SPECIAL OTHERS 芹澤 "REMI" 優真(Key)、 柳下 "DAYO" 武史(Gt)

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2024年のSPECIAL OTHERSは、彼らのアコースティックプロジェクトである「SPECIAL OTHERS ACOUSTIC」が10周年イヤーとなる。これを記念して、昨年に引き続いて毎月25日を“ニコニコの日”とし、2月25日の「MASK」を皮切りに9ヶ月連続でリリース。10月23日(水)には集大成として、3枚目のアルバムを発売&ツアーの開催も決定している。

今年はSPECIAL OTHERS ACOUSTICとしての活動が中心となるが、SPECIALOTHERSとして恒例の東京/大阪での野音公演も。5月の日比谷公園大音楽堂に続き、6月22日(土)には大阪城音楽堂でワンマンライブがまもなく開催となる。今回SPICEでは、新作についてはもちろん、アコースティックの魅力、そしてSPECIAL OTHERSにとって「野音はホームである」という話を訊いた。

ーー昨年に続いて、毎月25日の“ニコニコの日”に9ヶ月連続のリリースとなります。今年もリリースすることになったのは、昨年の時点ですでに決まっていたのでしょうか?

芹澤:バンドとしてぼんやりと5年間のスケジュールを立てていて。現時点で2035年ぐらいまでは、ぼんやりと決まっているんです。その一環で“ニコニコの日”のリリースはなんとなく決まっていました。

柳下:5年先まで決めたのは、今回が初めてですね。9ヶ月連続のリリースは僕らにとってもスタッフにとっても初めての試みだったので、全員が手探りでやっていました。それが昨年のリリースも前半が終わったぐらいでようやく形になり、全体が見えてきて。その流れで「よし。アコースティックが10周年だし、このまま来年もリリースするのもいいんじゃないか」という話をして、決まりました。

ーー第1弾となる「MASK」は、2021年の野音ツアーにて会場限定で販売していたCD音源ですね。反響はいかがでしたか?

柳下:野音の会場限定盤だったので、今回MVも出してみたところ「スペアザアコースティックが新曲を出した」と思っている方もいたりして。 そういう意味ではより多くの人にようやく届けられる機会になったのかな、という手応えがありました。

芹澤:新曲と思われてラッキーですよね(笑)。

SPECIAL OTHERS ACOUSTIC - Clock Tower(Official Video)

ーー第2弾となる「Clock Tower」は、2023年のアコースティック・ツアーにて来場者に無料配布していたCD音源ですね。雰囲気のある夜景でのMVも印象的でした。

芹澤:さぞお洒落なカフェのような場所を借りて、撮影したんだろうなと思われてるんですけどね。ただただ夜景が綺麗なレーベルのオフィスなんです。

柳澤:たまたまオフィスがリニューアルして綺麗になったんですよね。

芹澤:そこらにあるお洒落と思われる植物をかき集めて、まるでお洒落な空間にしました。

ーーあはは。「MASK」のMVも同じオフィスですよね。第3弾の新曲「Splash」、第4弾の「California」も公開となりました。

芹澤:これはレコーディングスタジオで、レコーディングしたそのままの流れでライブミュージックビデオを撮りました。

ーー昨年の連続リリースとはまた違ってきましたか?

芹澤:取り組み自体はほとんど変わっていなくて。前回はレコーディングしてからMVの撮影までに期間が少し空いていたので、ぎゅっとまとめて撮るようになったぐらいですかね?

柳下:前回のフィードバックを活かして、効率化というかね。レコーディングに関して言えば、去年はエレクトリックでしたが今回はアコースティックなので、収録・撮影の環境がかなり変わりました。というのも、レコーディングしながらMVを撮影する時に、マイクを立てなきゃいけない楽器がどうしても増えてしまうんですね。その分、環境音が入らないようにしないといけなかったり、技術的にも難しくなる苦労があったり。

芹澤:レコーディングの苦労ですね。鼻息・ナイロン問題。

SPECIAL OTHERS ACOUSTIC - Splash(Official Video)

ーー鼻息・ナイロン問題?

芹澤:アコギの繊細な生音をマイクで拾っているんですけど、例えばヤギ(柳下)は鼻息が人より強めなタイプなんですよね。

柳下:鼻腔が狭めなんです。

芹澤:鼻息が入っちゃうから、マスクを2枚重ねにしたり工夫して、呼吸がしづらい状態で一生懸命頑張っていましたね。

柳下:エンジニアに「ティッシュ丸めて、鼻に詰めたらええやん」と言われ、試しにやってみたんですけど苦しくって余計に鼻息が荒くなるという(笑)。

ーーナイロン問題は?

