インバウンドに沸く「お台場フードコート」の現在
今回訪れた「東京グルメスタジアム」では、東京の東西を代表する「日本の丼」、すた丼と金子半之助が夢の共演をしていた(筆者撮影)
時にレストランであり、喫茶店であり、高齢者の集会所にもなる「フードコート」。その姿は雲のように移り変わりが激しく、楽しみ方は無限大。例えるなら「市井の人々のオアシス」だ。
本連載では、そんな摩訶不思議・千変万化な「フードコート」を巡り、記録しながら、魅力や楽しみ方を提唱していく。第5回は「東京グルメスタジアム」を訪れる。
開発から35年、五輪競技会場にもなった台場周辺を散策
今回のテーマは、江東区青海にある「ダイバーシティ東京 プラザ」のフードコート。その名も「東京グルメスタジアム」である。
ダイバーシティはその名の通り、広くは「お台場」として知られるエリアに位置する。この辺りは「東京臨海副都心」として知られ、江東区・港区・品川区と3つの行政区をまたいだ440ヘクタールほどの広大な埋め立て地である。
エリア一帯の開発は、1989年に始まった。もともとの計画は1979年から検討が始まったとされ、着手まで実に10年もかかった大型の開発エリアといえよう。
【画像】お台場「東京グルメスタジアム」は「ザ・日本食」が集まる場所だった…意外にも?由緒ある歴史を持つお台場の風景と、外国人で賑わうフードコートの様子を見る(30枚)
その後、1993年にレインボーブリッジが開通し、1995年にはゆりかもめの新橋〜有明区間が開業するなど、交通の利便性が徐々に向上。
1997年に新宿区河田町からフジテレビが移転し、移転に先駆けて放映した、架空の警察署「湾岸署」を舞台にしたドラマ『踊る大捜査線』がヒットするなど、どんどんと注目が集まるようになっていった。余談だが、その後2008年に「東京湾岸警察署」が実際に誕生している。
今では知名度も抜群の「お台場」を歩く(筆者撮影)
近年では東京五輪・パラリンピックの競技会場になるなど、台場を中心とした臨海副都心は国際色を増し、名実ともに東京の新たな顔となっている。外国人観光客も多いお台場の街並みを散歩しつつ、今回もフードコートをパトロールしていこう。
「テレポート」の意味を知り、再々開発中の街を歩く
台場周辺にはいくつかの駅があるが、多くの人はりんかい線の東京テレポート駅を利用するのではないだろうか。そして、多くの人が駅名にある「テレポート」とは何かご存じないのではないか。私もその一人である。
あらためて、テレポートってどういう意味?(筆者撮影)
これを機に調べたところ、由来は臨海副都心の開発計画にあるらしい。具体的には、計画で副都心の名称が「東京テレポートタウン」とされていたからなのだとか。
また、この場合の「テレポート」はいわゆるテレポーテーションなどとは異なり、英語の「television」「telephone」といった、遠くへと情報を届ける機器の接頭辞である「tele」に、港を意味する「port」を組み合わせた造語だという。
東京テレポート駅付近から見たフジテレビ社屋。いつ見ても不思議な建物だと感じる(筆者撮影)
ひとつ賢くなったところで、街へ繰り出そう。同エリアで直近に大きく話題となったものといえば、3月に開業した「イマーシブ・フォート東京」だろう。長らく営業していたショッピングモール「ヴィーナスフォート」の跡地を再利用した施設で、イマーシブ=没入型の体験をウリにしたテーマパークである。
東京テレポート駅を出てイマーシブ・フォート東京の方面に歩いていくと、自動運転車両の案内があった。辺りを走行しているだけでなく、試乗体験もできるらしい。この辺りはその他にもモビリティ関連の施設として、シティサーキット東京ベイがある。23区で唯一のモータースポーツ・サーキットとして、EVのレーシングカート体験ができるという。
