「視力回復トレーニング」に意味はあるのか?
視力の悪い人にとって、目を手のひらで押して圧力をかけたり、目をぐるぐる動かしたり、あえて度の合わないメガネで文字を読んだりすることで視力が回復すると主張する「視力回復トレーニング」は魅力的に思えます。ところが、マサチューセッツ大学チャン・メディカルスクールの眼科学准教授であるベンジャミン・ボッツフォード氏が、「視力回復トレーニングに科学的な根拠はない」と解説しています。
https://theconversation.com/eye-exercises-to-improve-sight-is-there-any-science-behind-them-an-ophthalmologist-explains-why-you-shouldnt-buy-the-hype-217655
◆視力回復トレーニングの効果
インターネットでは「目のツボを押す」「眼球をぐるぐる回す」「度の合わないメガネで文字を読む」など、さまざまな視力回復トレーニングの方法が紹介されています。しかしボッツフォード氏は、「眼科の教授として、そして数千人もの患者を診てきた眼科医として、これらのエクササイズがメガネの必要性を排除したり、長期的に大きな利益をもたらしたりするという強力な証拠を示す研究はなかったと断言できます。視力回復トレーニングに科学的な裏付けはないのです」と述べています。
科学的なエビデンスが欠如しているのは、近くのものは鮮明に見えるが遠くのものはぼやけて見える近視や、逆に遠くのものが鮮明に見えるのに近くのものがぼやける遠視を含む、事実上すべての目の状態や疾患に当てはまるとのこと。
また、近くのものに目の焦点が合いにくくなる老眼でも同様に、視力回復トレーニングの効果はないとボッツフォード氏は指摘しています。老眼は近視や遠視とは異なり、加齢と共に目のレンズの役割を果たす水晶体が硬くなり、細かい文字や小さな文字に焦点が合いにくくなるというものです。中には視力回復トレーニングが老眼鏡の必要性を軽減するという主張もありますが、そのエビデンスは限られています。
◆子どもの視力を守るためにできること
成人の視力回復トレーニングには科学的な裏付けがありませんが、発達途上の子どもの視力を守るためにできることはいくつかあります。日本などの国々ではすべての子どもに対し、定期的に視力検査を行って目の健康状態を測定しており、問題がある場合はメガネの着用を推奨しています。この際、視力の問題に対処しなかったり、メガネが必要な子どもがメガネを与えられなかったりすると、視力の問題や弱視につながる可能性があります。
子どもにおいて特に問題になるのが近視ですが、近視の進行はスマートフォンやPCを何時間も使い続けるのを避ければ遅らせることが可能です。屋外で過ごす時間が長い子どもは近視になりにくいという研究結果も報告されており、画面の見過ぎは視力にとって良くないといえます。
長時間スクリーンを見続けると眼精疲労や目の乾燥を引き起こす可能性があるため、ボッツフォード氏は「20-20-20ルール」に従って休息を入れることを推奨しています。「20-20-20ルール」とは、「スクリーンを見続ける時間20分ごとに20秒の休憩を取り、デバイスから20フィート(約6m)離れた場所を眺める」というもの。これにより、適度に目を休ませて視力を守ることが可能です。また、目をリラックスさせてまばたきをすることに集中したり、ドラッグストアなどで購入できる人工涙液を使ったりすることも、ドライアイを予防するために役立つとのこと。
◆ブルーライトカットメガネやサプリメント
近年はブルーライトカットメガネが人気を集めており、広告ではPCやスマートフォンのディスプレイから発せられるブルーライトをカットすることで、頭痛や眼精疲労を防ぎ睡眠を改善するとうたっています。しかし、大規模なランダム化比較試験を含むいくつかの研究では、ブルーライトカットメガネでは眼精疲労の症状が変化することはないことが示されており、概日リズムの改善に関する証拠も限定的だとのこと。
他にもボッツフォード氏は、あらゆる眼疾患の万能薬であると主張するサプリメントや自然療法にも注意が必要だと指摘しています。「これらの主張は厳密な科学的証拠に裏付けられておらず、視力を改善したり、飛蚊症を緩和したり、メガネの必要性を排除したりする証拠はありません」とボッツフォード氏は述べています。
ある研究では、市販のビタミン剤であるAREDS2サプリメントを服用した一部の患者で、中等度の加齢黄斑変性症の進行が遅くなったことが示されました。しかし、このサプリメントは加齢黄斑変性症の初期段階あるいは病気の兆候がない患者には効果を示さなかったとのことです。
◆目の健康に役立つ行動
眼球の状態によっては何らかの視覚療法が推奨される場合があるものの、その場合は眼科医が治療するのが最善であり、家庭でトレーニングすればメガネが必要なくなるといったものではありません。
ボッツフォード氏は全体的な目の健康のために言えることとして、「野菜やその他の健康食品が豊富な食事は、いくつかの眼疾患の発生率低下に役立つ可能性があります。また、運動が緑内障や加齢黄斑変性症の発症リスク低下と関連していることも研究で示されています」と述べています。
また、目の健康を守るためには「目をこすらないようにする」「寝る前にまぶたや目の周辺のメイクを落とす」「コンタクトレンズを装着したまま寝ない」「禁煙するかできるだけ喫煙を避ける」といったことが重要だとボッツフォード氏はアドバイスしました。
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