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 石を投げれば「神」に当たるこの時代。何をもって「歴史的なイベント」とするかのコンセンサスはそう簡単に得られるものではないが、6月26日、27日に東京ドームで開催された『NewJeans Fan Meeting 'Bunnies Camp 2024 Tokyo Dome』は、少なくともNewJeansにとって、そして参加したすべてのオーディエンスにとって、間違いなく「歴史的なイベント」だった。

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 2022年7月にデビューしたNewJeansにとって、『Bunnies Camp 2024 Tokyo Dome』は昨年7月に韓国・ソウルでおこなわれた初めてのファンミーティングに続く2回目のファンミーティングにして、世界で初めての2時間以上の単独でのフルセット公演。今回のイベントに関しては「海外アーティストとしては史上最速の東京ドーム公演」「日本初の単独公演」といったキャッチフレーズが飛び交っていたが、そもそもNewJeansは『Bunnies Camp』を除いて、アメリカや日本のフェスでも、各国でおこなってきたイベントでも、昨年に続いて今年もおこなわれた韓国国内の学園祭ツアーでも、2時間はおろか1時間以上ステージに立ったことがなかった。つまり、日本のオーディエンスにとってだけでなく、メンバーにとっても、スタッフにとっても、今回の公演はすべてが「初」尽くしとなる、これまでのキャリアにおける最大のイベントとして計画されたものだった。

 にもかかわらず、公演が発表された直後の4月には、メンバーのHYEINが練習中に足の甲を微細骨折してしまい、主だった活動を休止することが発表。それに続いて、韓国国内だけでなく世界中で大きく報道されることなった、所属事務所ADORと親会社HYBEとのトラブルが表面化した。そんな、普通だったら公演の開催も危ぶまれるような過酷な状況下で、それでもNewJeansは東京ドームのステージに5人で立つことを大きな目標に、新曲をスケジュール通りにリリースして、MINJI、HANNI、DANIELLE、HAERINの4人で韓国の音楽番組やイベントへの出演を重ねてきた。

 したがって、NewJeansの楽曲を随所にサンプリングした、およそ東京ドームらしからぬ手加減なしのプログレッシヴなプレイを展開してみせたプロデューサー/DJの250(イオゴン)のDJに続いて、6月26日のステージにデビュー曲「Attention」のイントロとともに5人が揃ってステージに登場した瞬間は、ファンにとって、そして何よりもメンバーにとって、「荒波をくぐり抜けてようやくこの日を迎えることができた」という万感の思いが炸裂するものだった。そして、その最初からやってきた感動のピークは、その後の約2時間15分に及ぶステージの最中に何度も塗り替えられることとなった。

 「ファンミーティング」と称されていた今回のステージは、K-POPアクトのファンミーティングで慣例となっている司会も通訳もいなければ、MCタイムを引き延ばすオーディエンスとのゲームコーナーなどもない、完全にすべての時間と空間を「音楽とパフォーマンス」が支配する正真正銘の「コンサート」であり「ライブ」だった。そこで大きな貢献を果たしていたのは、バンドマスターをSANABAGUN.の大樋祐大(Key)が務め、King Gnuの新井和輝(Ba)ら日本の音楽シーンの最前線で活躍する腕利きのミュージシャンたちが集合したサポートバンドだった。基本コンパクトな構成でリニアビートが主体のNewJeansの楽曲をオーガニックに発展させたその演奏は、「グループのパフォーマンスを生で体験する」以上の音楽的な興奮をもたらしてくれた。ちなみに同メンバーは昨年10月に横浜のぴあアリーナMMで開催された『Coke STUDIO SUPERPOP JAPAN 2023』でもサポートを務めていたが(その時のステージも見事だった)、NewJeansが同じバンドを2回以上起用するのは今回が初めてのこと。そのことからも、彼らへの信頼がいかに厚いかがわかるだろう。

 企画もの(「Zero」や「GODS」など)やカバーを除いて、これまでNewJeans名義でリリースされてきた楽曲は16曲。今回のステージではそのすべてを披露することが事前に告知されていたが、その中には「Get Up」のように1分にも満たないスニペット的な楽曲も含まれていて、長い曲でも3分台。そこで、2時間以上のステージを成り立たせるために用意されていたのが各メンバーのソロパフォーマンスと、26日はYOASOBI、27日はRina Sawayamaのゲスト出演だったわけだが、5人のメンバーとADORの優秀なスタッフたちは周到な準備によってそのすべてを「事件」にしてみせた。