芹澤:俺がナイロン素材の服が好きでよく着ているんですけど、シャカシャカ音が鳴るから「レコーディングには絶対に着てきちゃいけないぞ」と言われたのに、 着て行っちゃったんですよね。

ーーでは、仕方なく現場で着替えて?

芹澤:いえ、脱ぎました。だから今回、レコーディング史上初、パンツ一丁です。あ、上は着ています(笑)。

ーー音源からは想像できない光景(笑)。

芹澤:それぐらいアコースティックは生音がそのまま入る、生身に近いところがエレクトリックと違う部分ですよね。自分の呼吸も如実に反映されるぐらい繊細に音を録音してるという意味では、俺らのパーソナリティもすごく反映されていると思います。なので、よーく聴いてみると俺らが動いてることで鳴ってる音とかも入ってたりするんですよね。そういう隙があるものって面白いじゃないですか? しっかりセパレートした完成された音も特有の気持ち良さはあるんですけど、どこかで隙がある音はそれはそれで人間味があって楽しいんですよね。スーツで髪型もばっちりキメた姿も魅力的だけど、それだけだとやっぱりどこか肩が凝るというか。スウェット姿で髪を下ろした姿も逆にいいねと思える感覚と似ていて、アコースティックで俺らの日常も感じてほしいなと。

柳下:環境音も含めて、楽しんでいただけたら。これから野外で撮ることもあるとすると、どうなっちゃうんだろうね。

芹澤:リリースできないぐらい雑音が入っちゃうから、野外では無理だと言われてるんですけど……それもいいんじゃない?って思っています。

ーーリリースを重ねて、アルバムのリリースもイメージできているんですか?

芹澤:まだ完成していない曲もあるので、なんとなくしかまだ見えてないんですけど……。個人的には以前よりパーソナリティをちゃんと反映できた作品になると思っています。アコースティックにおける自分らしさみたいなものを、ちゃんとソロだったりフレーズに落とし込むことができたような。

柳下:今も自分なりのやり方がちょっとずつ見えてきているところなので、リリースを重ねるごとに一段ずつ上ってる感じはありますね。ほかにも前回にはなかったような仕掛けや企画も考えてたりするので、去年とはまた違った感じになると思います。

ーー“ニコニコの日”に関連して?

柳下:またちょっと違った、サプライズ的な試みですね。

芹澤:大阪と密接な関係があります!

ーーめちゃくちゃ気になります……。SPECIAL OTHERS ACOUSTICで10年、アコースティックをと向き合ってきて、変化したこと、あるいは変わらないことはありますか?

芹澤:変わらないことは、 どう考えても荷物が軽いこと。年齢を重ねれば重ねるほど、荷物が軽いことの重要性がどんどん上がってきてるんですよね。荷物が軽いということは、ライブが良くなるんですよ。人間ってフィジカルが全てを支配してると思うんです。良い精神状態もプレイの良さも。そう考えると、フィジカルって馬鹿にできないんですよ。荷物が軽ければ、ライブは良くなる。それは初期から思い続けていたことですね。

ーー変化した点は?

芹澤:これまでは完成されたものを目指したり、自分の120%を頑張って見せようとすることが多かったんですけど、 アコースティックに関しては、結果的に等身大の自分を見せた方がカッコいいんだということに気づきました。そういう意味では、自分がよく思われようという意識をそぎ落とすことができるプロジェクトですね。

ーー柳下さんはいかがですか?

柳下:エレキギターから始めた僕にとっては、アコースティックギターってハードルが高い楽器のイメージがあるんです。なので、アコギを主軸にしたバンドを始めるとなった時は、正直に言うと怖い部分もあって。音が繊細に伝わっちゃうからこそ、ごまかしても目立って、全部が丸見えになっちゃうような……。だから最初は恐る恐るだったんですけど、最近はその繊細さを逆手にとったり、楽器の持つ表現力を楽しみながらできるようになってきました。

芹澤:楽しみながら、その場で1番いいと思ったことを信じて、無理のないことをやるのが一番なんです。 「こうじゃいけない」とか決まりごとって、マイナスなことが多いじゃないですか? 「これはダメだ」とか「こうしなければならない」とか。さっきのナイロンや鼻息の話じゃないけど、人間って間違える生き物だから、間違いもどれだけ面白がることができるのか、修正しながらみんなで笑顔で進んでいけるかが大事だと思うんです。世の中もそうなったらいいなとおもっているので、まずは自分たちでその姿を見せているようなところもあります。演奏中にミスしても、頑張った結果だからってさらけ出していきたいですよね。

柳下:失敗しないことを前提にしちゃうと、特に我々インストバンドはセッションも多いから面白くなくなっちゃうと思うんですよね。失敗しないように、安全なことしかできなくなる。そうすると退屈なので、どこかでレッドゾーンを超えるか超えないかの核心のないギリギリを攻めたくって。そういう攻めぎ合いを、ライブの間に何度か入れないと締まりがなくなるので、絶対に不可欠な要素かなと。

