アメリカ軍からの攻撃を受け沈没する重巡洋艦「三隈」(写真・ullstein bild/時事通信フォト)

旧日本軍のミッドウェー海戦での敗北は、太平洋戦争の転換点であった。1942年6月5日、主力空母4隻の喪失により日本の快進撃は停止した。以降、日米はマリアナ沖海戦まで膠着状態の中での消耗戦に陥るのである。

敗因は今なお議論されている。日本の情報秘匿が失敗したことを筆頭に、作戦目標が不明瞭だったこと、再攻撃実施や兵装転換といった指揮官の判断が失敗だったこと。

さらには空母のカタパルト故障による偵察機発進の遅れや上空警戒の油断といった事故に至るまでの問題が挙げられている。

しかし、実は敗因は、簡潔に「戦力の集中運用の原則に背いたため」で説明できるのではないか。日本海軍は主力となる空母を4隻と2隻に分けて使用した。それが真の敗因ではないか。

集中運用で敗北要素はなくなる

なぜなら戦力の集中運用により敗北要素は消滅するからだ。第1に日本の先制攻撃と成功の見込みが立つ。第2に日本の防御戦闘も有利になる。第3に日本側反撃も強力となる。さらにつけ加えれば、そもそもアメリカはは決戦を挑めなくなるのである。

戦力の集中運用の原則とは「戦力は1つにまとめて使う」ということである。そうすれば最大限の効果を得られる。数倍の戦力で敵に当たれば圧倒できる。

逆に劣勢でも、数をまとめれば容易には圧倒されなくなる。だから陸海空軍とも戦力運用では努めて集中運用を図っている。

しかし、ミッドウェー海戦では日本は逆に分散を尽くした。肝腎の艦隊を3つに分けてしまっている。

まずミッドウェー方面部隊と同時攻略を計画したアリューシャン方面部隊を作り、さらにミッドウェー方面艦隊も空母部隊と戦艦部隊を分けた形だ。

ミッドウェー方面艦隊のうちの空母部隊は、いわゆる「南雲艦隊」であり、戦艦部隊は「主力部隊」のことである。アリューシャン攻略部隊は「北方部隊」である。

最重要戦力の空母も南雲艦隊4隻と北方部隊2隻にしている。加えて主力部隊に旧式空母「鳳翔」1隻、上陸船団の護衛に軽空母「瑞鳳」1隻を割いている。

航空機や水上艦も同様である。南雲艦隊と北方部隊で空母艦載機を263機と75機に、水上偵察機は17機と11機に、戦艦と巡洋艦、駆逐艦は16隻と19隻に分けた形である。

日本は先制撃破に成功する

この戦力分散が最大の敗因ではないだろうか。なぜなら原則どおりに戦力の集中運用を図れば他の敗因はすべて霧消するためだ。

敗因として挙げられる暗号解読ほかにより情報秘匿に失敗しても、作戦目的について不明瞭なままとしても、それ以外の失敗や事故が起きても日本は勝ててしまうからである。

これは実戦例との比較で明瞭となる。南雲艦隊に空母以下の戦力を集中したうえでミッドウェーを攻略すればどうなるのか。北方部隊も編入して空母6隻、艦載機338機、水上偵察機28機、戦艦、巡洋艦、駆逐艦35隻を投入する。そのうえで、ミッドウェー海戦と全く同じ事象が発生すればどうなるか。
 
第1に米空母の先制撃破が可能となる。集中運用による戦力増強で索敵とミッドウェー島攻撃は成功するからである。その場合、アメリカの空母はおそらく3隻とも沈む。

はじめに、索敵成功により現地時刻で午前6時頃には米空母を発見する。実戦例では南雲艦隊は7機しか索敵機を出さなかった。そのために米空母を見落とした。それが集中運用で改善する。

索敵で使用した水上偵察機は17機から28機に、偵察兼任の艦上攻撃機も93機から113機に増える。捜索線は実戦例の7機7線から最大14機14線程度まで、そこまでいかずとも10機10線までは増えるだろう。

