陸上自衛隊の最新自動小銃「20式5.56仂銃」。豊和工業が今年度までに計2万8000丁ほどを納入するが、部品の多くは輸入品。円安はコストに影響する

写真拡大 (全8枚)


陸上自衛隊の最新自動小銃「20式5.56仂銃」。豊和工業が今年度までに計2万8000丁ほどを納入するが、部品の多くは輸入品。円安はコストに影響する
アメリカ兵器の価格がインフレで爆上がり【異次元円安、大変であります!】

日本の防衛費増額は岸田政権の肝いり政策で、2023年度から27年度までの5年間の予算総額は43兆円。これは過去最大の数字だ。

ところが、その使い道として想定されていた兵器・装備の調達計画が、円安の進行で大きく狂いつつある。今となってはひどく大甘な想定だったといわれても仕方ないが、24年度からの4年分の兵器調達計画は、なんと「1ドル108円」で計算されているからだ(108円は22年度の政府公式レート。ちなみに23年度の調達計画だけは1ドル137円で計算されていた)。

さらに、悪いことは重なる。日本が多くの主力兵器を輸入しているアメリカでは近年、強烈なインフレが進行しており、米軍が自国産兵器を調達する際のドルベースの価格も高騰しているのだ。

【写真】前回調達時の3.7倍になった救難飛行艇

航空評論家の嶋田久典氏が解説する。

「例えば、間もなくウクライナに供与される戦闘機『F−16』の米空軍価格は、最新のV型で現在1機当たり3500万ドル(約54億円)。バージョンが違うとはいえ、1990年と比べると2.5倍です。また造船所の工員不足や資材高も深刻で、最新の原子力空母『ジェラルド・R・フォード』の建造費は130億ドル(約2兆円)に達しました」

このベース価格の高騰と円安のダブルパンチは強力だ。日本の24年度(今年度)の防衛予算は約8兆円で、そのうち「装備品等購入費」は1兆7262億円。この予算内で買おうとしていた兵器の調達計画は、どのように影響を受けるのだろうか?

例えば現在、航空自衛隊が順次配備中の最新鋭ステルス戦闘機「F−35」について、嶋田氏はこう言う。


空自が毎年少しずつ配備しているステルス戦闘機F-35。航空機メーカーのロッキード・マーティン社から米空軍が調達する価格に、だいたい2割ほどが上乗せされて日本に輸出されるようだ
「18年末に策定された中期防衛力整備計画では、F−35を計147機購入するとし、1ドル108円レートで1機116億円という購入価格を想定していました。それが今年度予算では、8機購入するのに1120億円、1機当たり140億円(1ドル137円計算)となっています。この時点で大幅な上振れですが、もし実際の購入レートが1ドル160円まで上がるとすると、1機160億円前後となり、予算の枠内では7機しか買えなくなってしまいます。

ただし、戦闘機は単独ではなく飛行隊単位で運用するため、機数は予定どおりそろえなければなりません。つまり予算をオーバーする分、どこかほかの装備を削るしかないということです」

また、岸田政権が力を注いでいる「スタンドオフ防衛能力の強化」、つまり長射程ミサイルの調達計画も影響を受ける。嶋田氏が続ける。

「戦闘機に搭載する長射程の空対地ミサイル『JASSM(ジャズム)−ER(イーアール)』は、1億400万ドルで最大50発を日本に売却することを米側が昨年8月に承認しました。ただ、当時の想定レートが1ドル140円前後だとすると、もし1ドル160円になったら44発ほどしか買えません。とはいえ、空自の戦闘機F−15Jはすでにこのミサイルを積むための改修を始めており、今さらキャンセルも不可能です。

また海上自衛隊でも、イージス艦に搭載する巡航ミサイル『トマホーク』を2541億円で最大400発導入するとの発表が今年1月にありました。アメリカとの下交渉時のレートが1ドル150円前後とすると、実際の購入時に1ドル160円まで上がっていれば最大375発前後しか買えない計算になります」

トマホークは海自のイージス艦に分散して配備されるため、全体の調達数が減れば当然、1隻当たりの配備数を減らすか、あるいは全艦への配備という計画を諦める(遅らせる)しかない。


米レイセオン社製の巡航ミサイル「トマホーク」。輸出時はシステム改修費や教育費なども加算され、米軍調達金額のほぼ2倍の値づけになるようだ(U.S.Navy/パブリックドメイン)
陸上自衛隊にも心配な兵器がある。例えば、敵の装甲車両や陣地を攻撃する軽量の歩兵砲「84侈吉親伊ぁ淵ールグスタフM3)」。

「昨年10月、日本は325門を35億7000万円、1門当たり約1100万円でスウェーデンに発注しました。スウェーデンの通貨クローナは米ドルと連動するため、1ドル160円になれば1門1250万円。総予算が変わらなければ285門に減る計算です。

しかし、84侈吉親伊い賄舫戞覆箸Δ靴隋頬姫劼鮹瓦水陸機動団に優先配備される兵器で、数をそろえておかなければ中国軍が水陸両用歩兵戦闘車などで島嶼部に攻めてきたときに抵抗できません」(嶋田氏)


