「自分が過去に出した指示を忘れ激怒」金正恩の不安定な独裁統治
今月15日午前、北朝鮮の朝鮮労働党両江道(リャンガンド)委員会総務部に1通のファクスが届いた。
党と行政、建設部門のイルクン(幹部)に対する思想闘争会議(吊し上げ)を行えという、朝鮮労働党中央委員会組織指導部から指示文だった。
「今までの党の政策貫徹においての偏向問題、無責任さ、職務怠慢の問題を、強力な思想闘争で根絶やしにせよ」(指示の一部)
金正恩総書記は今月11日、12日の両日、両江道の三池淵(サムジヨン)を視察した。ファクスは、その際の幹部の不手際について厳しく追求せよと命じたものだが、一体何が起きたのか。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。
金正恩氏は11日午後、三池淵市内で白頭館(博物館)、ポンナム洞ホテル、ペゲ峰スポーツ村を視察した。
「白頭館に立ち寄り、護衛司令部のスキー訓練場を観光客に開放し、鉄道路線を三池淵飛行場と無頭峰(ムドゥボン)まで延長せよと指示するなど、このときまで金正恩氏は非常に上機嫌だった」(幹部)
ところが翌12日午前、新築されたばかりのペゲ峰ホテルで突如として怒りを爆発させた。
「ペゲ峰ホテルのレストランと会議室を視察するところまで金正恩氏はとても機嫌が良かったが、客室を見て激怒した。狭すぎるというのがその理由だ」(情報筋)
このホテルは3つ星で、5つ星に比べると客室が狭く、施設も劣る。しかしこれは、3つ星ホテルを数多く建設して100万人の観光客を誘致せよとした、2017年の金正恩氏の指示の結果だった。
まさに、その指示に従って建てられたのがこのホテルなのだが、経緯を説明できる担当者が視察の現場にいなかった。その場にいた党三池淵市委員会の責任書紀(地域のトップ)、三池淵市の人民委員長(市の行政のトップ)、商業管理所長らは、いずれもホテルの客室がなぜ狭いのか、きちんと説明できなかった。
納得の行く答えが得られなかった金正恩氏は激怒し、その場で「客室を広くせよ」と改築工事を命じた。自らが7年前に出した指示や政策をすっかり忘れて、何の罪もない地域のトップに当たり散らしたのだ。そして、彼らは処分を受けることとなった。
過去にはこうした流れで処刑された幹部もいたから、当事者は生きた心地もしなかったに違いない。
(参考記事:北朝鮮の15歳少女「見せしめ強制体験」の生々しい場面)
絶対王朝は、人徳を持った王が国を正しく治めることで成り立つ。北朝鮮各地に掲げられた「首領福」というスローガンも、人徳者を最高指導者として戴く人民は幸せという意味が込められている。
ところが、実際の金正恩氏は「天気屋」で、人徳も何もあったものではない。
「金正恩氏の気分次第で、一瞬で英雄にもなり、逆賊にもなるのがこの国(北朝鮮)の残念な状況」(幹部)
ただ、恐怖のみが国を支えているに過ぎないのだ。