敗因の1つである索敵失敗はなくなるのである。「筑摩」1号機の雲上通過と「利根」4号機の30分の発艦遅延と位置誤認は問題とはならない。別の偵察機が米空母を発見するからである。

また、ミッドウェー島への航空攻撃も成功する。有名な友永隊は実戦例では108機であった。これは南雲艦隊263機中の41%に相当する。

それが集中運用で合計338機となった場合、同じ41%を出せば139機となる。飛行場攻撃は充実し、滑走路破壊は実戦例の不充分から破壊確実となる。

結果、同じく敗因とされる第2次攻撃隊と兵装転換の誤判断も消滅する。当初、日本艦隊はアメリカ艦隊出現に備えており、空母で待機中の艦載機には軍艦攻撃用の魚雷を搭載していた。

その状態の中で友永隊から「ミッドウェー攻撃は不充分に終わった。第2次攻撃が必要である」との報告があり、艦隊指揮官は7時15分に魚雷から陸上攻撃用の爆弾につけかえる命令を出した。

しかし、その30分後の7時45分に「利根」4号機から「アメリカ艦隊発見」の報告を受けて魚雷に戻す命令を出した。その混乱はなくなるのである。

なによりも米空母への先制攻撃が可能となる。索敵が予定通りに進み、そこで米空母を発見したとしよう。それであれば日本艦隊は即座に攻撃部隊を発艦させる。

また、索敵に失敗しても滑走路破壊が成功すれば兵装転換の混乱は生じない。滑走路破壊前に発進したミッドウェー島航空部隊の空襲が7時頃から始まるものの熾烈ではない。

その合間に攻撃部隊は発艦できる。実戦例のように空襲下の兵装転換が10時30分になっても終わらず攻撃部隊を出せないままの事態は生じない。

防衛にも成功する

先制撃破は間違いない。米空母攻撃部隊の規模も増大するからである。集中運用により艦上待機中の航空機は実戦例の103機から130機以上に増える。

艦上攻撃機43機、艦上爆撃機36機、艦上戦闘機24機から、北方部隊の「隼鷹」と「龍驤」の艦攻と艦爆の半分にあたる9機と8機、艦戦12機を足した132機となる。当時の海軍航空隊なら米空母3隻すべて撃破できる。

第2に、日本側防衛も成功する。米空母の先制撃破に失敗しても、その後のアメリカ軍の空母航空部隊の攻撃に耐えきるからである。これも集中運用がもたらす効果である。

最初に防空戦が有利となる。空母2隻の追加により艦隊の戦闘機数は実戦例の82機から118機まで増える。

迎撃に参加する戦闘機数も実戦例の34機超から単純計算で48機超まで増加する。ちなみに、北方部隊の艦上戦闘機もすべてゼロ戦である。

水上艦の増勢もそれなりの効果を生む。北方部隊をすべて編入した場合、南雲艦隊の水上艦数は実戦例の17隻から35隻になる。

有効な対空射撃能力を持つ戦艦と重巡洋艦の数は4隻から7隻に増える。当時の軽巡洋艦と駆逐艦には対空戦はあまり期待できないが、それでも対空監視は充実する。

敗因のうちの対空警戒不充分も解消する。実戦例では10時20分と17時01分にあったアメリカの急降下爆撃機を2回とも見逃したため日本空母は全滅した。

前者がいわゆる「運命の5分間」である。それが戦闘機数増加と水上艦増勢で改善する。発見と迎撃の見込みが立つのである。

次に損害も限定的となる。空母の数が4隻から6隻に増えれば、実戦例どおり最初の急降下爆撃で日本空母3隻撃破となっても3隻残る。

以降にも上空で警戒迎撃にあたる戦闘機数は「飛龍」1隻ぶんから、生き残った空母3隻ぶんに増える。それにより2回目の急降下爆撃の迎撃阻止は容易になるうえ、仮に1隻沈んでも、なお2隻は残る。

爆弾被害が小被害で済むかもしれない。日本空母の数が増えればアメリカ機の目標も分散する。最初の急降下爆撃では39機が空母3隻を狙い命中10発、2回目の攻撃では40機が残る1隻を狙い命中4発を得ている。