 すでにソーシャルメディアで大きな話題になっているのは、HANNIの「青い珊瑚礁」(松田聖子)、MINJIの「踊り子」(Vaundy)、HYEINの「プラスティック・ラブ」(竹内まりや)といった、日本の新旧ポップミュージックのカバーだ。その背景には、ADORチームの日本のポップカルチャーへの深い愛着と、メンバーの自主性を促す運営方針(「踊り子」や「プラスティック・ラブ」を選んだのはメンバー自身だという)があるわけだが、そこで今回最も露になったのは、各楽曲の作品世界を深く理解し、自分の声と身体を通してそれを体現してみせた、各メンバーのずば抜けた表現力だ。決して「誰がどの曲をカバーした」というだけで、こんなにバズっているわけではないのだ(驚くべきことに今回のステージをきっかけに「青い珊瑚礁」や「踊り子」は韓国のヒットチャートでも急上昇している)。

 また、NewJeansのファン目線で今回それよりも大きな「事件」だったのは、HANNIとDANIELLEの2人で歌った未発表曲「Hold It Down」が、どうやらNewJeansの来たる初のフルアルバムに先駆けて披露された曲であること(27日の2人のMCより)、そしてDANIELLEがソロで歌った未発表曲「Butterflies (With U) 」が、DANIELLE自身が作曲まで手がけた曲であること(両日のDANIELLEのMCより)が明らかにされたことだ。いずれもこれまでのNewJeansの楽曲にはなかった、同時代の北米音楽シーンのトレンドに馴染むタイプの曲で、「日本デビュー」に焦点を合わせての今年の6月から7月にかけての「日本集中モード」の先にある、NewJeansのネクストチャプターを予見させてくれるものだった。

 シングル、ミニアルバム収録曲を問わずこれまでほとんどの曲でミュージックビデオを制作し、効果的なプロモーションを仕掛けてきたNewJeans。つまり、そもそも既存の16曲だけで事実上のグレイテストヒッツ状態である上に、そうして次から次へと目の前で「事件」が起こるという、全編クライマックスとしか言いようがない多幸感に包まれていた今回の『Bunnies Camp 2024 Tokyo Dome』。しかし、自分が最も心を動かされたのは、彼女たちとそのスタッフが目指しているのが、すでにそのレールの先に見えているグローバルポップの頂点に立つことではなく、もっと身近な幸せ、これまでと同じように仲間たちと笑い合いながら過ごす「日常」であることが伝わってきたことだ。

 歌のスキルにおいても、ダンスのスキルにおいても、そして「スキル」という言葉だけでは言い表せない表現力においても、NewJeansの5人がその世代で世界最高峰の才能を持った集団であることは疑いようがない。しかし、その上で彼女たちがステージで体現していたのは「完成形」ではなくどこか「未完成」なもの、「パーフェクト」ではなくどこか「不完全」なものであり、それはキャリアの短さや平均年齢の低さからくる5人のイノセントな輝きだけに拠るものではない。

 自分のPCの最も目立つ場所には、2022年8月にリリースされた1stEP『New Jeans』のフィジカル盤に同梱されていた「NEWJEANS ARE NOT BLUE」と印されたステッカーが、今もずっと貼られたままだ。26日と27日、東京ドームに足を運んだ際にも被っていたNewJeansのキャップの後ろには、「Don’t Be Blue」と小さな文字が縫い込まれている。今年の春からHYEINの足の怪我、親会社とのトラブルと、ブルーにならずにはいられないことばかりが続いた5人は、それでも今回の『Bunnies Camp 2024 Tokyo Dome』でキャリア最大のイベントを大成功に導いてみせた。

 2日目の終盤、それまで部分的には4人にステージを託さざるを得なかったものの、参加曲ではずっと堂々たるパフォーマンスを繰り広げていたグループ最年少のHYEINの涙が決壊すると、たまらずそれにつられて泣き出してしまったグループのムードメイカーのHANNIに対して、日本語で「あなたまで泣いちゃったら私はどうしよう?」と言ってその場でステージの床に寝転がってみせたグループ最年長のMINJI。デビュー時に「NEWJEANS ARE NOT BLUE」を標語としていた彼女たちは、最後まで互いを励まし合い、おどけ合い、笑わせ合っていた。やがてやってくるフルアルバム、ワールドツアー、グローバルでのさらなる成功。今回の『Bunnies Camp 2024 Tokyo Dome』を足がかりに、5人はさらなる目標に向かって走り出していくだろう。でも、今はこの奇跡のように幸福な時間が少しでも長く続くことだけを、強く願って止まない。

(文=宇野維正)