の満足と広告業界の広告パフォーマンス(および収益化)の維持とのあいだで混乱に陥っていた。

パブリッシャーにとってプライバシーサンドボックスとは



とくにパブリッシャーは、自社のビジネスにとってこの苦境が何を意味するのか理解するのに苦労している。プライバシーサンドボックスに対する信頼は、ここ数カ月で薄れつつある。幹部らは米DIGIDAYに対し、「プライバシーサンドボックスをChromeユーザーの1%でしかテストできなかったため、実験プールが小さすぎてパフォーマンスについて明確な結論を導き出せない」と語った。その後、4月にGoogleがサードパーティCookie廃止を再び延期すると発表したとき、複数のパブリッシャーは「サンドボックスのテストにリソースを割り当てるのを完全にやめた」と述べていた。

当時、一部のメディア幹部はDIGIDAYに対し、クリテオ(Criteo)やインデックスエクスチェンジ(Index Exchange)のような大手企業に自社の在庫をより大規模なテストに使用させていると語っていたが、ことしの夏に調査結果が公表されると、自社でテストを実施するとなると、利益を搾り取る価値がないことにパブリッシャーは気づいた。

そして7月の時点で、クリテオは「パブリッシャーのプライバシーサンドボックス採用率は55%を下回っており、当分のあいだ、その状態が続くだろう」と報告した。レイテンシー(遅延時間)の問題と平均的な広告収入の損失は、報告を受けてパブリッシャーが表明したプライバシーサンドボックスに関する2つの大きな懸念事項だった。

なお、スノープス(Snopes)とTVトロープス(TV Tropes)のチーフレベニューオフィサーであるジャスティン・ウォール氏は、7月初めに「廃止のスケジュールが延期された時点で、我々はプライバシーサンドボックスのテストから完全に撤退した」と述べ、「現時点では小規模な出版社がプライベートサンドボックスに時間やお金を費やすことは持続不可能だ」と言い添えていた。

[原文:After years of uncertainty, Google says it won’t be ‘deprecating third-party cookies’ in Chrome

Kayleigh Barber and Seb Joseph(翻訳・編集:島田涼平)