(漫画:筆者作成)

部下を育てるのも上司の仕事の1つですが、なかなか任せられない人も少なくありません。なぜそうなってしまうのでしょうか。著書に『多分そいつ、今ごろパフェとか食ってるよ。』などがある漫画家・イラストレーター・グラフィックデザイナーのJamさんが、自身の経験を基に解説します。

「自分でやったほうが早い」は言い訳


(漫画:筆者作成)

部下に仕事を任せられない上司に欠けているものは、一言で言うと、「覚悟」かもしれません。なぜ仕事を任せられないのか?

理由として多く挙げられるのが、「教える時間がもったいない」「自分でやったほうが早い」「ミスをされると面倒」「部下が頼りない」などです。でも、これらの理由はすべて、自分がちゃんと上司としての職務を果たし、部下を育ててこなかった結果の言い訳です。

確かに、経験豊かなメンバーにだけ仕事を振り、大事な仕事は自分がやってしまえば、失敗するリスクは低いし、仕事を教えるために時間を削られこともありません。しかし、長い目で見れば、部下が成長しないことには、いずれシワ寄せがきます。

部下に任せられたはずの仕事まで抱えることになって、管理者としての業務に支障をきたすほか、仕事を任せてもらえなかった部下もモチベーションがどんどん下がり、それによってチーム全体の士気が下がり、場合によってはやりがいを求めて、早期退職にもつながるでしょう。

人材が育たず若手が辞めていけば、会社にとってはマイナスでしかありません。部下を育てられない上司は、社内での評価も下がっていきます。必要なのは、未熟な部下がミスをしたときに、失敗の責任を負う「覚悟」です。はじめのうちは教えることにストレスを感じたり、部下の失敗にイライラしたりすることもあるかもしれません。

でも、長期的な視点で考えれば、部下が育つことで自分の負担も減り、本来の業務に専念することができます。信頼関係を築くことでチームの士気も高まり、業績にもつながっていくでしょう。

「部下が頼りないから、まだこの仕事を任せられない」と言い続けている上司は、もう一度自分の覚悟を見直してみてはどうでしょう? 今を変えれば、数年後の結果も変わってくると思います。

「理想的な上司」はどんな上司?


(漫画:筆者作成)

理想的な上司とはどんな上司でしょうか? 大きく分けて、会社には「怒る上司」「怒らない上司」「怒れない上司」の3つのタイプがいます。今どきは怒らない上司が増えてきましたが、果たしてそれが本当に理想的な上司と言えるのでしょうか?

まず「怒る」ことについて。これが理想的な上司かダメな上司かの明暗を分ける境界だと思います。「怒る」というのは、感情をコントロールできずに相手に怒りをぶつける行為です。怒ったほうはスッキリとしますが、怒られたほうは傷ついたり、恨んだり、怯えたりします。

何をしても怒られてばかりいると、新しい何かに挑戦したり、自分の意思で行動したりすることは損だと考え、言われたことしかできなくなります。結果として、怒られた部下は成長できないし、モチベーションもどんどん下がっていきます。そういう意味では「怒る上司」はダメな上司だと言えます。

しかし、会社に利益を生み、状況を改善するためであるなら、厳しい言葉も必要なときがあります。その厳しさは、「怒る」ではなく、「叱る」であるべきなのです。

「叱る」と「怒る」の違い

人生を振り返ったとき、意味もなく怒ってばかりいた人に感謝の念を抱くでしょうか? しかし、自分のために嫌われるリスクを取って、真剣に叱ってくれた人のことは、後になって感謝することがありませんか?

「叱る」には、相手のためを思って改善する方法を考え、相手の心に届くように伝えなくてはなりません。「叱る」と「怒る」はぜんぜん違うのです。だから、正しく「叱る」ことができる上司は、信頼関係を築ける良い上司なのです。

そういう意味では、「叱る」ことができて「怒らない上司」は理想的だと言えます。相手を威圧することなく諭したり、改善するための行動を指示したりするには、部下に対する観察力や、自分が部下の責任を負う覚悟、高度なコミュニケーション能力が必要とされます。怒られたと感じさせることなく、相手を正しく叱って結果を出し、信頼関係を強めながら状況改善ができるなら、それが一番理想的なのでしょう。

ただ、怒られないと物事の深刻さがわからない人もいるので、怒らない上司の場合は、部下のほうにも、ある程度は上司とうまくやりたいという気持ちや、仕事に対する向上心などの、素養が必要かもしれません。

そのうえで、「怒れない(叱れない)上司」というのは一番ダメだと言えます。部下が問題を起こしたときに、何も言わなければ、反感をかうことはありませんが、問題は何も改善しません。それによって、何度も同じミスが起こる可能性もあります。再発防止のために、時には恨まれる覚悟で苦言も言うのが上司の仕事です。

怒れない上司の多くは、「部下が辞めてしまうかも」「恨まれるかも」と、パワハラやモラハラに発展することを恐れています。しかし、保身に走って部下を育てることができないなら、それは上司としての職務を放棄しているようなものです。「怒れない上司」は、失敗に対して「怒る上司」よりも、無責任な上司だと言えます。

時には割り切ることも大事

厳しい言い方をすれば、会社というのは仕事をする場所です。

ハラスメントはあってはなりませんが、上司の仕事は部下を育てて業績を上げることで、すべての部下から好かれることではありません。正しく叱っても甘やかしても、やる気のない部下や、上司に不満を感じる部下は一定数います。「怒ってはいけない、叱ってはいけない」と、気にしすぎないよう、時には割り切ることも大事です。

そんなわけで、「怒る上司」は「怒る」だけではなく、正しく「叱る」ことができているか、「怒らない上司」は、怒らずとも部下を指導できる能力に長けているか、「怒れない上司」は、もう一度職務を振り返ってみてもよいのかもしれません。

実際にどんな上司が正解かは、配属された部下の性格や性質によるところもあります。上司にいろいろなタイプがいるように、怒られたことをバネに頑張れる部下や、ほめられて伸びるタイプの部下もいます。部下をよく観察して、その部下に合った接し方ができたら、それが一番理想的なのかもしれません。

(Jam : 漫画家・イラストレーター・ゲームグラフィックデザイナー)