さらにサーキットの奥には、かなり巨大な建設中の施設もあった。おそらく2025年に開業予定の「TOYOTA ARENA TOKYO」と思われる。もともとトヨタの「MEGA WEB」があった地であり、今後も関連のコンテンツが充実していくのだろう。
どんな乗り心地か、気になる(筆者撮影)
サーキットの奥に、巨大な建設中の施設(筆者撮影)
「日本ならでは」のコンテンツが集まるダイバーシティ
さて、肝心のイマーシブ・フォート東京だが、入り口と思しきところまで行ったものの、拍子抜けした。ゆりかもめ・青海駅からすぐのところに小さな入り口が1つあり、係員も1人のみ。入っていく人はゼロではなかったものの、にぎわっているというには程遠い状況である。
Googleマップの口コミを見ると、東京ディズニーランド・シーがともに評価が4.6、USJは4.5に対してイマーシブ・フォート東京は4.0。低い数値ではないが、まだまだ伸びしろがありそう(筆者撮影)
訪問したのは週末、土曜日。オープン当初は、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンを“再建”した立役者として知られる刀社が手掛けたとあって多くのメディアが話題にしたものの、なかなか継続的な集客に苦労しているのかもしれない。
一方でにぎわっていたのが、ダイバーシティのフェスティバル広場にあるユニコーンガンダムの等身大像である。日本のロボットアニメにおける代名詞的な存在であるからか、日本人だけでなく、海外から来たと思しき観光客も多く、思い思いの形で写真撮影をしていた。
ロボアニメの代名詞、ガンダム。外国人からも人気のようだ(筆者撮影)
ダイバーシティはその他にも日本らしいコンテンツがそろっているからか、外国人が比較的多いように見受けられた。
例えば東京テレポート駅側の入り口にはドラえもんの像があり、記念撮影できるようになっている。施設内にはドラえもんのショップ「ドラえもん未来デパート」があり、その他にもハローキティや漫画『ONE PIECE』のショップ、さらにドン・キホーテの別業態「キラキラドンキ」などが並んでいる。
ドン・キホーテの別業態「キラキラドンキ」(筆者撮影)
笑ってしまったのが、ドラえもん未来デパートとハローキティのショップの間に「うんこミュージアム」があるという、奇天烈な一角。まったく日本のコンテンツの幅の広さには驚かされる。
加えて、世界で人気の強力なキャラクターに挟まれていながら、最もにぎわっていたのがうんこミュージアムという点は特筆に値するであろう。
うんこミュージアムのショップにあった「うんこ詰め放題」(筆者撮影)
「ザ・日本食」が集まった巨大フードコート
東京グルメスタジアムは、ダイバーシティの2階に位置する。やはりこちらも外国人が多く、かなりにぎわっている。
営業しているのは、有名どころでは「はなまるうどん」に「築地銀だこ」。その他には鉄板焼きやラーメンなど、結構バラエティー豊かである。何となく、外国の目から見た「ザ・日本食」といったラインアップがそろっているように感じる。
親子丼に天丼、さらに「伝説のすた丼屋」と丼が充実しているのも特徴だ。入り口には各店舗のメニューサンプルがあるのも面白い。しかも、必要以上に躍動感のあるサンプルが多い。外国人が多い立地であることを意識して、メニューの写真だけでなく、実物も見せてわかりやすくする工夫だろうか。
本日のフードコート「東京グルメスタジアム」(筆者撮影)
とにかく持ち上げているサンプルが多い(筆者撮影)
中央のチーズナンもすごいし、左下の野菜つけめんはいったいどういう状況なのか(筆者撮影)
