創業100周年の老舗「洋菓子のヒロタ」に2度目の経営危機…債務超過転落と手持ちの現金が1億円を下回る非常事態に

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大正13年創業で今年100周年を迎える老舗「洋菓子のヒロタ」を運営するヒロタグループホールディングスが、2度目の経営危機に瀕している。2024年3月期に5億円超の純損失を計上。債務超過に転落してしまったのだ。

【図を見る】コロナ禍前後で大きく変わり、V字回復したように見えた「洋菓子のヒロタ」の売上

しかも、2024年3月末時点の手持ちの現金はわずか9900万円。同社は今年2月26日に第三者割当増資によって3億円近い資金調達をしたばかりだった。100周年を迎える節目で行った大胆な出店とブランドリニューアルが思うような成果を出せず、手痛いしっぺ返しを食らうこととなった。
 

社名と定款変更で悪しき流れからの脱却を印象づけるも…

洋菓子のヒロタは2001年に民事再生を申請している。製造拠点の拡大を進めた一方で販売不振に陥り、53億円もの負債を抱えて経営が立ち行かなくなったのだ。

当時、再生スポンサーとなってその危機を救ったのがトゥエニーワンレイディ・ドット・コムだ。後に21LADYに社名変更し、2004年10月に株式を上場している。

この会社は英国式パブ「HUB」のグループ化、北欧雑貨やインテリアなどを販売する「イルムス」、和菓子の「あわ家惣兵衛」の買収など、多角化を進めた。

しかし、2018年6月に開いた株主総会で、オーナー社長の広野道子氏が解任されてしまう。5期以上連続で純損失を計上。営業キャッシュフローもマイナスになって、経営不振の責任を追及されたのだ。

新経営陣のもとで再出発を果たすが、コロナ禍の到来でしばらくは赤字から抜け出すことができなかった。ところが2023年3月期にようやく1600万円の純利益を出したのである。

創業99年目の2023年は勢いに乗っているように見えた。

10月1日に21LADYからヒロタグループホールディングスへと社名変更。同じタイミングで定款を変更している。変更前は、事業の目的の最初に「投資事業組合財産の管理および運営」、次が「経営コンサルタント業」となっていた。

それを「乳菓、乳製品の製造、販売」「冷凍食料品、冷凍調理食品の製造、販売」へと改めたのだ。

まさに心機一転。創業99年目というタイミングで民事再生からの流れを断ち切り、100周年を新たな体制で迎えようという意図が伝わってくる。

しかし、結果は残酷だった。

ヒロタは2024年3月期の期首に、売上高を前期比8.4%増の24億6000万円、純利益を同77.7%増の3000万円と予想していた。しかし、実際の着地は売上が計画を1億円下回り、5億円を超える巨額損失を出すこととなったのである。

保有する現金は1年でおよそ3億円が消失

ヒロタは2023年10月1日に東京と大阪に旗艦店をオープンしている。直営店が減少する中での反転攻勢だった。

新たにオープンした「ヒロタ 東京・東銀座店」は、歌舞伎座の横という絶好のロケーションだ。ヒロタのシュークリームは4個入りの商品が定番。観劇を終えた人々のお土産需要にも期待できる。

ブランドのリニューアルも実施。懐かしさと今っぽさの融合を図ったパッケージや店づくりを行った。かつての「洋菓子のヒロタ」をよく知る年配と、ブランドを知らない感度の高い若者の両方をターゲットにしているように見える。

しかし、期待していた売上には至らなかったと、経営陣は素直にその効果が限定的だったことを認めている。

ヒロタは2024年3月期に1億4800万円の債務超過状態となった。上場廃止を回避するためにもこれを解消しなければならないが、キャッシュフロー上も相当な危機に瀕しているように見える。

2024年3月末時点の手持ちの現金は9900万円。前年から3億円近く減少している。売掛金が3億1000万円あるものの、買掛金が1億8400万円、未払金が2億200万円、1年内返済予定の長期借入金が1億200万円あるのだ。

 委任状争奪戦の悪夢再び?

ヒロタは2024年5月に値上げを実施し、物流費などを削減して利益率を改善。フランチャイズ事業を始めてビジネスの拡大を目指すとしている。

2025年3月期は売上高を前期比37.5%増の32億5000万円、1億5000万円の純利益を出すとの予想を出している。

リニューアルや旗艦店の出店効果が限定的だった中、売上を1.4倍に引き上げるのは容易ではない。今後は第三者割当増資など資本性のある新たな資金調達が視野に入るのではないか。

ただし、創業100周年の一大イベントという好カードをすでに切ってしまったヒロタに対して、快く出資する投資家や事業家は多くはないはずだ。

21LADY時代は増資によって敵対する勢力を生み出すきっかけを与え、委任状争奪戦の末に広野道子氏失脚という退任劇を招いた。それだけに出資者の慎重な見極めが必要だ。まさに綱渡りの資金調達である。

セールスポイントの「手軽」であることはむしろ弱点に

「洋菓子のヒロタ」は消費者の心をつかめず、時代に乗り遅れてしまった印象を受ける。
対照的に永谷園が2013年に買収した、麦の穂ホールディングス(現DAY TO LIFE)が運営するシュークリーム店「ビアードパパ」の業績は極めて好調だ。

この事業を含む永谷園の中食その他事業の2024年3月期の売上高は、前期比15.2%増の150億円。コロナ禍で売上は一時100億円を下回ったが、コロナ前を回復するどころか大きく上回っている。

「ビアードパパ」は定番のパイシュークリームのほか、カリカリとした食感のクッキーシューに加え、期間限定のシュークリームを1年通して数多く送り出している。

2022年度の段階で店舗数は250。このうち122はフランチャイズ加盟店だ。品質コントロールが難しいフランチャイズが半分ほどだが、月替わりで季節商品を開発している。

洋生菓子を製造するモンテールはスイーツに関する消費者調査を行っている(「スーパー・コンビニ スイーツ白書」)。

その中で、魅力を感じるスイーツの食感の変化を調べており、2023年の「なめらか」は38.5%と最も高いものの、前年から3.5ポイント下げた。その一方で、「ふっくら」が2.4ポイント、「しっとり」が0.9ポイント上昇している。

スイーツに対する消費者の意識は常に変化するのだ。スイーツの製造会社はその消費者意識を捉える、もしくは提案しなければならない。「ビアードパパ」はそれに成功しているように見える。

「洋菓子のヒロタ」のように、定番商品を手頃な価格で売るという手法が通じる時代ではなくなっているのだ。

立地特性と販売する商品にギャップが生じる

ヒロタは100周年を記念して「動物シュークリーム」を販売している。アニメや漫画のキャラクターのような可愛らしいものだ。しかしこれを銀座の旗艦店で販売するのは完全にミスマッチだろう。

銀座は一流のパティシエによる趣向を凝らした洋菓子から、三越に出店するような定番ブランドまで、数々の名菓子に彩られたエリアだ。そこに旗艦店を出店するのであれば、店舗限定の商品を投入するべきだろう。

役員体制が十分なのかどうかも疑問。社長の遠山秀紱氏は元シダックスの役員を努めた人物だ。

取締役の伊佐山佳郎氏は生え抜きだが、すでに年齢は60歳を超えている。他の取締役2名は増資を引き受けた出資者であり、洋菓子店の経営に深く関わってきたようには見えない。

かつて隆盛を誇った「洋菓子のヒロタ」だが、現在の店舗数はわずか7だ。経営危機を早期に脱し、顧客と向き合うタイミングが訪れているように見える。

取材・文/不破聡 撮影/集英社オンライン編集部