その目標となる空母数が増えると1隻あたりの投弾数は減る。少数投下であれば命中なし、あるいは1発命中で切り抜る空母が出るかもしれない。

最後に鎮火や曳航の実現性も高まる。実戦例よりも水上艦の数が増えれば、空母への防火隊派遣の余地も出てくる。それで火災が鎮火すれば空母は本土まで曳航できる。味方魚雷処分による全損回避もありえる。

反撃にも成功する

第3に反撃も成功する。仮に、米空母による先制攻撃を受けても日本側は反撃で3隻撃沈破に追い込める。

集中運用により最初の急降下爆撃を切り抜ける空母は増える。これは第2として述べたとおりである。実戦例では4隻中3隻が撃破され「飛龍」1隻だけが残った。それに当てはめると生存空母は3隻に増える。

結果、反撃規模も拡大する。10時58分に発艦した第1次反撃は、実戦例では「飛龍」に搭載した艦爆18機、艦戦6機の24機の小林隊である。それが3隻分に増える。どの空母が生き残るか次第だが、艦爆数は2〜3倍に、護衛の艦戦は3倍に増える。

アメリカの空母「ヨークタウン」撃沈は確実になる。日本側が発見した唯一の空母であり全力攻撃をしかけるからだ。

仮に艦爆18機が倍の36機となった場合、攻撃実施数は実戦例の8機から16機あるいは26機に増える。単純に投弾機が8機を倍にすれば16機、米艦隊の迎撃阻止数10機を基にすれば残る26機が投弾する。爆弾命中数は実戦例の3発から6発ないし10発に増える。

第2次反撃も充実する。実戦例では13時31分に魚雷搭載が完了した艦攻10機と護衛の艦戦6機編成の友永隊が発艦する。それも空母3隻分になる。

ただ「ヨークタウン」撃沈後であり、実戦例でも米空母「エンタープライズ」「ホーネット」の2隻は18時10分まで未発見である。攻撃は2隻の空母発見以降となるため当日には実施できるかはわからない。

いずれにせよ、以降の戦いは日本有利となる。空母数は日本3隻、アメリカ2隻である。しかもその頃には米空母艦載機は消耗している。

日本防空戦力の充実から230機中で140機は喪失しているだろう。これは実戦例における海戦終了時の数字である。

残る米空母2隻もおそらくは沈む。アメリカ海軍からすれば撤退時期だが、脱出は難しい。まずアメリカの航空戦力は弱体化している。

また、日本は戦艦部隊に「鳳翔」、上陸船団に「瑞鳳」の2空母があり、別に水上機23機を搭載した水上機母艦「千歳」も無傷だ。そして、戦艦11隻以下による水上戦や上陸戦支援の選択肢も残っている。それからすれば日本海軍も追撃は緩めないからである。

アメリカはそもそも決戦を挑めない

日本は戦力集中の原則に背いたために敗北したのである。逆に戦力を集中運用すれば、敗北は回避できた。情報漏洩や作戦目的が誤っていても、兵装転換のように指揮官判断で失敗しても、偵察機遅延や上空警戒の油断の事故があっても勝利できた。

そもそもアメリカ海軍は決戦は挑めなくなる。日米空母数比は実戦例の4隻対3隻から6隻対3隻に悪化するうえ、うち1隻は修理不充分の「ヨークタウン」である。勝ち目は見えない。

そして負ければ東太平洋も危うくなる。決戦で敗北すれば、空母数の比率はさらに悪化する。そうなるとアメリカ海軍は日本海軍を掣肘できなくなる。日本艦隊は西海岸の沖合に出現しかねなくなる。

それよりも空母3隻の温存を優先する。その存在感で日本艦隊に東太平洋への侵入をためらわせて西海岸のアメリカの制海権を保持する。加えて日本軍外縁部への一撃離脱の繰り返しで日本側の攻勢を押し止める。そのような開戦以来の戦略を継続するだろう。

(文谷 数重 : 軍事ライター)