ーーセッションでは、特に柳下さんがギリギリのところを攻めまくって、めちゃめちゃいいプレイをする、と以前のインタビューで芹澤さんが仰っていましたね。

柳下:そういうこともあるかもしれないですね。

芹澤:「そういうこともある」じゃなくて、「多々ある」んです。

柳下:そうなった時の回収は他のメンバーに任せて、自分はとりあえず行けるとこまで行っちゃうようにしてます。「じゃ、あとはよろしくお願いします!」って。何十年の関係性だから信頼関係もありますからね。

芹澤:ヤギがそうやって無責任に暴発するのを、実は俺が一番期待しているんですよね。逆にそういう瞬間がない時に、「ヤギ、いかねえのかよ」って思ってるぐらい。最終的に落としどころをつけるのがすげえ大変なんだけど、 やってくれよと期待している暴発ファンのひとりなんです。

ーーだからこそ、セッションでけしかけているところも。

芹澤:ありますね。

柳下:「いけ!」と言われてる気がすると、どうなるかわからないけどチャレンジしないとって思うんですよね。チャレンジするのって年齢を重ねるごとに怖くなると思うんですけど、そこを乗り越えていけたら楽しい世界があるのを知っているし、人前に立ってる以上はそういう瞬間をお見せしたいなという思いもありますから。

ーー“ニコニコの日”でリリースが続く新曲にも期待しつつ、セッションも見どころですね……! 5月の日比谷公園大音楽堂に続き、6月22日(土)には大阪城音楽堂でワンマンライブが開催となります。野音でのイベントをずっと続けられていますが、やはりバンドにとっても特別な場所ですか?

芹澤:そうですね、野音はやっぱりホームなので。俺たちが19歳、20歳の時に『フジロック』とかフェスで受けた洗礼を形にしてきたのが今の楽曲だから、どこか野外仕様になってたり、野外で踊る音楽になってるところがあるんです。だから、野音に、野外に育てられたともいえるので、ホームグラウンドへ招き入れるような感じですね。そういう場所を、大阪にも作れていることが幸せだし、できる限り続けていきたいなと思っています。それに、大阪の人ってなんか野外が好きな気がするんですよね。外で座って飲んでる人の数が、関東より圧倒的に多いじゃないですか? こないだ難波駅の前の広場で、すごい数の人が座って飲んでいるのを見た時に「大阪っていいとこだな」って思いましたもん(笑)。

ーー野外でSPECIAL OTHERSとお酒は最高の組み合わせですね!

芹澤:当日は、俺らと大阪のブルワリー・Derailleur Brew Worksが共同開発したクラフトビール「Bed of the Moon」も飲めるので。

柳下:6月後半の程よい気候に、ビールは最高だと思います。

ーーさっきの音と環境のお話にも繋がると思うんすけど、曲をイメージして作られたクラフトビールを、実際にライブを聴きながら味わえるというのは、すごいグルーヴが生まれる特別な体験になりそうですね!

芹澤:そのビールの味を感じてから曲を聴けば「この味はこういう音なんだ」って思うだろうし、曲を聴いてからビールを飲むと「この音はこういう味を イメージさせるんだ」みたいな相互効果があって面白いと思いまっす。

柳下:味覚と聴覚がリンクすることがあるんだっていう。

芹澤:ビールとのコラボがこんなに楽しいんだってことがわかったので、これから各会場でいろいろなブルワリーさんとビールを作ってみたいなと思ったり。将来的には、いろんなクラフトビールが飲めるようなツアーもできたらいいなという話もしてます。

ーーそれはとても楽しみですね……!まずは、今回の野音で味わってみなければですね。お酒は飲めませんが……今回は、二十歳以下が無料で遊びに来れるというのもすごい取り組みですね。これはどういった経緯で?

芹澤:「20歳以下、無料にして大丈夫なの?」という話をちらほら聞くんですけど、絶対に大丈夫だという確信があったんです。それは、各地でライブ中に「10代の人?」ってアンケートをとっても2、3人ぐらいが上限なんですよね。やっぱり俺らと近い世代の30代から40代が多いから、「20歳以下無料」にすれば来てくれるかなと思って、導入しました。

ーー「20歳以下」なので20歳もOKということで、ぜひ参加してほしいですね!

柳下:これを機に、こういう楽しい空間があるんだって、思ってもらえたらうれしいですね。最近はサブスクでほとんど無料の感覚で音楽を聴けたりしますけど、やっぱりライブが一番楽しめる場所なので。その魅力をを伝えたいなと思います。

取材・文=SPICE編集部(大西健斗) 撮影=Hoshina Ogawa