島嶼防衛の切り札部隊である陸自・水陸機動団に優先配備されるスウェーデン製の無反動砲、カールグスタフM3(MKFI/パブリックドメイン)
また、特に陸自では、官給品では足りない身の回りの装備を自衛官が私物で補っているケースが多々ある。陸戦装備に詳しい『SATマガジン』編集長の浅香(あさか)昌宏氏はこう語る。

「私費購入が多いのは迷彩の作業着、雑嚢(ざつのう・肩かけカバン)、腰から提げるダンプポーチ、タクティカルベスト、手袋、ブーツ、アイウエア(サングラス)といったところ。その中で比較的値が張り、かつ輸入品が主なのはブーツですね。

例えばロングセラーの米BATES(ベイツ)社のアンクル丈サイドジップブーツは、08年に1万9000円だったのが、現在2万7000円まで値上がりしています。それでもミリタリーショップでは在庫切れが続出しており、入荷時期未定の品が多いですが」

ブーツくらいなんとか支給してあげてほしい......。


ミリタリーショップなどで輸入品のブーツを私費購入し、作業などに使う陸自隊員は多い。もちろん値上がりしてます(写真は米BATES社の「DELTA-8」、同社HPより)
■ミサイル防衛の要となる巨大艦はいくらに?

また、実は国産の兵器もこの話題と無関係ではない。理由は主にふたつ。

ひとつは、前述した戦闘機など大型輸入兵器の価格高騰で予算が圧迫される分、国産品の調達計画にもしわ寄せがいくこと。実際、すでに輸送ヘリなどが調達数削減の憂き目に遭っている。

もうひとつは、国産といっても部品を輸入しているものが多く、円安や世界的インフレの影響を受けることだ。

新明和工業は4月25日、無人飛行艇の開発に乗り出すことを発表した。これだけ聞くと景気のいいニュースだが、同社にはのっぴきならない事情もあった。防衛関係業界誌の記者が解説する。

「新明和は2000年代から海上自衛隊に有人の救難飛行艇『US−2』を順次納入してきました。しかし、ここにきて円安や部材高などにより1機当たりの単価が前回調達時の3.7倍(700億円)にまで高騰。そのため防衛省は24、25年度のUS−2の調達を見送ることになりました。

一般の工業製品とは違って、ほかに売り先のない防衛装備品の場合、こうした国の方針転換はメーカーにとって致命傷になりかねない。新明和としてはUS−2の先行きが不透明になったことで、やむなく無人飛行艇の開発へかじを切ったという側面もあるのでしょう」


新明和工業の救難飛行艇US-2は部材高などで製造コストが膨らみ、価格が前回調達時の3.7倍に。防衛省が調達を凍結する事態となり、同社は無人飛行艇の開発へとシフト
似たような構造の話はほかにもある。前出の浅香氏はこう言う。

「陸自の『20式5.56仂銃』は豊和工業が製造していますが、構成されるパーツ(アッセンブリー)の多くは輸入品。導入初年度に1丁約27万円だった陸自の導入価格は、24年度には1丁約43万円まで上がりましたが、それでも円安・部材高の進行でコスト増にはとても苦労しているようです」

さらに言えば、自衛隊の日々の活動に必要な諸経費も影響を受けている。民間企業と違って年度内予算がガッチリ決まってしまっているため、急速に円安が進行した場合、例えば燃料費の高騰で部隊演習の規模を縮小せざるをえなくなるケースも出てくるかもしれない。

そして最後にもうひとつ、価格高騰が懸念される"大物兵器"について触れておく。陸上配備型の弾道ミサイル迎撃システム「イージス・アショア」の配備中止に伴い、新たに建造されることが決まっている海自の「イージス・システム搭載艦」(以下、新型イージス艦)だ。


イージス・システム搭載艦は、そもそもイージス・アショアの配備が頓挫したことで立ち上がった計画。軽空母「いずも型」を超える海自最大の水上艦となる見込み(防衛省資料より)
新型イージス艦には、イージス・アショアで使うはずだったロッキード・マーティン社の「SPY(スパイ)−7レーダー」をそのまま搭載。さらに新型の迎撃ミサイル「SM−3ブロックIIA」や「SM−6」、そして前述の巡航ミサイル「トマホーク」をVLS(垂直発射装置)にてんこ盛りに詰め込む計画で、基準排水量は現在海自最大の水上艦である軽空母「いずも型」を超える。

「一例として、1990年代に4隻建造された『こんごう』型護衛艦の建造費1223億円のうち、米側に払ったイージス・システムなどの費用は3分の2にも上ります。2隻建造される予定の新型イージス艦は、計画が立ち上がった3年前には1隻約2500億円と見積もられていましたが、昨年末時点では想定が3920億円まで上昇。高性能な新型レーダーやミサイルをフルスペックで装備するだけに、アメリカのインフレと円安次第で、実際いくらになるかはまだわかりません。

財務省はすでに、『SPY−7レーダーをイージス艦に搭載するという世界初の試み』に伴い、『イージス・システムの開発・維持費は新規コストや予見できないリスクへの対応コストが発生する可能性』があると指摘しています」(前出・嶋田氏)

この新型イージス艦は、北朝鮮や中国のミサイルの脅威に対応する要になってもらうはずの存在。果たしてどうなるのか......。

取材・文/世良光弘 写真/航空自衛隊、海上自衛隊時事通信