よく聞く「イップス」って何? 実は“誰でもなり得る” 精神科医が原因と対処法を解説
野球やゴルフ、テニスの選手によく聞く「イップス(Yips)」。スポーツ選手特有の症状に感じている人もいるかと思いますが、スポーツなどをしていない一般の人でも「イップス」になることがあるということです。そこで、精神科専門医の田中伸一郎さんに「イップス」という症状について、聞きました。
スポーツ選手以外も“なり得る” 脳神経・筋、心理的な問題の両方がきっかけ
Q.まず、「イップス」とは、どのような症状なのでしょうか?
田中さん「わかりやすく説明すると、反復練習して習得したあるパフォーマンスの途中で筋肉のけいれん・突っ張り・震えなどが無意識に出現してしまうものです。イップスがあると、意識して動作の修正を試みるようになるのですが、気にすればするほど悪化してしまう悪循環に陥ります。
イップスは、野球、テニス、卓球、ゴルフ、ダーツといった競技の選手によく見られます。古くは日本の弓道でもイップスの様な症状がありました」
Q.スポーツ選手ではない、一般の人が陥りやすい「イップス」はあるのでしょうか。
田中さん「イップスは、スポーツ選手以外の一般人にも見られることがあります。動作を繰り返す中でしっかり身につけ、緊迫した場面でも何の問題なくやれていたはずの動作が、ふとしたきっかけでうまくやれなくなることは誰にでも起こるといってもいいでしょう。
例えば、演奏家、漫画家、作家、美容師、歯科医などに発症する「局所性ジストニア」もしくは「職業性ジストニア」は、習得した動作が意図せずできなくなってしまう点で、イップスに類似した症状として知られています。
イップスは、あくまで反復練習して習得するような粗大・微細な動作ができなくなるものを言います。ですので、急に階段の上り下りができなくなる、パソコンの操作がわからなくなるといった日常的な動作が急にできなくなる場合は、脳に何らかの異常がないかなどについて検査する必要があるかもしれません」
Q.「イップス」のような症状を感じたら、どのように対処すればいいのでしょうか。病院に行くとしたら、何科を選べばよいのでしょうか。
田中さん「イップスの原因としては、脳神経・筋の問題と、心理的な問題の両方が考えられ、さまざまな医学領域で研究が進められています。
現時点では、初期の場合には、動作のチェックポイントを複数作り、言葉でも説明するなどして、技術面で動作全体を丁寧に確認するのがよいとされています。あるいはもし、心理的要因が明確な場合には、そちらの解決を図ることも大切でしょう。
症状が長引いて、また『イップスを起こすのでは?』という予期不安を伴って結局イップスを誘発する悪循環が見られる場合には、専門家に相談したほうがよいでしょう。何科を選べばよいかは難しいのですが、整形外科、神経内科、精神科の中からスポーツ医学・芸術医学(舞台医学)を専門とする医師が在籍しているクリニックをひとまず受診して、必要に応じて大きな病院を紹介してもらうのがよいと思います」
Q.「イップス」を克服する方法はあるのでしょうか。
田中さん「イップスの前段階として、反復練習のしすぎ、過緊張状態、睡眠不足などがありそうです。しばしば見かけるのが、常に過度に緊張して、不安を乗り越えようと睡眠時間を極端に削ってまで練習するケースです。若い内はそれでも本番を乗り切ることができるのですが、年齢が上がり、パフォーマンスに習熟するにつれ、ある時ふとイップスっぽい、動作の途中で一瞬わからなくなる体験が始まってきます。
対処法は、常日頃から、練習に遊びを入れる、緊張を和らげる、きちんと睡眠時間を確保することです。リラックスしてパフォーマンスを楽しむくらいになれれば、イップスは完全消失します。
また、イップスの前段階で、『胸が詰まる』『呼吸がしづらい』『声が出にくい』といった症状を訴える人が、かなり多くいるような印象があります。この時点で、上記のような適切に対処法をすれば、イップスの発症を防ぐことができるかもしれません。
以上は、誰にでも当てはまるわけではないでしょうが、副作用はありませんし、高度な技術を支える生活の基本に目を向ける機会にはなるかなと信じています」