日常をちょっと便利に楽しくしてくれる文房具。さまざまな機能やデザインの文房具が開発されており、子どもから大人まで幅広くファンがいます。そして文房具好きなら知らない人はいないのが、神奈川県の横浜を拠点とする老舗書店「有隣堂」のバイヤー、岡崎弘子さん。先日、好きな文房具を紹介する書籍『有隣堂名物バイヤー岡崎弘子の愛すべき文房具の世界』が発売されたばかり。そこで、昨今のガラスペンブームのきっかけや好きな文房具についてお話を伺いました。

※ 岡崎さんの「崎」は、正しくは「たつさき」です

【画像】有隣堂の「有」のガラスペン

書店に30年以上勤めながら、ほぼ書籍の担当をせず…

岡崎さんは企業YouTubeとしては異例の28万人以上がチャンネル登録する「有隣堂しか知らない世界」に最多登場。毒舌のMCキャラクターR.B.ブッコローとおっとりした岡崎さんとの掛け合いのおもしろさと文房具への熱い思いから、全国にファンが生まれています。

驚くことに、岡崎さんは30年以上も書店に勤めていて、書籍の担当をしたことはほとんどないのだとか!

「もともとは有隣堂で催事のアルバイトをしたのがきっかけで、その後4年ほどエントリースタッフという契約社員を経て、90年に社員になりました。店舗での販売を長くやっていて、だいたい文房具と雑貨の担当でしたね。子どもの頃、家の隣の文房具店に毎日通っていたので、意識はしていませんでしたが文房具はずっと好きだったんだと思います。

1回だけ、ある店舗で急に人文系(哲学、思想、心理、宗教、教育、評論など)の書籍のリーダーをやって、と言われたことがありました。とりあえず初歩的な、人文とはなにかなどを学んだのですが、まったく訳がわからない。そうしたらやっぱり3か月も経たないうちに、もういいよ…となりまして」

YouTube登場でたちまちブレイク!ガラスペンの火つけ役に

文具、雑貨担当として二十数年店舗に勤め、その後、本部でバイヤーに。そして、文房具への知識と愛情から、同社が2020年に始めたYouTubeチャンネルの1回目出演者として登場しました。

記念すべき第1回目「有隣堂しか知らない世界 キムワイプの回」では、有隣堂で扱っていない商品を紹介していたというほど。2回目にガラスペンを取り上げた理由とは?

「YouTubeでなにを取り上げるかの会議に、いろいろ文房具を持って行ったのですが、その中にあったガラスペンにプロデューサーが目をとめました。たぶん今までに見たことがなかったんだと思います。

じつはガラスペンって昔からありまして、明治に日本の風鈴職人の佐々木さんという方がつくったという説もあります。ただ、日本の作家さんの作品はあまりなくて、ベネチアなど海外のガラス工房でつくられたガラスペンがとてもキレイなので、有隣堂でも飾りのように置いていました。でも、売れるのは年に1、2本でした」

当時ガラスペンを紹介する情報はほとんどなく、有隣堂のYouTubeからジワジワと認知度があがり、その年の「文具女子博」でもガラスペンが注目を集めたそう。

「2021年10月に、有隣堂の運営する書籍&雑貨のお店『STORY STORY YOKOHAMA』オープン1周年を記念して、ガラスペンフェアをおこないました。300本近い、選りすぐりのガラスペンを販売しましたが、反響がすごかったですね。

そのあといろんなところでガラスペンフェアをやるようになったり、ガラス工芸家の方もガラスペンをつくるようになったり、今はガラスペンの作家さんもたくさんいらっしゃいます。

店頭にいらっしゃるお客様から、『岡崎さんが紹介していた動画を見てガラスペンが好きになりました』『インク&ガラスペンの沼にハマっています!』とおっしゃっていただくことも多くて、本当に感慨深いです」

岡崎さんが好きな文房具だけを集めた「岡崎百貨店」をオープン

2022年には、「STORY STORY YOKOHAMA」の店内に岡崎さんの好きなものだけを集めた「岡崎百貨店」をオープンしました。「岡崎さんに会いたい」と、イギリスやネパールなど海外からもお客さんが訪れるそうです。

「ガラスペンや私が愛する『ヌンチャク鉛筆』などの文房具や雑貨はもちろん、使ってみて便利だった靴の中敷きやオリジナルのブラウスなども販売しています。

私はアッサムという紅茶が好きなので、その色を再現したインクをつくってもらいました。その紅茶のインクも、元になった紅茶も置いています。

じつは、岡崎百貨店のオープン前日に、スタッフと『なにかまだちょっとたりないね』という話になり、なんとかしなくてはとすごく悩んで、家にあったネコのベッドを抱えて持って行きました。それで棚の上が埋まって、なんだかお店のシンボル的なものになったり。また、私の描いた絵やブッコローを描いた絵、趣味で集めているアンティークなど、いろんなものが並べてあっておもしろいんですけど、非売品の私物を間違えてスタッフが売ってしまうこともあったりして(笑)」

岡崎さんがすすめる文房具はいつも大反響

今まで「TVチャンピオン」(テレビ東京系)の「全国文房具通選手権」に2回出演し、どちらも決勝で敗れたことから、YouTubeでは「文房具王になり損ねた女」という二つ名で呼ばれている岡崎さん。でも、テレビ出演よりも、YouTube「有隣堂しか知らない世界」の影響がとても大きいと言います。

「街で声をかけられることが増えたのはもちろんですが、バイヤーとして商談をするときも『動画見ました、ぜひお話したいですね』と言われることが多くなって、非常にやりやすくなりました。

また、以前は店頭で商品説明をしても、それを買ってくださるお客様は20人に1人くらいだったのですが、岡崎百貨店では『これもいいですよ』とおすすめすると、もれなくカゴに入れてくださるんです。『え、いいの?』と私が戸惑ってしまうくらい。

YouTubeのおかげで、みなさまに私の大好きな文房具の情報をお届けすることができて、自分の好きなものだけを販売するスペースをいただけて、今度は本まで出させていただくことになって、もう『本は売れるだろうか』『イベントでちゃんとしゃべれるだろうか』と、毎日緊張しかありません」

奥深く遊び心にあふれた文房具の世界。好きな文房具を毎日のアクセントに取り入れてみてはいかがでしょうか?