なぜ「月極」は「駐車場」だけに使う?他業種で 「つきぎめ」が用いられない理由は? 最近は減っている?

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「月極」とはどのような意味がある?

「月極駐車場」という表現は全国各地で見ることができますが、逆に言えば、駐車場以外で「月極」という表現を見ることはほとんどありません。

「月極」とはどのような意味であり、なぜ駐車場だけに用いられるのでしょうか。

駐車場以外ではあまり「月極(つきぎめ)」という言葉を聞くことは少ない

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 クルマに関連する言葉のなかでも、もっとも読み間違いをしやすいもののひとつが「月極」です。

「げっきょく」と呼んでしまいがちなこの言葉ですが、正しくは「つきぎめ」と読み、月ごとの契約であることを意味しています。

 一般的には「月極駐車場」というかたちで用いられることが多く、全国各地の駐車場でこの2文字を見ることができます。

 一方、「月極」という言葉は、駐車場以外にあまり使われることはありません。

 それこそが、この言葉を読み間違えてしまうことが多い原因でもあるわけですが、そこにはどのような背景があるのでしょうか。

 そもそも「月極」は「月単位の契約」であることを意味しています。

 しかし、世の中には多くの「月単位の契約」が存在するものの「月極」という表現が用いられるのは駐車場をのぞいて皆無です。

 強いて言えば、建設機械のレンタル業では「月極」や「日極(ひぎめ)」といった言葉が使用されていますが、そのほかの業界ではほとんど見られないことから、例外的な事例と考えるのがよさそうです。

 また、一般的な漢字使用の目安として文化庁が規定している「常用漢字表」においては、「極」という漢字の訓読みは「きわめる」のみとされており、「きめる」という読み方は常用漢字外であることがわかります。

 つまり、「月極」という表現はもちろん、その読み方さえも一般的なものではないため、多くのユーザーが読み間違いをしてしまうのはやむを得ないことと言えそうです。

 一方、「極める(きめる)」という表現をさかのぼっていくと、少なくとも江戸時代には「決める」とほぼ同様の意味で用いられていることがわかります。

 ただし、「極める(きめる)」には「町民全体で決定する」や「契約する」というニュアンスが強く、「決める」より重みのある言葉だったようです。

 講談社『江戸語大辞典』によれば、文化8年(1811年)の時点で、現代とほぼ同じ意味での「月極」という言葉が用いられていたとされており、さらに、1920年代の文献にも「月極」の2文字が多く見られます。

 当時、なにを「月極」していたかというと、住居やそこでの食事、人力車、タクシーなど、現代に比べて多岐にわたっていたようです。

 いずれも、衣食住に関わるものであったり、それなりの支払いを要するものであったりすることから、より強い意味を持つ「極める(きめる)」が用いられたものと推測されます。

「月極」はオシャレじゃない? 最近見かけなくなっている背景は?

 ただ、現代では駐車場以外で「月極」の2文字を見ることはほとんどありません。

 むしろ、クレジットカードや銀行口座からの引き落としが普及したことにより、かつてと比べて多種多様なサービスで「月極」を利用することができます。

 にもかかわらず、「月極」という表現があまり見られないのは、漢字の「音読み」と「訓読み」の違いが大きく関係しているようです。

 一般的に、「音読み」は知的かつ難解な印象を与え、「訓読み」は平易かつ幼稚な印象を与えるとされています。

 たとえば、「足跡(そくせき)」と「足跡(あしあと)」が表すものはほぼ同じですが、与える印象には大きな違いがあります。

 明治期以降の日本では「音読み」のほうが格調高く洗練されているとされることが多く、大学進学率が高まった戦後はさらにその傾向が増したと言われています。

 そのようななかでは、訓読みの「月極」よりも「月間契約」や「定期契約」といった表現のほうが好まれたものと考えられます。

駐車場で見られる「月極(つきぎめ)」。それ以外ではあまり耳にすることは無いのはなぜ?

 また、外来語をそのまま受容できるのも日本語の特徴とされています。

 近年では「マンスリー〇〇」や「サブスク(サブスクリプション)」といったカタカナ語が流通するようになったことも、「月極」という表現が駐車場以外では見られない要因のひとつと言えそうです。

 逆に言えば、いまあえて「月極」という表現を用いる理由がないというのが、最大の理由と言えるかもしれません。

※ ※ ※

 一方、駐車場に関しては、歴史ある表現が長らく残り続けています。

 そこには、多くの不動産業者において駐車場の個別契約自体が副次的な業務であることや、自宅から半径2km以内に駐車場を確保しなければならないという制約があることから、不動産業者間で競争が起こりにくいという背景があります。

 競争が起こらないのであれば、あえて洗練された表現を用いて顧客を引き寄せる必要がないため、結果として「月極」という表現のまま今日に至ったものと考えられます。