訪問したのはランチタイムをゆうに過ぎた午後2時ごろ。それでも約800席という席数が、ほぼ満席の状態で驚かされた。
800席もあるので、席の種類もさまざまである。テーブルにカウンター、キッズスペース。
中には吹き抜けを見上げながら食事できる席や、外にあるガンダム像を眺めながら食事できる特等席もある。
昼時を過ぎても客足が絶えない(筆者撮影)
見上げれば吹き抜け(筆者撮影)
ガンダム席は残念ながら座れず(筆者撮影)
東京の東西を代表する「日本の丼」、すた丼と金子半之助が夢の共演
本日選んだのは、伝説のすた丼屋と、天丼の「金子半之助」。ちょっと外国人の目線になり「日本の歴史ある丼」としてアピールしている2つをチョイスした。また、私にとって慣れ親しんだ丼と、初体験の丼の異色タッグでもある。
東京都民のローカルフード? すた丼(筆者撮影)
日本橋に本店を構える天丼店、金子半之助(筆者撮影)
すた丼は東京の多摩発祥の丼チェーン。都内に多く展開しており、ルーツもあいまって私はかってに都民のソウルフードであり、東京名物だと思っている。かなり強烈なにんにく醤油のたれで豚肉を炒めて、海苔を敷いたご飯に盛った非常に中毒性のある丼である。
一度食べたら必ずハマる、その強烈さ(筆者撮影)
並んでいると、すた丼の列にも外国人が多いことに気付く。土地柄、この辺に住んでいる人もいるだろうが、旅行者っぽい見た目の人が、やはり多い。東京グルメスタジアムには他にもうどんやかつ、さらに海鮮丼といったアイコニックな和食が多いにもかかわらず、インバウンドの注目が集まっているとしたら嬉しい限りである。
一方の金子半之助は、日本橋を拠点としておりすた丼とは好対照だ。こちらでは野菜上天丼を注文した。
金子半之助の由緒(筆者撮影)
東京の東西にルーツを持つ丼を待つ(筆者撮影)
まず到着したのはすた丼。卓に置くとともに非常にパンチ力のあるにんにくの香りが食欲を強く刺激する。通常の店舗より高いフードコート価格のためか、いつもよりアタマの肉が多い気がする。
すた丼、到着(筆者撮影)
ちょこっと乗っかったネギと、肉の下に隠れた海苔が最高のアクセント(筆者撮影)
はやる気持ちを押さえて、天丼を待つ。かなり待つ。揚げ物なのだから仕方ない。15分ほど待ったろうか、ようやくお出ましになった野菜上天丼、かなり具だくさんだ。
野菜といいつつ海老が2本、イカもあるなどかなり充実している(筆者撮影)
東京東西の丼がここに邂逅(筆者撮影)
まずは、すた丼に生卵を落とす。この瞬間がたまらない。そして、せっかくなので天丼の海老を1本、すた丼に載せてみる。フードコートならではの競演といえよう。
月見すた丼(筆者撮影)
すた丼と金子半之助が夢のコラボ(筆者撮影)
それにしてもすた丼のパワーはすさまじい。肉1切れで、茶碗1杯を平らげられるほどのおかずパワーを携えている。あっという間に食べ終わってしまった。天丼も、海苔や卵の天ぷら、さらに大ぶりな舞茸の天ぷらなどを楽しみながら完食。
みなぎるおかずパワー(筆者撮影)
大きな舞茸天(筆者撮影)
日本のコンテンツを楽しめる観光地に
大満足の昼食だったが、唯一の心残りはガンダムをじっくり見ながら食事できなかったこと。腹ごなしに外へ出て、再びゆっくりとユニコーンガンダムを眺める。
(筆者撮影)
先ほど、東京テレポート駅の「テレポート」が、遠くへと情報を届ける機器の接頭辞である「tele」に、港を意味する「port」を組み合わせた造語だと伝えた。その願い通りに、お台場のフードコートは、日本食を訪日客に届ける場所になっていると感じた筆者であった。
【画像】お台場「東京グルメスタジアム」は「ザ・日本食」が集まる場所だった…意外にも?由緒ある歴史を持つお台場の風景と、外国人で賑わうフードコートの様子を見る(30枚)
(鬼頭 勇大 : フリーライター・編集者)